19話 ちょっと泣きそうだったのは、アイツらには内緒にしておこう
◇
一夜明けた。
結局夜までとっぷり説教が続き、もう遅いのでと俺たちもまとめて領主館に泊めてくれた。
平民だと分かっていても初めから丁寧だったしものすごく親切だった。食事も用意してくれた。ありがたい限りだ。
アメリアちゃんは、やはり命を狙われている状況なので、元の街には戻らず、しばらくこの領主館に滞在するとのこと。
街に控えている騎士団には、領主様から遣いを出して、こっちに呼ぶんだとか。
その間平民だろうが一人でも戦力は多い方がいいとのことで、俺たちも領主館に置いてもらえることになった。
「へえ、魔術師って珍しい部類なんですか」
「ああ。魔法が扱えるのは貴族が殆どで、平民の魔術師は多くない。貴族ですら魔法を使えない者がいるくらいだ」
「魔術師も属性に偏りとかあるんですか?」
「そうだねぇ、火属性と水属性は多いほうだけど、雷属性と氷属性はわりと珍しいね。中でも聖属性が扱える者というのは、本当に少ないんだ。いてもすぐに教会に引き取られてしまうから、回復魔法はとても希少なんだよ」
「あれ、でも、風属性にも治癒魔法ありますよね?」
「あとは水属性にもあるね。だが、聖属性ほど効果は高くないだろう? 時間がかかったり、患者の体力を削ったり」
「そういえばそうでした」
「それもあるから、回復魔法は有り難がられていてね。だから、こうして聖女様が巡業に来てくださることは、とても有り難いことなんだよ」
領主様は意外と気さくで、俺とも普通に話してくれた。
アメリアちゃん誘拐事件があってからブレイズがこの館に来たそうだが、あまりにも暴れるので、夜も眠れず困っていたらしい。
顔色がずっと悪いからと、アメリアちゃんに協力してもらって一緒に魔法をかけたところ、とても感謝されて、お茶会に誘われたのだ。
今は昨日までの顔色が嘘みたいに健康的な顔色になっている。
ブレイズは、うるさいからとアメリアちゃんが朝早く用事を頼んで追い出していた。慣れているので扱いが上手い。
「アメリアちゃんってすごいんだね」
「そんな、あまり褒められるとその……照れます」
わたしはまだまだ未熟者なので、と恐縮しきりのアメリアちゃん。
ちなみに、チョージはメイドさんに声を掛けるので忙しいみたいでどっか行った。アオイも自由人なので好きに過ごしているだろう。
なので三人でのんびりしているところだ。
「そういえば、君達の配信を見たよ。素晴らしい音楽だね」
「え、あ、聞いてくれたんですか? 嬉しいです」
「ああ、彼と一緒だと聞こえないから、わざわざ新しく端末を用意して見たくらいだよ。特にアメリア様と歌っていた映像が私は好きだねぇ」
「はわ、ありがとうございます……っ」
アメリアちゃんの顔が真っ赤になった。
歌っている所を見られるのは恥ずかしいのかもしれない。俺も初めは照れたけど、もう慣れてしまったし、むしろそれが生きがいになってしまった。アメリアちゃんもそのうちそうなるかも。
「そういえばあの時、俺の声が邪魔だなって思ってたんだよね。アメリアちゃん、一曲歌わない?」
アコギを構える俺。
「えっ!? いえ、邪魔なわけないです!! イルカさまの歌声は素敵です! むしろわたしの方が……!」
「でも、今はアメリアちゃんの歌が聞きたいなぁ」
軽く弾き始めると、真っ赤な顔で唸っていたアメリアちゃんが、観念したように目を閉じて。
「♪〜〜」
なんだかんだ歌ってくれた。
「ほう……」
領主様も感心している。
透き通るような美しい歌声。
流石にアメリアちゃんは『カンパネラ』の歌詞を覚えていないのでラララだったけど、むしろ良い。
これが聞きたかったんだよ……!
俺も染みるように聴き入った。もちろんギターも弾いてるけど。
一曲歌い終わり、しばし余韻に浸る。
ぱちぱちと拍手を贈れば、アメリアちゃんも笑顔で答えてくれた。
「映像で見ていた時も感じていたが、やはり、君には不思議な力があるようだね」
領主様が俺に向かってそう言う。
「え? 俺ですか?」
頷く領主様。ピンとこないけど。
「私は今の曲を誰が弾いても同じように聴き入るかと問われれば、否と答えるだろう。君が奏でる音は、人を惹きつける。それに、魔法的効果もあるようだ」
「俺が<伝導>というスキルを持ってるからじゃないですか? 自分と周りの魔法を強化するみたいなスキルです」
「ああ、それもあるんだろうね。けれどスキルと言うのは、魔法と違って、元々個人が持っていた能力に名前をつけたようなものなんだ。だからそれは、君自身の力なんだよ」
<伝導>が、元々俺が持っていた力……?
「そんな、まさか……」
だってこんな力を元々持っていたんだとしたら、どうして俺は、あのバンドから捨てられたりなんかしたんだろうか。
「イルカ君」
領主様が俺の肩に手を置いた。
「君の音楽に、私は感動したよ。それはスキルの力などではなく、君から生まれた音楽が、そう思わせたんだ。それを履き違えてはいけないよ」
「わたしも、イルカさまの音楽が好きですよ。とても素敵で、心が明るくなります」
二人の言葉に、身体が暖かくなるようで。
「……ありがとうございます。そう言ってもらえて、すっごく嬉しいです」
ちょっと泣きそうだったのは、アイツらには内緒にしておこう。
◇
夜、チョージとアオイと一緒に泊まってる部屋で、俺たちは顔を突き合わせた。
「新曲会議〜! ドンドンパフパフ〜♪」
「……なんだ、やけにやる気じゃないか。恋でもしたか?」
「あ? 恋なんて誰とすんだよこんな異世界で」
「……お前はそういう奴だよなぁ」
チョージに茶化されたけど、話を進める。
「次の曲でさ、ちょっと歌いたいテーマがあるんだけど、聞いてくれない?」
俺はアイテムボックスから紙を取り出す。
そこには、新曲に使えないかとメモ書きした歌詞のピースが並んでいる。
まだ単語とか、一文だけとか、組み上がってないパズルのピースみたいなものだ。
紙を広げれば、チョージもアオイも興味を持ってくれた。
「まさかお前が先に歌詞を考えていたとはな」
「ウム」
「まだ下書きも下書きだけどね」
俺がよくやる歌詞のプロットみたいなもので、例えば絆がテーマであれば紙にデカデカと「絆」って書いてあったり、ちょっとしたエピソードみたいなのが書いてあったりする。
今回デカデカと記載したテーマ。
―――それは「証明」だ。
「これは俺の気持ちだけじゃなくて、アメリアちゃんのための歌にしたいんだ」
「ふん?」
続けろと言わんばかりに、鼻を鳴らすチョージ。
俺も頷いて続ける。
「アメリアちゃんがね、言ってたんだ。「自信がない」って。アメリアちゃんって、この世界でも珍しい聖属性の使い手で、みんなに感謝されてるじゃん。俺もすごい人だなって尊敬してるんだけど、アメリアちゃんは納得してなくて、評価が独り歩きしてるみたいに感じてるんだと思う」
聖属性が珍しいといっても、教会の中じゃそこそこ扱える人がいるのだろう。その中で、自分の力量を見比べてしまっているのかも。
それは俺にも言えること。だって、この世にバンドマンなんて星の数ほどいるってのに、俺なんかギターも下手だし歌も全然、全然足りないって思ってしまう。
「俺も同じって言うと、何様だって感じだけど、俺だって自信があるわけじゃない。だからこそ、その状態が苦しいってのはよくわかる」
自分に失望し続ける毎日は、とても苦しい。だからといってそこで諦めてしまえば、向上することも無くなるわけで。
苦しみ続ける以外に、望むものが手に入る未来がないのなら。
「だったら少しでも、軽くなる方法はないかなって。もっと前向きになれるような。後ろ向きにウジウジ悩むんじゃなくてさ。向き合うぞって、やってやるぞって感じで。応援したいんだ。……どうかな?」
しばしの間。
「―――悪くない」
チョージが言った。
「ウム」
アオイは紙に五線譜を書き始めた。
「ならばイルカ、お前は今すぐ歌詞を完成させろ。俺様たちが曲にしてやろう」
ボイスレコーダーを出して、鼻歌を始めるチョージ。
「うん、ありがとう!」
今日は徹夜で作曲だ!
この作品が面白い、続いてほしいと思っていただいた方、ぜひ☆☆☆☆☆評価やブックマークをお願いします。




