30話 もっと音を増やしたい
お久しぶりです。
第二部分投稿開始します。
◇
「思えば遠くへ来たもんだ……」
「まだ出発したばかりだろ」
チョージにツッコミを入れるのも慣れたもので、俺たちはクリスタロス辺境伯領の領都を出て、ぼんやりと空を見上げていた。
雨が降れば布を張って幌馬車にするタイプの荷馬車だが、今は晴れてるので布を外している。開放感があってとてもいい。空気も新鮮だし。
今からひと月前、俺たちのバンド、"シュールレアリズム"は、なんとライブ中に異世界転移を果たしてしまった。異世界にたどり着いたせいなのか、楽器が武器になってしまったし、魔法まで使えるようになっていた。
スキルなんてものまで持っている俺たちは、飛ばされた先の近所のダンジョンで、傷付いた少女と出会う。
彼女の名は、アメリア。
この国の王都の教会に所属する聖女と呼ばれる術師で、巡業をしていたところ、転移魔法の罠というものでダンジョンの中まで飛ばされてしまったのだとか。魔物に襲われ、深い傷を負っていたので、俺の魔法で助けてから、一緒に彼女が巡業で赴いていた街まで旅をすることに。
二週間の旅路を越え、クリスタロス領に到着。
そこで少し休んでから、元の街に向かおうとしたところ、領都で事件が発生。
近くの森から大量の魔物がわんさか駆け寄ってくるという、スタンピードが起きてしまったのだ。
その解決に、俺たちも協力した。
バリアが張れるので、門を守ることにしたのだ。アメリアちゃんも聖魔法を使って、みんなのアシストをすることに。
そろそろスタンピードも治ったかと思われた時、アースドラゴンという、強力な魔物が出現。次々と騎士や冒険者が倒され、ついに立っているのは俺たちだけ。
アメリアちゃんも近くで倒れていたし、逃げるわけにはいかなかった俺たちは、持てる力全てを出し切って勝利した。
俺たちは一躍英雄扱い。まあ、音楽以外で称賛を浴びるのが好きじゃないチョージとアオイがさっさとどっかに行って、俺もほとんど寝込んでいたから、あんまりチヤホヤされてたわけじゃないけどね。
あの街で、一番感謝されていたのはアメリアちゃんだし。
戦いの最中も、戦いの後も、ずっと献身的に働き続けていた。俺にとっても、彼女こそが街の英雄だと思う。
とまあ、そんな一件があって、落ち着いた頃に、俺たちは領主の提案で王都を目指すことにした。
チョージも、色々な物や人が集まる街に行って見たかったらしく、反論はなかった。アオイは肉が食えれば何でもいい男なので、放置でよし。
ということで、出発して、小一時間。
王都までの道のりは、のんびりと荷馬車に揺られてひと月街道沿いに進めば辿り着くらしい。
馬車の扱いすら天才的なアオイが御者台に乗り、俺とチョージが荷台でだらだらと過ごしている。
「♪♪〜」
チョージの鼻歌。新曲を作りたいらしく、ボイスレコーダー片手に鼻歌を録音していた。
「ウム」
チョージの鼻歌を背に聞きながら、アオイが満足そうに頷いたり、
「ウーム」
首を傾げたりしている。アオイが首を傾げると、チョージがフレーズを変えて歌い直して、アオイが頷くまでそれが続く。
初めて見たけど、これがコイツらの作曲風景なのか!?
「……やっぱり、音が足りないな」
「ウム」
この二人、こんなに言葉少ないのによく通じ合ってるよね。
「音が足りないって、俺の音域の話?」
俺は全然ついてけてないので聞いてしまう。
「いや、バンドの音の話だ。ギター、ベース、ドラム……ここにもっと音を増やしたい」
「あー、リードギターとか?」
「それもいいが、もっと違う音でもいい」
「手、足りない」
「手が足りれば弾きそうなところがお前の凄いところだな」
「アオイって何でも弾けそうだよね」
ここが現代日本であれば、音を録音しておいて、演奏時に流すって手も取れなくないけど、異世界にそんな録音環境とか無さそうだよなぁ。
「配信ボットの録画は? 確か映像を選んで再生出来るんだよね?」
「出来るが、音質がな……」
「やだ」
音割れというほどでもないけど、演奏として流す分にはご不満らしい。アオイもしっかりNOを出している。
「異世界だし、機械じゃないにしても、なんか良い録音機器ないかな?」
「合成にも出てこんな。材料を取り込めれば出るのかもしれないが」
「やっぱり広い街に行って見るしかないのかー」
「王都の近くに行けば、それなりに広い街があるらしい」
「それは楽しみだね」
ここから、二、三日に一個くらいの感覚で街や村があるそうで、野宿もそんなにしなくて良いそうだ。
食材も都度仕入れれば良いし、比較的安全な旅路になりそう。資金もアースドラゴン倒した報奨金がたんと出たので、今の俺たちは小金持ちなのである。
ぶっちゃけ、元の世界にいた時よりお金持ってます。怖いです。
アイテムボックスに入れてるから盗まれることは無いんだけどね。小心者のサガかな。
「楽器が売ってたりしないかなー。楽器の手入れ用品とか併せて売ってたら最高」
「あー、そうだな。それも素材があれば作れるだろうがな……」
いくら武器化してるとはいえ、手入れはしたい。
でもこの世界で、まだ楽器を手入れする道具を見たことがないのだ。
クリスタロス辺境伯も、ガチガチの武闘派なので楽器は触ったことがないと言っていた。あんなイケおじでめちゃくちゃ強いって、カッコよすぎだよね。
「新曲はどんな感じ?」
「んー、この世界らしい曲にしてみるのはどうかと思っている」
「この世界らしい……ファンタジーな感じ?」
「ああ。ロックっぽくないかもしれないが」
「味変」
「へー、じゃあ歌詞もそんな感じにしたいね」
「果たしてイルカにファンタジーな歌詞が書けるのか」
「肉」
「賭けるか、じゃあ俺様は新しい服」
「それは賭け無しで作ってくれよってオイ、俺で賭けをするな!!」
全然イメージついてないけどね。誰だ俺の想像力が乏しいって言ったやつ! チョージとアオイだよ!
「俺だってファンタジー体験すれば歌詞くらい書けるもんね!」
「体験か。とはいえここ数日は何もないだろうがな」
地図を見るに、次の街までの道中は一晩くらいでたどり着く距離で、景色もほとんど畑が続くらしい。
「こういう長閑な風景も、都会での暮らしに比べたら非日常だけどね」
こっちの世界じゃ、高層ビルが建ち並ぶ街並みの方がファンタジーだろうなぁ。
ホームシックとかは全然ないけど、あの便利さが欲しい時もある。
それでも、この景色には代え難いのかも。
旅行っぽくていいよね。
あとはまあ、ふかふかのベッドで眠れたらなぁ。
「長閑なのも良いが、まずは飯の改善だな」
夕食の時間になったので馬車を止めて、野宿の準備を始める。
チョージが焚き火に、合成で作った台座を召喚してその上にフライパンを乗せた。
「お、ついにまともな料理をする気になったんだな!?」
「しかも作るのはアオイ様だからな、美味い飯にありつけるだろう」
「キャンプ飯来たーッ!!」
ただ肉を焼こうとしていたアオイが、フライパンを見るや否や風のような速さでフライパンの持ち手を掴み、シェフさながらの手際で料理を始めた。
油や塩胡椒といった、料理の必需品もクリスタロス領の街で買っておいたし、野菜もたくさんあるわけで。
チョージが土台とまな板と包丁を用意すれば、アオイが無言で掻っ攫っていき、風のような速さで野菜が刻まれていく。
「道具があれば料理するんだな、アオイも……」
「数少ない趣味らしいぞ」
「え? あの天才の趣味料理だけなの?」
「何でも出来るからこそ、好んでやる物が少ないのかもな」
ニンニクを刻み、植物油と一緒に炒めれば、良い香りが漂ってくる。そこに厚切りの肉を並べて強火で焼いていく。
こまめにひっくり返しつつ表面に焼き色をつけて、中にも火を通していく。
レア肉狂いのアオイでも、料理となるとまともに火を通すのだから不思議な男だ。
まな板に肉を並べて固く絞った布巾を被せ、肉を休ませている間に野菜を焼いていく。
そちらは軽く焼いたら木の皿に盛り付けて、同じフライパンに、今度は潰した果物を入れていくではないか。
「わーっ、おしゃれな料理でやるやつ!」
「腹が減る匂いだな……」
観客の歓声をBGMに、ウキウキのアオイがバターを溶かし、塩胡椒で味を整えればフルーツソースの出来上がりだ。
休ませた肉を適度な大きさにカットすれば、ほんのり赤い食べ頃の色。
今日の肉は普通の牛肉なので、この色でも大丈夫。
中まで温まってるし、流石の火加減である。
そこにフルーツソースをかければ、ジュワーっと湯気を立ち上らせて、おしゃれなステーキの完成だ!
「同じ肉でも全然違う……! 文明の味がする……!」
「料理はアオイに任せよう。道具は揃えるから何でも言ってくれ」
「トング」
「ああ、箸だとキツかったか。用意しよう」
アオイに感謝しながら、フルーツソースがけステーキを堪能するのだった。
もちろん料理シーンから配信していた。
これは俺たち、曲の配信より飯の風景の配信のが多くなるかも。
とはいえ、キャンプ飯ってか、ガチ料理だったな……。
まあいいか、美味しいからね!




