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米が食いたいのです!

***



夜中に目を覚ますと、当たり前のようにカウルの腕の中だった。トイレに行きたくなって、起こさないように慎重に腕をぬける。


辛うじてテントと呼べるくらいの布を避けて、外へ出た。

まだ夜は明けきっておらず、空は薄暗い。

あと1時間もすれば夜明けだろうか。



焚き火のところへ行くと、番をしていたのは昨日、わたしの我が儘を怒っていた男の子だった。


名前を知ったのは昨夜で、彼はライトという。

リアより年下だった。まだ15歳で、入隊したばかりだと聞く。

ライトは、デリクリエンツとの抗争で父親を失っていた。


抗争の最前線へ送り出したのは、カウルの指揮による。その死に、リアは直接関与はしていないが、抗争の火種を作ったリアを憎んでいた。

城にも街にも、リアを憎む人しか居ない。



「ライト、ちょっとトイレいってくるね。あの、遠くには行かないから。すぐ戻ってくるね。一人で大丈夫なので付き添いは……」

「うるせーな。さっさと行けばいいだろ! 気持ち悪い喋り方しやがって」



ピシャリとさえぎられてしまう。

うん。ちょっと媚を売るような話し方だったかもしれない。気を遣ってこれ以上嫌われないようにと思ってのことだったが、会話って難しい。

ランタンにくべる火をもらうと、野営場所から死角になるところまでゆっくり進んだ。


森の中は色んな音がした。

遠くで獣が吠える声。虫や、風で葉が揺れる音などが、緊張して張りつめた神経にはよく響いた。

真っ暗な森は数メートル先もよく見えなくて、自分が踏み割った枝の音にもビクビクしながら進む。

木々の隙間から、ライトが見守る焚き火が見えなければ、怖くてトイレも行けやしない。


少し進むと、周囲からなんとなく甘ったるい不思議な匂いがした。花でも咲いているのかな、と鼻をひくひくさせる。


用を済ませると、早く戻ろうと足を速める。数メートル歩くと、真横の茂みが大きく揺れた。


――――んん?!


音を聞いた瞬間、冷水を浴びたように、さーっと血の気が引いた。へんな体勢のまま硬直する。

あまりの恐怖に、声も出ない。指一本動かせずに、汗だけが全身から噴き出した。


な、な、なに。何の音だった?!


なんとか音のした方へ視線だけを動かすが、何もわからない。

獣か。ウサギとか鳥とか、可愛いものなら良いんだけど。

に、肉食の獣かも。


嫌な予感がして、野営場所まで走ろうと決意する。震える息で数回深呼吸すると、今度は息を止めて駆けだした。

叫べばいいのに、喉も引き攣って使い物にならない。恐怖に涙が滲んだ。

駆け出すと同時に、ザザザっと葉が擦れる音がした。先ほど物音がした繁みから、黒い影が飛び出す。


「ひいっ!」


足が縺れた。

転ぶ!

体が地面に吸い寄せられようという時、黒い影が飛びかかってくる。


あ、死ぬ。食われて死ぬ。


受け身も取れずに地面へ叩きつけられるのを覚悟したとき、体がなにかに受け止められた。


――――腕!


すんでのところで腕に助けられる。


支えてくれた腕は、お腹を乱暴に引っぱった。


「うぐっ」


強くお腹を締め付けられ、夕食の鍋がリバースしそうになった。

そのまま腕は腰に巻き付き、背中に迫る人間に拘束される。これじゃあまるで、羽交い締めだ。

君は誰だ。ありがとうと言いたいが乱暴過ぎるぞ。



「ったー……」


ずっと気になっていた甘い匂いが強くなった。なんだ、この人の香水だったのか。

でも、そんなお洒落な人、今回の同行者にいたっけ?



驚いて振り向くと、知らない男だった。


「んん!?」

「おっと、叫ぶなって、俺だよ」


てっきり仲間のだれかが助けてくれたのかと思ったが、知らない男だった。


「よう、リア。久しぶりだな」


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