第九十六話 忙しくて会えなかった受付嬢と元童貞神父が、罵倒されながら本気で子作りすることになりました
街が観光地になってから、受付のお姉さんは本当に忙しかった。参拝客が増え、商人が増え、護衛依頼が増え、冒険者も増えた。歓楽街が広がれば揉め事まで増える。虎獣人と女戦士の宿のような新しい名物までできて、ギルドは朝から晩まで人が途切れない。
一方の元童貞神父も暇ではない。神殿では妊産婦支援、避妊、性病対策、歓楽街への衛生指導まで始まり、相談者も講習も増えた。
二人とも同じ街に住んでいる。
なのに。
ほとんど会えなかった。
*
「……久しぶりですね」
「ええ。本当に」
ようやく予定の合った夜、二人は受付嬢の部屋で向かい合っていた。
「何日ぶりでしょう」
「数えるのをやめたわ」
「私もです」
受付嬢はしばらく元童貞神父を見つめていたが、やがて扉へ鍵を掛けた。それから棚の奥から、黒い革の首輪と目隠し、それに柔らかな拘束具を取り出す。
「今日は、そちらですか」
「嫌?」
「いいえ」
「なら、ご主人様と呼びなさい」
「……はい、ご主人様」
そこで受付嬢は少しだけ笑った。
「それと、今日はいつもの遊びだけじゃない」
「何でしょう」
「避妊守りを使わない」
元童貞神父の表情が変わる。
「……本気ですか」
「本気よ。ずっと考えてた」
受付嬢は彼の正面へ立ち、珍しくまっすぐな声で言った。
「私、あなたとの子供が欲しい」
「……」
「忙しくて会えないから勢いで言ってるんじゃない。あなたと家庭を作りたい。だから聞くわ」
一度だけ。
遊びの顔をやめる。
「私との子供、欲しい?」
「欲しいです」
「本当に?」
「はい」
「父親になるつもりで?」
「はい」
受付嬢は目を閉じ、小さく息を吐いた。
「そう。なら安心した」
そして再び。
ご主人様の顔。
「じゃあ座りなさい」
*
拘束する前の確認は、いつも通りだった。
「後ろ手。痛かったらすぐ止める」
「はい」
「目隠しもする」
「はい」
「今日は猿轡まで使う。だから口を塞いだ後は喋れないわよ」
「分かっています」
「止めたい時は、つま先で床を三回」
「はい」
「二回は確認、一回は問題なし」
「はい」
「よろしい」
しばらくして、元童貞神父は全裸で床へ座らされていた。後ろ手を拘束され、目隠しをされ、口には猿轡。脚は大きく開いた状態で、もう言葉を発することはできない。
「……」
「普段はあんなに理屈ばかり言うのに、今は何も言えないのね」
「ん……」
「そう。そのくらいしか声も出ない」
受付嬢が頬を撫でる。
「かわいい」
*
しかも、その夜のご主人様はそれだけでは満足しなかった。
用意されていたのは、小さな性欲増強の御守り。
振動術式付き。
一つではない。
複数。
元童貞神父の身体へ身につけさせ、さらに受付嬢自身にも同じものをいくつも装着する。
「今日はご主人様も一緒よ」
術式。
起動。
最初の一つ。
小さく震える。
「……っ」
二つ目。
別の周期。
「んっ……!」
三つ目。
さらに違う振動。
「んんっ……!」
元童貞神父の肩が跳ねた。
「まだ始まったばかりでしょう?」
受付嬢の声が近づく。
「そんなに震えてどうするの」
「……っ、ん!」
「何? 聞こえないわ」
答えられない。
猿轡がある。
ただ。
振動が重なる。
「ぉ゙っ……!」
喉の奥から。
濁った。
短い。
声。
「ぉ゙っ……ぉ゙っ……!」
「あら」
受付嬢。
目。
細くなる。
「その声、好き」
*
また刺激。
重なる。
「オ゙ッ……オ゙ッ……オ゙ッ……!」
声というより。
濁った息。
身体。
大きく。
震える。
限界を迎えるたび、脚や腹が勝手に跳ねる。
「オ゙ッ……! オ゙ッ……!」
「また?」
受付嬢。
笑う。
「まだ何もしてないのに」
「オ゙ッ……オ゙ッ……!」
「そんなに何度も震えて」
元童貞神父。
答えられない。
ただ。
「オ゙ッ……!」
また。
身体。
跳ねる。
*
そして。
受付嬢の方も。
余裕。
消える。
「……っ」
自分の御守りも。
複数。
違う周期。
震える。
「オホッ……!」
一つ。
「オホォッ……!」
二つ。
重なる。
「オホッ、オホォッ……! ちょ、これ……奥まで響く……!」
下腹の奥まで響くような振動に、受付嬢の脚がわずかに震える。
「オホォォッ……! こんなの……仕事で疲れてる時に使うもんじゃ……オホッ!」
それでも。
目の前を見る。
拘束。
目隠し。
猿轡。
普段は真面目な神父。
今は。
「オ゙ッ……オ゙ッ……オ゙ッ……!」
快感に震え続けている。
「……ヤバ」
受付嬢。
呼吸。
さらに。
乱れる。
「それ見てる方が……オホッ……! 来る……!」
*
「もっと見せなさい」
御守りの出力を少し上げる。
「オ゙ッ……!」
「そう」
「オ゙ッ、オ゙ッ、オ゙ッ……!」
「もっと」
身体。
痙攣。
「オ゙ッ……!」
「ご主人様に見せて」
「オ゙ッ……オ゙ッ……!」
受付嬢自身も。
「オホッ……!」
身体。
震える。
「オホォッ……! ほんと……あなたがそんなになるから……!」
元童貞神父。
また。
大きく。
跳ねる。
「オ゙ッ……!」
「オホォォッ……!」
二人。
同時。
震える。
*
「ねえ」
受付嬢。
息。
荒い。
「普段は神学だの、教義だの、理屈ばっかり言ってるくせに」
「……」
「今は何も言えない」
「ん……!」
「それどころか」
また。
御守り。
震える。
「オ゙ッ……! オ゙ッ……!」
「ご主人様の前で、何度もこんなになってる」
受付嬢。
自分も。
「オホッ……! オホォッ……!」
歯。
食いしばる。
「ほんと……役立たず」
「……!」
「もし、それすらできなくなったら」
耳元。
「お前に何が残るの?」
元童貞神父。
身体。
強張る。
「説教?」
「……」
「神学?」
「……」
「真面目な顔?」
受付嬢。
笑う。
「そんなものだけで、ご主人様を満足させられる?」
「んんっ……!」
「無理よね」
*
かなり酷い。
言葉だけなら。
だが。
二人とも。
知っている。
本気ではない。
受付嬢は普段の彼を尊敬している。
神官としての仕事も。
人柄も。
真面目さも。
全部。
知っている。
だからこそ。
遊びの中だけ。
徹底的に。
否定する。
「役立たず」
「……!」
「でも」
身体。
近づける。
「ご主人様は、その役立たずの子供が欲しいの」
元童貞神父。
動き。
止まる。
「私を母親にして」
「……!」
「あなたの子を、私のお腹で育てさせて」
「んんっ……!」
その瞬間。
また。
御守り。
刺激。
重なる。
「オ゙ッ……! オ゙ッ……! オ゙ッ……!」
「オホッ……! オホォォッ……!」
受付嬢。
もう。
完全に。
余裕。
なし。
*
「そう」
受付嬢は正面から元童貞神父の身体へしがみつく。
「それでいい」
「オ゙ッ……!」
「ご主人様を孕ませろ」
「……!」
「子供が欲しいって言ってる女を」
一拍。
「いつまで待たせる気?」
「オ゙ッ、オ゙ッ……!」
「オホッ……! そう……!」
自分から身体を重ね。
また。
振動。
「オホォッ……! オホォォォッ……!」
受付嬢の声。
さらに。
崩れる。
「オホッ……! オッホォッ……! あ、これ……また……!」
元童貞神父。
「オ゙ッ……! オ゙ッ……!」
「オホォォッ……!」
*
長い夜だった。
ただし、無茶だけはしない。
一定時間ごとに御守りを止める。
猿轡。
外す。
目隠しも少し上げる。
「大丈夫?」
「……はい」
「手、痺れてない?」
「大丈夫です」
「水」
「ありがとうございます」
「御守りの出力、下げる?」
「……このままで」
「変態」
「ご主人様に言われたくありません」
「何?」
「いえ」
受付嬢。
少し。
笑う。
「まだ続けたい?」
「はい」
「子供、本当に欲しい?」
「はい」
「私を母親にしたい?」
「はい」
「よろしい」
猿轡。
戻る。
「じゃあ、また喋れなくなるわよ」
*
御守り。
再起動。
「……!」
一つ。
「んっ……!」
二つ。
「オ゙ッ……!」
三つ。
「オ゙ッ、オ゙ッ……!」
「早いわね」
受付嬢。
自分も。
「オホッ……!」
震える。
「オホォッ……! またこれ……!」
下腹。
奥。
響く。
「オホッ、オホッ……! オホォォッ……!」
目の前。
元童貞神父。
「オ゙ッ……オ゙ッ……!」
「そう」
「オ゙ッ……!」
「もっと震えろ」
「オ゙ッ……オ゙ッ……!」
「ご主人様に見せろ」
受付嬢。
自分も。
限界。
「オホォォォォッ……!」
*
何度目か。
受付嬢も。
完全に疲れ。
元童貞神父も。
力。
抜ける。
それでも。
元童貞神父が刺激に震えると。
「オ゙ッ……!」
受付嬢。
反応。
「オホッ……!」
その姿を見るだけで。
「オホォッ……!」
また。
興奮。
戻る。
「あなた……」
息。
荒い。
「ほんと、その痙攣するの……ズルい……!」
「ん……!」
「見てると、ご主人様までまた欲しくなる……オホッ……!」
*
最後の休憩。
猿轡。
外す。
「……ねえ」
「はい」
「今日、かなり酷いこと言ったけど」
「はい」
「嫌じゃなかった?」
「嫌ではありません」
「本当に?」
「はい」
元童貞神父。
少し。
笑う。
「あなたが、私を罵倒する時ほど」
「何?」
「実際には私を信頼しているのを知っていますから」
「……」
「ですから平気です」
受付嬢。
黙る。
「そういうところ」
「はい?」
「ずるい」
「何がです?」
「ご主人様がせっかく、お前には何も残らないとか言ってるのに」
「かなり酷かったですよ」
「愛情読み取るな」
「無理です」
「どうして?」
「あなたですから」
*
受付嬢。
顔。
赤くなる。
「……黙れ」
「はい」
「今は猿轡なしでいい」
「分かりました」
受付嬢。
抱きつく。
「好き」
「私もです」
「子供欲しい」
「私も欲しいです」
「父親になってくれる?」
「はい」
「私を母親にしてくれる?」
「はい」
*
少し。
静か。
だった。
でも。
「ねえ」
「はい」
「もう一回だけ」
「……まだするのですか?」
「御守り」
「そちらですか」
「ご主人様に口答え?」
「いえ」
「なら座りなさい」
*
翌朝。
神殿。
元童貞神父。
来る。
顔。
かなり。
眠そう。
ギャル。
見る。
「童貞神父、死にそうじゃん」
「もう童貞ではありません!」
「そこだけ元気」
「訂正はします!」
「昨日何してたの?」
「私生活です」
「受付のお姉さん?」
「……」
「図星」
「個人情報です!」
*
その頃。
ギルド。
受付のお姉さん。
いつも通り。
「次の方、どうぞ。護衛依頼はこちら、討伐報告は二番窓口へお願いします」
笑顔。
完璧。
仕事。
早い。
誰も。
知らない。
昨夜。
この女が。
「オホッ……!」
「オホォッ……!」
「オホォォォッ……!」
と。
何度も声を上げながら。
愛する男へ。
子供が欲しいと。
本気で頼んでいたことを。
*
昼休み。
受付嬢。
机の下。
自分の腹。
そっと。
触る。
「……」
まだ。
何も。
分からない。
でも。
少し。
笑う。
*
数日後。
神殿。
「ねえ」
ギャル。
「何でしょう」
「最近、童貞神父、ちょっと機嫌よくない?」
「普通です」
「絶対なんかあった」
「普通です」
「受付のお姉さんと」
「普通です!」
「童貞神父」
「もう童貞ではありません!」
その訂正だけは。
以前より。
ほんの少し。
誇らしそうだった。




