夢にみたもの
まさかこんなに更新期間があくなんて…
面目次第もございません。
待っていてくださった方々に、心からの感謝を!!!
ゆらゆらと
まるで水面を漂うような
そんな心地よさを感じる
護られている、と
そう感じられるほどの安心感に
浮上してきた意識が再び沈みそうになるのをなんとか堪える
でも、どうして?
ひさしぶりの憂有紀との飲み会
相変わらず容赦ない、けれど間違いなく正論だと分かる憂有紀の言葉に
改めて自分の気持ちと向き合い
この何週間か抱えていたもやもやをようやく解消することが出来たところまでは覚えてる
それなのに今の状況が全く分からないってことは
……つまり「やってしまった」わけで
うぅ…
この年になって記憶を失うほどに呑むって…
我ながら情けなさ過ぎるけど
色々と煮詰まっていたのを自覚しているだけに
分からなくもないけどさ、と自分を慰めてみたりして
それでも、これ以上の迷惑を憂有紀にかけるわけにはいかないし
なんとか起上らないと
いつのまにかあの心地よい身体の揺れも収まり
ふわりと柔らかい場所に下ろされたのを感じて
少しずつ身体に力をこめて覚醒を促す
遠くに聞こえる話し声に、少し違和感を感じるけれど
思考は全然追いつかず
とにかく目を覚まさなきゃと意識を集中させる
ふぅっと身体が浮き上がるような感覚とともに
ようやく目を開くことに成功した、と思ったんだけど
「あ、れ?かたひらくん?」
目に飛び込んできたものに
あぁ、まだ夢を見ているのかと覚醒失敗を悟った
「亜季さん、良かった。目、覚めたんですね。具合はどうですか?」
うん?
膝をついて目線を合わせてきた片平君の幻が、優しく声をかけてくる。
でもこれって……
あまりにもリアル過ぎて幻とは思えないんですけど
「亜季さん?やっぱり具合悪いですか?」
「え?いや、具合?うん、大丈夫。…あれ?」
心配そうに再度問いかけられて返事を返すも、自分でも最早何を言っているのか分からない
支離滅裂の返事に、それでも片平君の幻(お願い、そうだと言って)は小さく笑った
「片平君、…本物?」
「本物ですよ。とういか、偽者っているんですか?」
最後の希望に縋って恐る恐るたずねると、なるほどおよそ彼にしか出来ないだろう
いつもの爽やかな笑顔に少しいたずらっ子のような光を宿した瞳でそう返された
どうやら本物のようだ
「えぇー!!っていうか、何で?何で片平君がいるの?え?夢じゃないとかありえない。憂有紀は?え、今どういう状況?」
がばりと起上り、混乱のまま叫ぶ私に
片平君は少し驚いたように身を引いたあと、「そんなに突然起上って大丈夫ですか?」と
相変わらず優しくこちらを気遣ってくれて、手にしていたミネラルウォーターのペットボトルを渡してくれる
ありがたく一口頂いて
ふっと息をつく
恐る恐る隣を伺い見ると
それに気付いた片平君がにこっと笑う
それからすぐにこれまでの経緯を説明してくれた
酔いつぶれた私を起こそうとしていた憂有紀に気がつき、声をかけたこと
内容までは教えてもらえなかったけど、どうやら二人で色々と話したらしく
二人で私を家まで送ってくれたこと
ついさっき、憂有紀の彼氏が迎えに来て帰っていったこと
とりあえず、何かあると大変だからと片平君が様子を見る為に残ってくれていたこと
「そっか…なんか、本当にごめんね?すごく迷惑かけちゃったよね。もうほんとみっともない。」
話を聞くうちに、あまりの自分の不甲斐なさというか、だらしなさ?にどこまでも自己嫌悪に陥っていく
まさか、大学生の彼にこんな迷惑をかけるなんて
……ましてや、絶賛片思い中の相手に、こんな情けない姿を見られたうえに介抱までされて
さすがの私も落ち込まないわけがない
「みっともないなんて思わない。ただ、亜季さんがそんな無防備な姿を見せるのは俺の前だけであって欲しいとは思うけど。」
「え?」
自己嫌悪に陥って顔も上げることが出来ずにいたけど
片平君の言葉に思わず顔を上げる
一瞬聞き間違えかなと思ったけれど
顔をあげて見えた片平君の表情があまりにも真剣で、思わず息をのむ
「亜季さんから見たら、俺なんて全然子どもだって分かってる。まだまだ学生だし、社会の厳しさにもまれた経験もない。
それでも、亜季さんが笑うのは俺の隣であって欲しいし、亜季さんが涙を見せる相手は俺だけだあって欲しいと思ってる。」
片平君の言葉に心臓が早鐘のように脈打つ
「不安にさせることは絶対にしないと誓うから、亜季さんの無防備な姿を俺にだけ見せて欲しいと思ってる。」
あまりの驚きに声も出ない。
まさかのドッキリ企画か、なんて一番ありそうな思いもよぎらないほど
片平君の表情が、声が真剣で
「亜季さんが好きです。」
逸らすことすら許されないほどに強い視線に、
その口から紡がれた言葉にひゅっと息が止まる
…亜季さんが好きです…
まさかの告白に思考が追いつかない
だって、片平君へのこの想いを大切にしたいって、結果はどうあれ、必ず伝えようって
決意したのはつい数時間前のことで
それだってどちらかと言えば玉砕覚悟、当たって砕けろに近い立ち位置だったはず
それが、まさかのこの展開
「好き?」
呆然と思わず聞き返してしまった私に
「はい。亜季さんが好きです」と片平君が優しく微笑う
「亜季さん?」
瞬きすら出来ずに見つめていた片平君の表情が驚きへと変わる
はっきり見えていたはずの彼の顔が今は何故か滲んで見えない
「亜季さん、どうして泣くの?」
片平君がすっと手を伸ばして,そっと目元に触れてくる
反射的に目を瞑って、零れ落ちた涙にいつの間にか泣いていたことに気付く
本当に?と問いかけたい気持ちが溢れるけれど
なんとかその衝動を堪える
信じられないのは、彼ではなく「私」に自信がないから
それなのに、こんなにも真剣に向き合ってくれている彼にそれを問うことは出来ない
「うれ、しくて。だって叶わないと、思ってたから。」
言葉を発するたびに溢れてくる涙に
片平君がちょっと困ったように笑いながら、それでも優しく涙をぬぐってくれる
「……亜季、好きです。俺と付き合ってください。」
シンプルな言葉
何の飾り気もない、けれどどんな言葉より彼の気持ちの全てがこもったと思える言葉
そして、彼から聞きたかった唯一つの言葉
「私も、片平君が好き。あなたの隣にいるのはいつだって私でありたいし、私もあなたを護りたい。片平君よりも6つも年上だけど、片平君が思ってるほど全然大人じゃないし、こんな失敗もしょっちゅうだし、あきれられちゃうかもしれないけど。それでも一緒にいられるならどんな努力も惜しまない。どうか、あなたと一緒にいさせてください。」
伝えたかったことの100分の1も言えてないけれど
ただ護られるだけじゃなく、私だって片平君を護りたい
一方的な重荷になるのではなく、お互いを支えあえる関係を築きたい
その瞬間、ぎゅっと片平君に抱きしめられて
驚いて涙も止まる
強く強く抱きしめられて
「…良かった…」
そう小さく呟いた片平君の言葉に、彼もまたかなり緊張していたのだと知れて
またあふれ出しそうになる涙と共に私も強く彼を抱きしめ返した
ジリリリリリ
聞きなれた音に目を覚ますと
傍らに感じるぬくもりにほっと安心して起こさないようにそっと静かに起上る
コーヒーメイカーを素早くセットしてその間にさっとシャワーを浴びる
コーヒーのいい香りが漂う中
朝ごはんの準備をして
さて、と後ろを振り向こうとした瞬間ふわりと抱きしめられる
「亜季、おはよう。」
耳もとでささやかれた言葉にくすぐったさを感じながら、体の位置を変え挨拶を返す
「おはよう。ご飯出来てるよ。早く顔洗ってきて食べちゃおう。」
「ん、」
離れていく体温に少し寂しさを感じていまい、そんな自分に苦笑する
いつの間にか、隣に彼の体温を感じることが当たり前になっていて
その幸せに、それでもまだ足りないのかと自分の貪欲さには苦笑せずにいられないけれど
片平君、…圭吾はそんな私も受け入れてくれいてるから、時々あきれはしても悩むことはしない
あれから1年
圭吾は無事大学を卒業して、今はれっきとした社会人
入社半年の頃にお互いの親にきちんと挨拶をしたうえで同棲を開始した
結婚は、圭吾の仕事がもう少し落ち着いてからゆっくり考えようって話し合って決めたけど
圭吾は出来るだけ早く、と望んでくれている
社会人になった圭吾はますます「かっこいい」男になっていて、
学生の時以上に女性にもてていることは間違いないみたいなんだけれど
あの時誓ってくれたように、いつだって彼は気持ちをストレートに表してくれるから
不安になったり焦ったりなんてことはない
現実は厳しいとは知りつつも、
それでも、夢見ずにはいられなかった幸せな生活
愛されているという実感を、大切にされているという実感を圭吾はいつだってくれるから
愛していると、あなたが何より大切なのだと
歪むことなくまっすぐに、圭吾に気持ちが届くように私も伝えていきたい
完全週休二日制の圭吾は土曜の今日はお休みだけど
私は半日勤務
せっかくのいい天気に少し残念だけど
ずっと続きていく未来に
焦る必要もない
いつもどおりの通勤スタイルで靴を履くと
玄関まで見送りに出てきてくれた圭吾に「行ってきます」と挨拶をする
彼に出会う前までの味気ない日常
1人で生きるのも悪くないなんて強がっていたあの頃
「行ってきます」の挨拶も人気のない部屋にただむなしく響くだけで
単なる通過儀礼の一つと化していた
だけど今は
挨拶を返してくれる人がいる
毎日の無事を祈ってくれる人がいる
「行ってらっしゃい。気をつけて。」
優しく微笑うその姿に小さくうなづいて家を出る
キラキラと太陽に照らされて輝く世界
あぁ、私は今、間違いなく最高に幸せだ―――。
これにて本編完結です。
初めての小説、未熟なばかりのものでしたが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
最後までお付き合いくださった皆様に地球丸ごと一個分(え!?少ない?)の感謝を送ります♪




