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20話 『ベノムファング』

 ◇



 なんで俺を捨てたの?

 一体何が悪かったの?

 俺、何かした?


 ―――その全てに、気付けなかったことが罪だとでも言うのか。


『カリンよ。このバンドのリーダー。ここでは私がルール。良いわね?』


 初対面からすんごいキッツい子だなぁとは思ってたよ。


『アンタ中々やるのね? タダヤスが認めるだけあるわ。良いわ、バンドのメンバーとして認めてあげる』


 せっかくタダヤスが誘ってくれたわけだし、アイツの顔に泥を塗るような真似もしたくなかったし、頑張って歌った初めての日。

 彼女も納得して迎え入れてくれたはずだった。


『良いじゃない。ご褒美に、私をディナーに誘っても良いわよ』


『この私と組めることを誇りに思いなさい。私がいれば、このバンドはどこまでもデカくなれるんだから』


 勝ち気だなぁと思っていたよ。

 けれどいつからか。


『ちょっと! なんで私を誘わないのよ!』


『このバンドに人が集まるのは、アンタの力なんかじゃないんだからね!』


『ちょっと歌が上手いからって調子に乗らないで!』


 段々と当たりが強くなってきて。


『―――だから、アンタはクビよ、クビ。ご苦労様』


 俺は何を間違えたんだろう。

 それに気付けたら、クビになんてならなかったんだろうか。


 いや、結局いつかはそこに行き着いただろう。

 俺たちには、決定的に合わない部分があった。


 音楽の方向性の違いなんて、素人だし生意気なこと言うつもりはないけど、何というか、向いてる方向が違うなってのは感じていた。


 俺はみんなを楽しませたかった。来てくれる人に感謝を込めて歌いたかった。


 カリンは、言い方は悪いが、ぶっちゃけ富と名声重視だった。バンドよりもSNSの更新の方が熱心だったくらいだ。


 全体練習にはライブ直前しか来ないし、練習も雑だった。


 だからまあ、今となっては、後悔は無い。納得もしてる。


 けれどこうも思うんだ。


「―――だからそれは、君自身の力なんだよ」


 もし、本当にそんな力があったのなら。


 あんな些細な行き違いなんて全部ねじ伏せて、同じ方向を向けたんじゃないかって。


 思い上がりか。こんなのエゴか。


 ていうかさあ。


 一回くらい俺の名前呼べよ!!



 ◇



 底が抜ける感覚を知ってる?

 バベルの塔が崩れたんだ

 "起こるべくして起きたのだろう"

 それで自分を慰めたらいいの?


 ある偉大な人が言った

 "Stay hungry, stay foolish."

 そうだよね それができたらいいよね

 だから今 牙を剥いて


 If I know what sorrow is, it is because of you.

 この身に溜まった猛毒が何よりの証拠

 But I'm grateful to you. Because this is my origin.

 この身滅ぶその日まで


 Never say never.

 滝のような雨を

 Never say never.

 浴びるように歌うよ



 空から落ちる感覚を知ってる?

 蜘蛛の糸が切れたんだ

 "だってこれはそういう話だろう"

 それで自分を失くしたらいいの?


 ある偉大な人が言った

 "Peace begins with a smile."

 ごめんね それができたらいいよね

 今だけは 牙を剥いて


 If I know what sorrow is, it is because of you.

 この身に溢れる猛毒が何よりの証拠

 But I'm grateful to you. Because this is my origin.

 この身滅ぶその日まで


 Never say never.

 ベノムファング剥き出しで

 Never say never.

 これこそが俺の言葉


 "This sorrow is mine!"



 ◇



「♪〜〜〜〜〜ッ!!」


 沸き起こる拍手。この街は子爵の街よりマジックネットが普及しているからか、俺たちのことを知っている人も多かった。

 そんな中で、街の広場でのライブ。

 盛り上がったし、観客もノッてくれた。


 こんなに楽しいことはない。

 ……ないんだけど、『ベノムファング』をこういう場所で歌おうと思うと、作詞した時の感情もセットでフラッシュバックするもんだから。


「………はぁ」


 ちょっと落ち込む。


「こらイルカ、気を抜くな。次行くぞ」


 チョージの叱責。


「わかってる。次はどれにする?」

「鐘」


 アオイがもうスティックを鳴らしてる。

 反射的にギターを掻き鳴らせば、もう気持ちは次の曲へ。


 順番的には良いのかも。

 ぶっちゃけこの二曲っていう短時間で落ち込みから復活まで気持ちを動かすのキツいんだけど。


 けれど俺たちの歌は、どれも大切な歌。

 流すとか、いい加減な気持ちじゃ歌えない。


 ましてや観客がいるのなら。全力で。


 ―――鐘を鳴らせ!



 ◇



 ライブは二曲で終わりにした。人が集まりすぎて広場の通行が滞ってしまったからだ。

 このままではこの辺りで出店を開いている人にも、近隣住人にも迷惑がかかりそうだったので、みんなに謝って終わりにさせてもらった。

 お金を取るライブでもないので、自由解散である。


 俺たちはそそくさとその場を後にして、一度領主館に戻った。姿を隠さないと騒ぎになりそうだったし仕方ない。


 けれど、みんな楽しんでくれたみたいで何よりだ。


「マジックネットで観ていたよ。素晴らしい演奏会だった」


 仕事の合間にわざわざ領主様が声をかけてくれた。


「ありがとうございます。でも、ちょっと騒ぎになっちゃって……問題が起きていたらすみません」

「いや、問題ないよ。あの広場は元々何かを披露する場に使うことが多いからね。近隣も商会だけだし、むしろ客引きができて喜んでいるだろう」

「それは何よりです」

「何かあっても、警備を増やしておいたから大丈夫さ」


 領主様のウインク。茶目っ気溢れてて良い人だよなぁ。辺境伯って、かなり高い身分の方なはずなんだけど全然圧掛けないし。


「ありがとうございます! 次からはやる前に一言お伝えしますね」

「それはありがたいね。先に聞けるのなら、私も予定を調整できるよ。出来れば生で聞きたいからね」


 笑い合って、領主様はその場を後にした。まだまだ仕事が山積みなんだとか。


 邪魔にならないように、俺も大人しくしていよう。

 チョージとアオイ? あいつらは知らん。自由すぎて戻ってすぐにどっか行ってしまった。


 アメリアちゃんはブレイズと一緒に、この街の教会に顔を出しに行っている。事件もあったし、色々とやり残した仕事もあるだろうし大変そうだ。


「何しよう……練習しようにもここだとな……」


 その時、ちょうど近くにメイドさんが通りかかる。


「あの、すみません」

「はい、如何致しましたか、イルカ様」


 メイドさんは嫌な顔ひとつせず、慇懃に頭を下げてくれる。畏まられすぎて恐縮しちゃうけど、話を続けよう。


「えっと、様はいらないですが、この街で、ギターを弾いてても誰の邪魔にならなそうな場所ってありますか?」

「お客様ですので、イルカ様とお呼びさせていただきます。……誰にも聞かれずに楽器を弾ける場所ですと……西の辺りの小高い所に小さな公園がございますね。あの辺り、昼間はほとんど人がおりませんので、うってつけの場所かと思います」

「なるほど、ありがとうございます。行ってみます」

「行ってらっしゃいませ」


 メイドさんにお辞儀をして、さっそく教えてもらった所に行ってみる。


 途中、美味しそうなサンドイッチを売ってる店があったので、一つ買って公園で食べることにする。


 そこそこ疲れる階段を登り切り、たどり着いた公園は、街を一望できる所だった。


「わぁ……良い景色」


 ここで思いっきり歌ったら気持ち良さそうだ。


 その前に腹ごしらえ、と買ってきた包みを開く。


 鶏肉を甘辛いタレで焼いたサンドイッチ。照り焼きチキンみたいなやつかな? と想像していたけど、まだこの世界で醤油を見かけていないので違うソースなのだろう。


 けれど香ばしくて、にんにくも効いていて食欲のそそるサンドイッチだった。


 共用アイテムボックスに大量に入れてもらっている水を飲んで、一息つく。


「はー……空気まで美味しい気がする」


 ギターを構えて、歌詞を書いた紙を出す。


 徹夜で考えた新曲だ。

 この頃にはすっかりライブの時のキッツいフラッシュバックも治っていた。


「よーし、練習しますか!」


 俺は非常に良い気分で、ギターをかき鳴らした。

出オチタイトル曲『ベノムファング』、ようやく歌詞の公開となりました。

感情をぶっ刺す感じが出せていたらいいな。


次回は幕間を1話挟みます。


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