第一章 ①
前書きに各話のあらすじが書かれています。
駅のホームの最前方、定位置につき電車の到着を待つ。駅の電光掲示板の時刻のとおりに電
車が着くと奴らの姿が目に入る。
また”鳴らしてチルドレン”だ。
三限登校の日にはいつもこの”鳴らしてチルドレン”に会う。扉が開き、僕が電車に乗ろうとすると”鳴らしてチルドレン”は降りてきて運転手に向かっていつもこう叫ぶ。
「ならしてー!」
「ならしてくだざぁーい!」
「なぁらぁじぃでぇー!!」
最後の子はこれに命でもかけていそうなほど必死だったがまぁどうでもいい。
帽子や制服から察するに近所の幼稚園児とおぼしき”鳴らしてチルドレン”はあきもせずにこうして電車の汽笛を要求する。
黄色の帯がいやに目立つ車両の先頭、僕は空いた所を探すこともせずいい加減に日向側の椅子に腰かける。扉が閉まり、運転手がぷわぁーんと単調な汽笛をならす。ホームからは”鳴らしてチルドレン”のきゃっきゃっと喜ぶ声が聞こえる。
「ありがとー」
「ありがとぉー」
「あぁりぃがぁどぉーっ!」
やっぱり最後の子…、さっきも思った気がする。
僕は彼らに興味をなくし、ゲームをしようとスマホを手にする。しかし日光が反射してよくみえなかったので、やはりいつも通りイヤホンをして目を閉じた。
大学につき、講義棟に入る。授業は退屈だが、睡眠時間と考えればそれほど苦痛というわけでもない。あっという間に授業が終わり、すぐに家に帰ると自室でエロゲーをする。ルーチンワークと化したこれらの行動は僕に明日の退屈さを押し付ける。
「紫音ー、ごはんよ。はやく降りてきなさーい」
「はーい、待ってて母さん」
僕は母さんの三度目の呼び掛けでやっと動き始める。
紫音はエロゲーを中断すると部屋をでて、階段を下る。一階にはいつもの晩飯の匂いが漂っていた。席につくと淡々と料理を口に運ぶ。料理は決して不味くないが、別段美味しということもなかった。
「明日はサプライズがあるわよー」
突然、小太りな紫音の母はニヤニヤしながら食卓の向こう側にいる紫音に話しかけてきた。
夕方に美容院に行ったとかで母さんの髪の毛は無駄につやつやしている。
「サプライズ…?」
悪寒を感じる。間違いなくろくでもないことだ。母さんがこの表情をしていて僕にいいことが起こった試しは生まれて20年一度もなかった。
「そうサプラァイズ、楽しみにしてて」
「ははは…」
それにこんな笑顔、もはや明日が僕の命日になったって驚かない。
それ以降、二人の間に特に話題もなく、紫音は黙々と箸を進めた。
「ごちそうさま」
紫音は食事を終え、食器を片付けると足早に自室に戻る。
「あとでお風呂洗っておいてねー」
「わかったー」
紫音は母親にいわれた風呂掃除、自室に戻りエロゲー、入浴を順番にこなして寝床につく。
明日は土曜日、休日であり…ついでに妹の朱音の誕生日だ。妹は日本の優秀なバレリーナとして父と二人で海外に留学している。そういえばもう一年近く会っていない…。朱音は…どうしているだろう…。
思考がまとまらぬうちに紫音は眠りにつく。寝床での思いは夢と混じって曖昧になる。
重しを足につけて海底から上に泳ぐ夢をみた。足掻けばより苦しくなり、何もしなければな
ぜか足掻いた時よりよっぽど辛く苦しかった。




