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 ローシェは考えた予定通り、色々な町を回って1週間を過ごした。

 極たまに使いに出される以外、彼女が遠出をすることはなかったので、眼に映るものはどれも新鮮で楽しかった。

 行きにはなかったお土産を手にぶら下げて、ローシェは城に帰宅する。

 女性陣たちが好みそうなものを選んだので、皆、興味津々でローシェの旅の思い出を聞いていた。

 その後、彼女は小分けにした袋を持って、お土産を配りに行く。

 城には仕事の都合で知り合いが多いので、ローシェは城内をぐるぐる歩きまわった。

 またひとり、渡そうとしていた人物を見つける。

「エウィン様!」

 彼の名を呼ぶのはいつぶりだろうか。

 ローシェは他のものとは違う紙袋を用意する。

「これ、お土産です! お気に召すかわからないのですが、よかったら使ってくださいね」

「土産?」

「はい。陛下に1週間の休暇をいただいたので、いろんなところを回ってきました!」

 エウィンはそこで初めて、彼女が彼の前に現れなかった理由を知った。

「そうか……」

「?」

 受け取った袋を見て、エウィンが静かにそう呟くのでローシェは疑問符を浮かべる。

「あの、何かありましたか? 一応私なりにエウィン様が喜ばれそうなものを選んだつもりなのですが」

「……いや。なんでもない。ありがとな」

「はい」

 彼女がにっこり微笑むのを見て、エウィンは自分の鼓動がひとつ大きく跳ねたのがわかった。

「では。私、まだお土産を配らないといけないので!」

 ローシェが振り返ると、以前渡した銀の髪留めが見えた。


 その時。どうしてだか、どうしようもなく、彼女が愛おしいと思った。


 エウィンはその場からしばらく動くことがでになかった。荷物を持たない反対の手で口元を抑える。

「……まじかよ」

 小さく溢れた独り言は、しっかり自分の耳に届いて反芻する。

 彼の頬は、ほんのり赤く染まっていた。



 *


「エウィン様!」

 その日もローシェは、エウィンにせっせと世話を焼いていた。

 そこは少し雪の積もった城の中庭。

「寒くないですか? あ、私今度は手編みの手袋に挑戦しようと思ってるんです。エウィン様の分もお作りしていいですか?」

 ローシェは素手のエウィンを見て、ぽっと思いついたことを言う。

「今度はってことは、その前に何か作ってたのか?」

「はい。まずはマフラーからかな、と思ったので作ったんです。ペーターがいつも寒そうに、首を縮めているからあげました」

 エウィンはそこで目つきが変わる。

「へぇ。前から思ってたけど、フェルナーはそいつのこと好きなの?」

「え。違いますよ」

 ローシェは即答した。相手はどうだか知らないが、自分にそんなつもりは微塵もない。

「ペーターは何というか、協定を結んだ友といいますか……」

「協定?」

「それは、秘密です」

 流石にその内容を、彼に知られる訳にはいかない。ローシェは笑って誤魔化した。

「それはあんたの裏の仕事と関係してるの?」

「……何のことですか?」

 しらばっくれたが、ローシェは内心、これまでになく驚いていた。

(何故それを……)

 思わず後ずさりして、ローシェは疑惑の目を彼に向けた。

 エウィンはその鋭い目つきを見て、これが彼女のもう一つの顔なのだと思い知らされる。

「隠さなくていい。陛下から聞いている」

「本当に?」

 ローシェは困惑していた。

 心のどこかで彼なら大丈夫だ、と思い込んでしまっていたのかもしれない。

 ——もし、それが嘘で、本当は彼もどこかと繋がっていたら?

 あれだけ自分から近づいておいて、ローシェは彼を信じることができなかった。

「ああ。心配なら直接確認してみればいい」

 言われるまでもなく、彼女はそのつもりだった。

「一体、いつから?」

「あんたが倒れた日。……なあ、もう一度聞くが、なんであんたは俺に構う?」

 エウィンはどうしてもその答えが知りたかった。

 ローシェはもう言い逃れができそうにない事を察する。

「……さ、最初は女性たちの会話に混ざるために、あなたを話のタネにしていました」

 ローシェは視線を落として、話し始める。

「でも……後から気がつきました。あなたに構うのは、自分の為だったんです」

 エウィンは静かに話を聞いている。

「私、こんな仕事をしているので、誰かを信じることができません。でも、メイドとして仕事をしている間は。……あなたのことを考えて色々準備している間は、そういう事を忘れてただのメイドでいられました」

 彼女はそこで言葉を切る。

 自分で言っておいて、凄く自己中心的なお節介だったのだと改めて反省した。

「最低ですよね。ごめんなさい。もうあなたに私のわがままを押し付けるのは辞めます。今まで、すいませんでした」

 ローシェは一礼すると、一歩足を引いて方向転換する。

「待って」

 しかし、そこでエウィンに腕を掴まれた。

「待てません。私、エウィン様に合わせる顔がありません」

「フェルナー」

 彼女は呼ばれても、首を横に振る。

「……ローシェ。こっち向いて」

 ローシェはエウィンに初めて名前で呼ばれて、思わずそちらを見て固まった。

 彼の端正な顔が少し赤いのは、きっと寒さのせいだろう。

「俺は、あんたがどんな理由であれ、俺のことを考えて、色々手を尽くしてくれただけで嬉しいんだよ」

「え……」

「いや、むしろローシェが最初に俺をその相手にしてくれてよかった」

「な、なぜ? 私はあなたを利用していたのに」

 ローシェには訳がわからなかった。


「まだわかんない? 俺はあんたが好きなんだよ」


 ローシェの思考はそこで完全に停止した。

 彼に何を言われたか理解したとき、彼女の顔は真っ赤になる。

「へ、え……あの…?!」

 目の前であたふたする姿さえ可愛いと思うのは、もう末期だろう。

「まだ返事はしなくていい。でも、俺を避けるのはやめて? 結構傷つくから」

 彼は彼女に触れていたい気持ちを抑えて、手を離す。が、目の前の彼女が可愛くて、つい頭を撫でた。

「じゃあな、ローシェ」

 エウィンは優しい笑みを浮かべてそういうと、仕事に戻っていった。



 急な展開についていけないローシェは、茹で上がった頬を抑えてその場に立ち尽くす。

 今はもう、皇帝に彼がいったことを確かめるなんて事は頭にない。

 というのも先程からずっと、エウィンの顔しか浮かんでこないのだ。


「ど、どうしよう。凄く、嬉しい——」


 緩む頬は手で押さえても、とまってくれない。








 ふたりの恋はまだ始まったばかりだ——






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