米が食いたいのです!
「ーーっっ! どこだ! ゆづか!!」
救いの神!
「カウル!」
わたしは助かったと安堵して、うっかり返事をしてしまう。
「おい、ユズカ」
男に低い声で呼ばれ震え上がる。
「っは、はいっ」
「ほぅ、お前の名前はユヅカというのか。リアだと思っていたが、間違えたか」
「は、え?」
しまった!
普通に返事をしてしまった。
「いや、あの、それは……」
否定しようとしたら、カウルはテントのあった場所から一足飛びに自分と男の元へと来た。
手を光らせ剣を取り出すと、一振りで繁みを切り裂いた。
同時に、男は後ろに飛び退く。
「きゃあ!」
羽交い締めにする腕は緩まず、わたしも一緒に引っ張られた。
「ゆづかっ!! ――っお前はっ……デリクリエンツのクランク!!」
カウルがわたしの後ろの男を見て、表情を凍らせる。
「よぉカウル。無能の総長が。まだトップで偉そうにしているのか」
二人は顔見知りのようだった。
「クランク! ーーっ何しに来た! ゆづかを離せ」
「何しに来た? そりゃあこっちのセリフだ。国境付近で変な動きをしやがって」
「食料を探していただけだ! 俺達はデリクリエンツの領地には入っていない。領地を犯しているのはお前だろう!」
「はっ。食料? 白々しい嘘をつきやがって。こんな森の奥にどんな食料があるって言うんだ」
「それはお前に言う必要のないことだ」
「新種のきのこでも捜してるのか。なんたって、ノーティー・ワンの作物は、リアがみーんな枯らしちまったからな。食糧難で国民は可哀想になぁ」
リアはきっと、デリクリエンツの指示で畑に海水をばら撒いたに違いない。
どっちが白々しいんだか!
バカにされて、唇を噛む。
「お前にに心配されるようなことはない。そして、デリクリエンツの領地にも興味は無い。ゆづかを置いて今すぐ立ち去れ」
カウルが剣先をクランクに向けて構えた。
自分を狙っている訳ではないのに、その殺気にぞくっとする。
クランクは物ともせず、目を細めてニヤついた。
「ゆづかを離せ! 早く!」
「ゆづか、ねぇ。俺はリアに声をかけたと思ったんだけどなぁ」
カウルは、名前を呼び間違えていたことにやっと気がついたらしく、ピクリと片眉を動かした。
「人違いだ。リアは死んだ」
「ほう。やっぱり噂通り処刑したのか。婚約者を処刑するなど、よくやる。カウルは一人の女より、お国が大事だったんだなぁ」
高笑いをされて、カウルは奥歯をぎりっと噛んだ。
「じゃあ、このそっくりな女は何者なんだろうなぁ」
腰に回っていた腕がお腹を締め付けた。うっと呻きが洩れる。
「それも、お前には関係の無い話だ。即刻彼女を離し、ここから立ち去れ! 不法入国で攻撃されても文句はいえんぞ!」
カウルが叫んだと同時に、カウルの背後からみんなの声が聞こえた。
「ゆづか!」
「姫さん!」
茂みから飛びだしてきたカムが、手を光らせ長い槍を出す。
紫の三つ編みが靡いた。
ひゃー格好いい。
予想外の格好良さに目を離せない。
正直、ひょろっとしたカムは警備隊として強いのかと疑問に思っていたが、とんでもない迫力だ。
みんな起きたらしく、勢揃いをした。
クランクをに向かってそれぞれの武器を構えた。
よかった。みんなが来てくれた。
これで助かると、少しだけ安堵する。
多勢に無勢。この状態で、ノーティ・ワンが負けるわけない。
「総長」
カムがクランクを見据えたままボソッと呟き、カウルが無言で頷いた。
足元がざりっと鳴る。
重心を低く、大きく踏み込んだ靴が土にめり込んだ。今にも地面を蹴ろうとしている。
みんなが息を合わせ、一斉に飛びかかろうする寸前に、クランクが高笑いをした。
「揃いも揃って、間抜けなやつらだ」
クランクは腕を大きく振った。
途端に、クランクを中心に甘い香りがぶわっと広がった。
それは目や鼻に強烈な刺激となる。
「うわっ」
「これはっ……!!」
みんなはとっさに顔を布で覆った。
「うっ……」
匂いの中心にいたわたしは、グワンと目が回る。
甘い香りは、体を痺れさせ思考を止めた。
膝がガクッと折れる。立っていることもままならない。瞬きをしたら…そのまますぐにでも気を失いましたそうだった。
視界の端に、泣きそうなライトが映る。
違うんだ。君のせいじゃない。
自分がついて行っていればとか、余分なことは考えなくていいんだぞ。
「っっゆづかっ!! くそっ! ゆづかーー!!」
匂いの靄に阻まれて、カウルの声が遠くなった。
「じゃあな、姫だかゆづかだか知らないけれど、美味そうな女はいただいていくぜ」
ーーーー食べるの?!
デリクリエンツは人を食べる人種なのか。
ああ、料理家最後の人生で自分が食われるなんてーーーー……
そこで記憶が途切れた。




