わたしってば天才。裁縫もできちゃうんだな
フェンの妹は、人目を憚って引きこもってばかりいた。そのせいか、小柄で線も細く色白であった。頭を隠すため布を巻き、自信のなさの現れか、それは目元近くまで覆っていて顔は半分しか見えない。
ゆづかを見て顔をこわばらせていた。それは過去のリアのせいに違いない。俯いて喋ろうとしない。早く帰ってくれといった雰囲気が、ありありと見て取れた。
「リア様がなぜこのような所に…」
リアの我が儘で非道な性格は、国民に知れ渡っている。粗相をしたら、どんな報復をされるかわかったもんじゃない、というのが今までの認識だ。両親もリアを恐れて震えていた。
両親が膝をつき深々と頭を下げると、ゆづかも腰を直角に折って、頭を下げた。
「おい、何やってるんだ?」
「え?普通に挨拶をお返ししたんだけど、まずかった?なんかマナー違反だったりする?」
「……いや、そうか。大丈夫だ」
フェンと両親は困惑していたが、カウルは少し面白かった。リアとの違いを見せつけられるたびに、何故か嬉しくなる。
ゆづかは妹が座る椅子の前に移動すると、床に膝をつき跪いた。俯き目を合わせようとしない彼女を見上げ、膝の上で強く握られる拳に手を添える。
「リア姫!」
「何をなさっているのです!」
両親は驚愕する。
一国の姫が床に膝をつけるなど、ましてや庶民より頭を低くするなど、考えられないことであった。
「おまえ、何やって…」
フェンも目を見開いた。
「リア、姫……?」
「あなたの話を聞いて、わたしにも出来ることがないか考えたの。これをどうぞ」
ゆづかは持っていた麻袋から、一晩かけて作ったカツラとやらを取り出す。昨日散切りにした髪は丸みを帯びたフォルムの帽子にに生まれ変わっていた。
「なに、これ……」
「ええとね、カツラっていうの。わたしの元いた国では結構メジャーでね。おしゃれで被ったりもするんだよ。……ちょっと、失礼するね」
毛の束を渡されて戸惑う妹に、ゆづかは立ち上がり頭の布に手を掛ける。妹は生毛しか生えていない頭を必死に隠した。
「元いた国?意味わかんな……あ、リア姫やめてください」
ゆづかはお構いなしに布をくるくると取ってしまうと、かつらを妹にすぽっとはめる。とたんに妹は、髪の毛が生えたように生まれ変わった。肩の上あたりまでの長さとなる。
「まぁ!」
「なんと!」
両親は揃って目を輝かせた。
「わあ、ぴったり!よかった、サイズ合うか心配だったんだ」
「……何これ。え?」
突然生えた金の髪を揺らし、妹は自分の頭に何が起こったのか必死に見ようとした。
母親が慌てて持ってきた手鏡で、自分の姿を確認すると、妹は呆然とした。
「うそ。髪の毛が生えてる……」
「わたしは治せない。けれど、何か出来ることはないかなって考えたの。外出するときとかに、使ってもらえたらなって」
「なんで、だって前は……」
喜びつつも、以前に受けた仕打ちを思いだし妹は複雑そうにした。
「以前は、酷いことを言ってしまってごめんなさい。今はね、そんな過去の自分の禊ぎ中なの。許して貰えるとは思わないんだけど、少しでも役に立ちたくて」
「あの、これ、なんで金の髪……」
「ああ、わたしの髪で作ったの。金なんて目立って嫌かな?でも、わたしとお揃いだよ?どう?だめ?
あ、嫌だったら髪ながい人から提供して貰えれば、他のパターンもつくれるから、それまでこれで我慢してもらえると嬉しいんだけど……。あ、そうだ!色んな色で、色んな髪型を日替わりで楽しめたらいいよね、わたしまた作るからさ……」
「我慢だなんて…!とんでもない…。金の髪は皆の憧れです。国を繁栄させ、民を幸福へ導く女神だけが持てる大切なもの、そんなものをわたしが……」
「ーーーそう。喜んで貰えたならよかった」
ゆづかは、ほっとした顔をした。
カウルはフェンを確かめると、フェンは言葉を失い立ち尽くしていた。
「リア姫様、お気持ちは嬉しいのですが、わたしどもにはこんな高価な物を買うお金は……」
両親は目を見開いたまま声を震わせた。
「お金?いえいえ、差し上げますって」
「はい?!家が10軒買えるほどの価値があるのですぞ?!」
「え、そんなにするの?まぁまた生えてくるんだし。要らなかったら売っちゃっていいですよ?」
ゆづかは貴重さがわからないらしい。
「なんと……」
妹は涙を流して喜んだ。
何度も感謝を述べ、床に頭を擦り付ける。ゆづかは慌てて腕を引き立たせようとしていた。
「おにいちゃんがリア姫に頼んでくれたの?」
「ちげぇよ。こいつが勝手にやっただけだ。それと……」
フェンはフンと鼻を鳴らす。
「ーーーそれとこいつ、生まれ変わったんだか入れ替わったんだかしんないけど、リアじゃなくて、ゆづかって名前らしいから……」
「フェン!」
初めて名前を呼ばれたゆづかは、バンザイをしてフェンに抱きついた。
「あってめえ調子にのんな!まだ許したとは言ってねぇぞ!」
「こらフェン!姫様になんて口の利き方を!すみませんバカ息子が…」
フェンが顔を赤くしている。散々嫌っておいて、今更必要以上の好意など許さないぞ。
「ゆづか!俺以外の男に抱きつくな!」
カウルは、フェンに頬ずりをする勢いのゆづかを、必死に引き剥がした。




