第一章 ④
未知の引越しの手伝いを億劫に思った紫音は、よく通っているゲームセンターへと足をのばす。
するとそこでなずなという少女と出会った。なずなとのゲームに夢中になり、気づけば夕方になっていたので、紫音はなずなと別れて帰途についた。
帰り道、僕は夕日に手をかざしながら歩いていると見知った顔を見つけた。未知だ。
こんな時間だし、普段なら知り合いがどこへいこうと興味はないが、未知となればそれは別だ。密かに後をつけて弱味を得ずにいられるだろうか。
未知は僕の予想より遠くへ行くようで、一瞬帰宅願望が頭を占めるが理性で立て直す。弱味っ弱味っ、弱味っ…ぐへへ。
夢中で未知を追っていたら、いつの間にか日は暮れて辺りには月の淡い光が溢れていた。未知が人目につかない行き止まりの小道に入っていたのでそのままついていくと突然、大声が耳にはいる。
「私についてきてるのだぁれ?」
どうやら尾行がばれたあげく、まんまと誘いこまれたらしい。
「僕だ」
ここまできては変に逃げてしまうより素直に謝る方が得策だ。
紫音は頭を垂れて、両手をあげながら未知の前に歩いていく。
「あなたは…誰?」
「紫音だよ、紫音」
「紫音?」
こいつ忘れてるのか?
紫音は顔をあげると未知のことをじとっと睨む。
長い黒髪に紺色のマフラーを身につけた彼女は月の光に照らされてなんだか昼間とは別人のような雰囲気だった。
未知は顔の右半分に白い仮面をつけてとぼけた表情で僕をを見ていた。
「…あのー…ほら、昼前に全裸を見られた紫音っていったら思い出す?」
僕としては思い出したくはないが、女の独り歩きを見知らぬ男がつけたとなればぶた箱行きは免れない。否が応でも未知には僕を思い出してもらわなくてはならない。
「あーっ!あの全裸赤マントの人っ!あはは」
未知は紫音を指差すと思い笑いをする。
「ははは…思い出してくれたみたいで何よりだよ…ははは…」
僕の高校では思い出し笑いをする人はエロいと言われていたが本当なんだろうか。未知はエロかった…?
未知は落ち着きを取り戻すと紫音の方へ向き直る。
「へーあなたが…うぷぷ」
「あのーそろそろ泣いてもいい?」
「あー悪い悪い、で?どうして後をつけてきたの?」
「ん?それはその君の弱…君の美しい後ろ姿に引かれて気づいたら追いかけてしまっていたよ」
君の弱味を握るために追いかけた何て言えるわけもなかった。
「そうてっきりコアなファンにでもつけられたのかと思った」
ファン?学校にファンクラブでもあるのか?まぁ美人だしね、そんなことがあってもおかしくないね。
「お前はこんな遅くにどこに行く気だったんだ?」
「病院だけど」
そういって未知は近くの白い建物を差す。
「どうしてそんなところに…」
「出会いはきっと必然、でもこれはたぶん偶然」
突然のポエム。十中八九一般人なら突然なんだよと切り返すところをあえて裏切ってみるのもありだろう。
「三点だ、十点満点でな」
「うわーひどいっ」
「で、突然なんだよ」
「とくに意味はないけどー、評価されるなら十点満点目指したいね」
未知は近くにあるボロボロになっている非常口のドアノブに右手をかける。
「あっおい、もう帰らないと母さんが心配する…」
「じゃあまたね、紫音」
未知は話を聞かずに扉を開けてその向こうへ行ってしまう。
ここまで来たらせっかくだし最後まで追いかけようと紫音は謎の使命感に押されてドアを押し開くが未知の姿はもうそこになかった。
「あれ?いない」
奥は薄暗く見通しが悪い。この先へいってしまったというなら追いかけるのは難しいだろう。
何となく既視感のある状況だったが追跡を諦めた今、僕のこの胸を満たす思いは無駄骨の気苦労と強い睡眠欲だった。




