46話 天照祭③ 世界でいちばん輝いていたい
◇
俺たちは伴奏。歌うのはソフィア。
ギターにベースにドラム。ジェット隊はピアノはそのまま。ヴァイオリンはやめてトランペット隊に変わる。
セットしておいたマイクスタンドの前に、ソフィアが立つ。
この光景はマジックネットで国中に放映されている。
「皆様ご機嫌よう。私は、ソフィア・ルナリア・デアソリスです」
配信ボットに向け、語りかけるソフィア。
「今日まで、王都に住まう皆様には多大な苦労をおかけしたと思います。治安維持に協力して下さった、街の自警団の方々、騎士の皆様、国民の皆様。本当にありがとうございます。今日の天照祭で、必ず雨を晴らします。その後の復興に向け、もうしばらく皆様のお力をお貸しください」
ソフィアが深く礼をする。王族が頭を下げるのは珍しい事らしいが、今ばかりは頭も下げたくなる。
一人一人の意識と協力がなければ、この難局は乗り越えられない。
俺も雨が上がったら、チョージについてって街の復興を手伝おうかな。
「去年まで歌姫を務めていた、母、マリアンヌが身罷られ、今年から私が歌姫となりました。代替わりに伴う不安も大きい中、例年ではあり得ない悪天候。非常に苦しい生活を強いられたことと思います。私、ソフィア・ルナリア・デアソリスは、必ず儀式を成功させ、その後の復興に尽力する事を誓います」
俺の足元にいた仔馬が、とてとてとソフィアの足元に移動した。嬉しそうに足に擦り寄っている。
ソフィアは全く気付いていないが。
「これから歌う歌は、昨今王都を賑わせている人気演奏家のシュールレアリズムの皆様が制作して下さった曲です。どうか聴いてください」
アオイがスティックを鳴らす。
「――――――『世界でいちばん輝いていたい』」
◇
今日も嘘付きなんだって
明日も重ねてしまうでしょう
そんな嘘でホントを隠して
一体誰を護ったの?
本当は花を眺めるより剣が好き
休むなら本なんか捨てて遠出したい
誰も知らないシンジツを
どうして隠して回り道して
ねえ、嫌になるわ
世界でいちばん輝いていたい
それがわたしの唯一の願い
RA!-TA!-TA! 愛を探して
RA!-TA!-TA! 目を見て これから
本当の! 華になるわ
曇り空の日もあるよね
涙雨も降ってしまうでしょう
そんな心も仮面で隠して
にっこり笑う毎日だ
本当は仮面が放つ褒め言葉より
ぶっきらぼうでも愛に溢れた言葉が良い
行き場のない感情を
溜め込み詰め込み意気込み充分
さあ、明日を照らそう
世界でいちばん輝いていたい
それがわたしの立ち上がる原動力
CHU!-CHU!-CHU! 心を込めて
CHU!-CHU!-CHU! 受け取って この愛
咲き誇れ! 華のように
晴れない心 映す鏡に
剣を刺したら嗤うだろうか
それでもこのまま 覆う曇天
払えるなら笑うだろうか
全てを救う力はないけど
手を伸ばして掴むわ力の限り
さあ、今を照らそう
世界でいちばん輝いていたい
それがわたしの立ち向かう原動力
CHU!-CHU!-CHU♡ 心を込めて
CHU!-CHU!-CHU♡ 受け取って この愛
愛してる! この世界を
◇
シュルレ九曲目となる『世界でいちばん輝いていたい』。
ソフィアの気持ちに寄り添えるように、想像で書いた歌詞。所々俺が書いた歌詞とは変わっていたので、ソフィアの言葉で歌ってくれているのだろう。
それがたまらなく嬉しい。
『愛のうた』とは打って変わってアップテンポな曲調で、この世界の人達にはまだまだ受け入れられていない激しいリズム。それを一国の姫に歌わせる。これを聞いたチョージは思いっきりニヤついた気配を滲ませていた。
ロックを認めてない為政者の娘にロックを歌わせるんだからな。そりゃ反骨精神バリバリだよな。
でも、そんな意図は無かったんだよ。
ただ俺たちが作る音楽がこういうのってだけで。
ソフィアが気持ちを乗せるのに、どんな歌が良いだろうと考えた結果だから。
王妃様が歌っていた歌は、言ってしまえば神様賛歌で、内容よりもメロディが美しい歌って感じだった。
ソフィアがもう少し大人になって、落ち着いてきたらモノにできると思うけど、まだまだエネルギッシュな十代は、もっと自分を出したいだろ。え? 偏見? ごめんて。
王妃様の手紙に太陽みたいな子だって書いてあったし、あの瞳の力強さは印象深い。
何より、ソフィアがこの国を大切に思う気持ちが行動の全てで強く伝わってくる。
だから、その想いを込めたら良いと思ったんだ。
ああ、仔馬も嬉しそうだ。辺りに光の粒が沸き起こって、この舞台に集まってくる。
それは城だけじゃなくて、王都中から集まってきてるみたい。
舞台の魔法陣が強く光り輝いている。
ライトアップみたいになってちょうど良い。
仔馬が光を吸ってどんどん大きく、美しくなっていく。
鬣が美しくなびき、艶やかな肌が光を反射し、顔付きも精悍に。
立派な馬くらい……なんか翼があるけど……な成長ぶり。
『ヒヒィン!』
ついに鳴いた。嬉しそう。
馬が地を蹴ると、そのまま空中に飛び上がり、ステップを踏むように空に駆け上っていく。
『ヒヒィン!』
上空で再び鳴くと、舞台から強い光の柱が立ち昇った。
その光は分厚い雲を貫き、吹き飛ばした。
この王都に留まり続けていた雨が、消え去った瞬間だった。
「これが……天照祭……」
曲は最後のサビに入った。
太陽に照らされた、太陽みたいなお姫様が、燦々の笑顔で声を上げる。
昇降機付近にいた観衆も、この曲調に慣れたらしい。手を上げて喜んでくれている。
ああ、音楽って良いな。
異文化の歌だろうが、言葉が伝わらなかろうが、何かを感じ取ってもらえる。何かを届けられる。
俺の回復した魔力もごっそり持ってかれましたけどね。
「ご清聴ありがとうございました!!」
惜しみない拍手と歓声が送られる。王都中からも声が上がっている。
本当に晴れたのは、彼女の心と表情だったのかも、なんてね。
まだ水が引いたわけじゃないし、復興はこれからなんだけど、今だけはお祝いムードでいたいよな。
「ソフィア」
国王が近付いて、ソフィアを再び抱きしめた。
「ありがとう。ありがとうソフィア。素晴らしい歌だった」
「お父様……なんとか、空を晴らすことができましたわ」
ソフィアの顔色は、少し悪い。化粧で分かりづらいけど、ソフィアも相当魔力を吸われているようだ。
「チョージ、魔力回復ポーションってまだある?」
「ああ。アメリアから大量に貰ったからな。まだあるぞ」
そう言うと、自分で渡しに行っていた。ついでに俺の口にも小瓶を突っ込まれた。激マズ。
「天照祭ってさ、神様に魔力をあげる儀式だったんだね」
戻ってきたチョージに、考えを話してみる。
「神……さっき言っていた仔馬とやらのことか?」
「うん。仔馬が馬になったんだよ。そんで天に昇ってって……」
「詳しく聞こう」
急にバリトンボイスが近くで響いたのでびっくりした。国王が近付いてきていたのだ。
「あ、えと、国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」
「畏まらずとも良い良い。お主らはこの国の英雄なのだからな」
いつの間にか英雄になってんだけど。ついこの前まで逆賊扱いだったんだが?
あまりの手のひらクルーっぷりに、チョージもちょっと、いやだいぶ機嫌が悪い。
「それで、先ほどの馬というのはどういうことか」
「あー、えっと……」
どう話そうかなと思っていたら、馬が舞台に降りてきた。トコトコと俺のとこまで戻ってきて、思いっきり顔を舐められた。
「うわっ、ちょ、舐めるなっ」
「???」
これには国王も目が点である。見えてないからね。独り言になっちゃってるからね。
「すみません、その馬というのが今俺の顔を舐めてきてて……って見えないですよね……うわやめろっ、頭を齧るな!」
「ああ……全く見えんが……どのような馬がおるのかな?」
「えっと、白くて光ってて綺麗な馬……痛っ、羽根でぶつなよ! え? 羽根があるんだって? あー、翼の生えた馬……ペガサスですね」
馬はペガサスというと嬉しそうにウンウンと頷いた。
「ペガサスだと……」
「お父様、ご存知なのですか?」
いつの間にかソフィアも側に来ていた。
「ああ……この国の古い文献に、ペガサスという名の馬の話が記載されていてな。翼をもつ馬など見たことがないと当時は思っていたものだが……まさかそれが今、近くに居るというのか?」
「はい。今はソフィア……様の肩で鼻をふんふん鳴らしてますよ」
「え!?」
ソフィアが驚いて周りを見るが、触れることもできないようだ。馬が一歩引いてしょぼんと頭を下げていた。
「ソフィア様が歌っていた時、街中から魔力がこの舞台に集まってきていて、その魔力をペガサスが吸収していたんです。そして大きくなってから、天に昇って、そしたら空が晴れたのです」
俺にしか見えてないから、ぶっちゃけ頭のおかしい人の発言なんだよな。真剣に聞いてくれてるみたいでありがたいけども。
「だから魔力がなくなった感覚がしたのだわ……」
空になった小瓶を眺めて、ソフィアが合点が入ったように頷く。
「魔力を大量に必要とする儀式のようですし、今後も複数人で行った方がいいと思いますよ」
魔力の消耗のしすぎは命を削るから。流石にそこまでは言わなかったが、言わんとすることは伝わったようだ。
国王も、ソフィアも、硬くなった顔で頷いた。
「とはいえ今年はもう晴れましたし、今は晴れを喜びましょうよ! なんなら俺たち歌いますよ!」
「……ム。それなら、ソフィア。もう一曲歌ってくれぬか」
「はい、お父様。もしかして……」
「ああ。儂が弾こう」
「お父様……」
国王ってピアノ弾けるんだ。元々天井があるところにピアノが用意されていたので、それを使うらしい。
俺たちは舞台を降りて観客席に。
ソフィアが舞台の中央に立った。マイクスタンドは貸すことにした。
「ソフィア。この曲はな……儂がマリアンヌのために作った歌なのだ……」
「え!? そうだったのですか!?」
たしか、王妃様の歌は作者不明なんだっけ。
「うむ……あまりにも反響が大きくてな。内容も内容で、儂が作ったとは言い辛かったのだ」
「内容は神様を慕う歌で良いと思いましたけど……」
国王は当時を思い出したのかポリポリと頬を掻いた。なんだか若返ったようにすら見える。
「あの頃はプロポーズの言葉に神を讃える言葉を用いるものだったのだ……」
「え……」
それはつまり、あの歌は神様賛歌などではなく、亡き王妃マリアンヌ様への愛の言葉……。
そりゃ恥ずかしくて名乗れんわ。大半が普通に神様賛歌だと思ってたっぽいけど。
「マリアンヌも気付いておらなんだがな」
「いいえ、気付いておられましたよ」
声を掛けたのは、壮年のメイドさん。当時を知る数少ない人らしい。
「王妃様はそれはもう、慈しむように大切にされておりました。この歌の言葉は、王妃様が陛下に捧げる言葉でもある、とも仰っておられましたよ」
その言葉を聞いて、国王は目を見開き。次いで固く目を閉じた。
そして、ピアノに向き直る。
「ソフィア。始めよう」
「はい、お父様」
そうして、晴れを祝して歌われたのは、亡き王妃が歌姫として歌っていた歌。
その歌は、作者が歌い手を想って作られ、歌い手が作者を想って歌われてきた歌。
そりゃ、ソフィアにとって、何かが足りないと思うわけだ。だって命題をはき違えていたんだもの。
けれどもう大丈夫。正しく理解できたなら。
きっとこの歌声は、王妃様と比べられることなく、共に並び立つ歌として、後世に語られることだろう。
「うん。いい天気だ」
木の葉から雫がこぼれ落ちるように、王都はいくつもの輝かんばかりの笑顔で溢れていた。
ご無沙汰しております。とんでもなく。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
続きを書けるのがいつになるかわからない、そんな理由から完結設定にして一年ほど。長かった……。
実は、『世界でいちばん輝いていたい』と『愛のうた』は第一部を書いている時にすでに用意していたものでした。早すぎだろ……。なんでそこだけ早いんだよ……。
そこからちょぼちょぼ続きを書いていましたが、案の定とっても時間が掛かってしまいましたね。
さて、この物語は全体で三部構成を予定しています。
そう、あと一部残ってるんです。
だって謎がいっぱい残っているから!
でもイルカはなーんもわかってない男なので、彼の視点では何も明かされませんけどね。
これまたいつになるかわからないので、完結設定に戻しますが、またどこかでお会いできたら嬉しいです。




