弟子達の心
それはコハクの甥のトリアフォスが、初めての陶芸で作り上げた作品をマデトヤに無情にも叩き割られた翌日のことであった。
「まさかこんなことになっているとは……」
思いもよらぬ展開に、コハクは頭を抱えたくなった。
今、コハクがいるのは王都郊外の森の近くだ。
トリアフォスがしばらく前から世話になっている陶工のマデトヤに弟子が三人もいたと聞いて、いったいどんなもの好き達が、と好奇心がうずいたコハクはその三人がどうしているのかを軽い気持ちで調べた。
結果、弟子だった三人の誰もが留守で、隣近所に聞いても行く先を誰も知らず、いつ帰るのかも分からないという。
さすがに、元弟子達の三人共が同時期に行方知れずというのは偶然ではなかろう、と捜索したのだが。
なんと弟子たちは詐欺集団に捕まっていた。
その詐欺集団は高値で売れるマデトヤの作品に目をつけ、マデトヤの元弟子であった三人を脅して贋作を作らせ、売りさばこうと企んでいた。
「あんな頑固親父にこき使われたあげく、犯罪の片棒を担げと脅されるとは、なんと運のない……」
草むらの影で詐欺集団の拠点を窺いならコハクは弟子達に同情する。
今日もせっせと肉体労働をしているトリアフォスの元へ顔を出したいが故に、さっさと詐欺集団をコクヨウに制圧させてもいいのだが、しかし、なかなかどうして、弟子達の様子が面白いのでついつい観察してしまう。
「いいですか! 良い焼き物は良い窯が要るのだと言っているでしょう! こんなチンケな窯でお師匠様の贋作が作れると思ってるんですか! 高温に耐えられる窯でなければ焼けませんよ!」
「これっぽっちの薪で何を焼き上げろってんだ! お師匠の作品はなあ、魔道具なんか使わねえ! 薪で地獄の業火にも負けねえ勢いで焼き上げんだよ、文句垂れてねえでさっさと薪を割りやがれ!」
「まさかこんな粘土とも言えないような土で作れって言ってます? こんな土をいくら練ったところで師匠の贋作はおろかそこらにあふれている日用品だって作れやしませんよ。まずは陶芸に使える粘土を手に入れてくれませんか?」
あの弟子にしてこの弟子あり、だ。
コハクは笑い声を立てないように口元を覆った。
詐欺集団にも怖じ気付くことなく、喧々囂々と言い返せる弟子達が泣いて謝り、辞めていったというのだから、マデトヤはよほど厳しい指導をしたのだろう。
至高の作り手が良き導き手になれるかと言われれば、そうではないのだからもう少し考えれば良いものを。
もう少し面白い弟子達を見ていたかったが、詐欺集団もそろそろ限界らしい。遠目に見ていても堪忍袋の緒が切れそうだった。
「コクヨウ、頼む」
「御意」
こうして、詐欺集団はお縄になり、駆けつけた騎士団に連行されていった。
「ありがとうございました~!」
「もうダメかと……!」
「助けてくださりありがとうございます!」
コハクは泣いて感謝する弟子達を宥め、とりあえず落ち着かせた。
「災難だったなあ、あの偏屈な爺さんに弟子入りしたばっかりに」
「お師匠をご存知なんですか?」
「ああ、今兄への贈り物を作ってもらおうとしてるんだが、難儀している。
雑用係として甥が住み込んでいるんだが、その甥が作った作品を断りもなく割られてなあ。まったく信じられん。
腕前は確かに良いんだろうが、指導者としての才はないんだろうなあ。
あんたらもあんな偏屈で頑固な爺さんに弟子入りしてしまったのは運が悪かったと思って、気にするな。他の陶工に弟子入りをしてみたらどうだ? 紹介しても――」
「「「いいえ!」」」
そう提案したコハクを弟子達は勢いよく遮った。
「いいえ、いいえ! 師匠は悪くありません!」
「師匠の作品をご覧になったことはあるでしょう? 師匠はすごい人なんです!」
「あんなすごい人の側に二年もいて、なんにも身につけられなかった僕らが悪いんです……!」
「えぇ……」
弟子達の剣幕にコハクは思わず体ごと引いてしまった。そして、こんなにやる気に満ち、師匠を未だ尊敬している弟子達の心を折ったマデトヤがどれだけひどい教え方だったのか、改めて実感することになった。
「そんなに自分を責めてやるな。普通はあんな魔道具もない山奥で、自給自足の重労働をこなしながら満足のいく創作活動なんてできっこないんだから。
超絶体力バカなあの爺さんが異常なだ、そんな異常個体と自分を比べるもんじゃない」
「それは……」
「そうかもしれませんが……」
「でも……」
弟子達は納得できないようだった。それも仕方のないことだろう。
ただの通りすがりに何を言われても納得できようはずもない。
ただ、これだけは伝えて起きたかった。
「あの爺さんはあんた達が惚れ込むような、そりゃあすごい腕前をしているが、教え方はぜんぜんダメだぞ。教師にはまったく向いていない。いや、まあ、同じ感性の持ち主なら大丈夫かもだが……」
思い当たるフシがあったのだろう、弟子達のはみんな視線をそらした。
「でも……本当に師匠はすごい人で……」
「だから、お師匠についていけるように体力をつけてるんです」
「いつか師匠の教えについていけるようにって」
「努力するのはいいことだし止めやしないが、教わる方にだって向いている教わり方があるのだし、師匠というなら教え方も工夫しないとダメじゃないか? 私個人の考えだが」
黙ってうつむいてしまう弟子達に、コハクは考えた。
例えば手順を言語化して表にするとかどうだろう。
マデトヤは感覚派なので言語化は難しそうだが、トリアフォスのためにも可能な限り聞き取りをして言語化し、手順書を作成しておくべきだろう。
初めて焼き上がった作品をマデトヤに割れれたトリアフォスだったが、めげずに今も手伝っているのだし、マデトヤがまた弟子を取ったら役に立つかもしれない。
手順書作成のためにもさっさとマデトヤの窯元に向かうとしよう。
「私はこれで失礼しよう。三人とも気をつけて帰れよ」
そう言って去って行くコハクの背中を弟子達は見送った。
この時コハクが作成した手順書はトリアフォスが帰る時にマデトヤへ渡され、のちのちの弟子教育に活かされることになるのだった。




