01話 日々人々
北に山がたたずむ。町を挟んで南には海が広がる。そんな見晴らしの良い町に住んでいる。時刻は8時、平日の忙しい時間帯だ。もう9月だというのに例年に比べて暑い。
嫌いで仕方のない月曜日が長い休みの終わりを告げる。今日は始業式だ。早めに家を出て良かったと思いながら、校門をだらだらと歩く彼。佐野晴輝は市立高校に通う高校2年生だ。6月に誕生日を迎え、17歳になった。
「おーい、はるきー!」
後ろから男の声がした。短髪の彼はいかにも体育会系という感じで、体も筋肉質だ。同級生の彼は沢田優という。対して晴輝は少し細めだ。そして無造作に伸ばした鼻にかかるぐらいの髪。対照的な2人だが同じ剣道部である。2人ともひとつ上の先輩と勝るとも劣らない実力の持ち主。
「優か、元気にしてたかよ?」
今日久しぶりに会う人も多い。ほら、あの前を歩いている女子の集団だって。約40日ぶりに見たクラスメイト達は楽しそうにお喋りしている。
「晴輝よ、昨日、会った...よな?」
「そういえばそうだったか」
ぽん、と手をうった。昨日も剣道部は練習があった。もちろん一緒に練習をしていた。
ふと横を見ると、怪訝な顔つきでこちらを見ている。
「冗談だよ、」
ぱっと顔が晴れる。
「なんだー、冗談か、騙されたぜこんちくしょう」
そしてケラケラと笑いだす。良く言えば純粋、でもやっぱりバカだよなと晴輝は心の中で思うのだった。
ガラッ―
―久しぶりだな――課題やってきたかよ?――ヤバいやってねぇ――はは、バカだ、―
なんだ、結構早めに学校に来たと思ってたのに。ドアを開けると大体のクラスメイトがすでに教室に収まっていた。
「晴輝久しぶりだね」
「お前も焼けたなー、黒くなってるぞ」
「久しぶり!元気してた?」
自分の席に荷物を下ろすと数人の友達が話しかけてきた。
「おう、久しぶりだな。元気してたか?課題もしっかり済ませたし」
忘れたとか言ってるやつがいたように聞こえたが、それとは極力目を合わせないようにした。
友達とたわいもない話をしているとまた学校が始まるんだな、という実感がじんわりとわいてくる。いつもと変わらない能天気なチャイムが鳴り、それぞれがぞろぞろと決められた席につく。久しぶりに学校の机に座った。少しむずむずした。
「...で、あるからして、今年の夏はー」
天井が高く、そして広い体育館。両側にある扉は全開になっており風が顔のすぐ横を通り抜ける。そこに1年生から3年生、つまり全校生徒が集まっての始業式。
「...であります。えー最後にー」
校長先生の長話。立ったまま聞かされるので足が痛くなる。学生にとったら拷問に近いようなものなんだよ。
「...という訳です。えー最後になりますがー」
名物、校長先生の最後と言いつつ最後じゃない長話。いつまでこれが続くんだ、絶望で目眩を起こしそうになる。体育館はかなり暑く、人が密集していることも理由の1つだろう。こんな話に真面目に耳を傾けている生徒はごく少数だと思う。
「...です。私からの話は以上です」
よしやあっと終わった。開放感、達成感、こんな気持ちが体を満たす。この始業式が終われば学校は終わりだ、普段ある部活も今日は無いし早く帰れる。さぁ、早く早く。
「次は教頭先生からのお話です」
...ほんと、暑くてイライラしてきた。
「おい、聞いたか晴輝?さっきの山の話」
優の声が後ろから飛んできた。
「聞いてたよ。ほんと、気味悪い話だな」
始業式、教頭先生の話も無事終わると、1人の先生が前に出て話をしていた。
―とある学生が山に行ったきり行方が分からなくなるという事件が起きた。くれぐれも気を付けるように。―
そして教室に戻る途中に1人の生徒からこんな話を耳にした。
―行方不明になった学生、携帯にかけても繋がらないんだって。それが肝試しで夜に山に行ったきりなんだってさ。―
「なあ晴輝くん、今日の放課後って暇だよな?」
ニヤニヤしている。絶対に良いことはないと言わば第六感のようなものが働いた。
「まぁ、一応は空いてるけど、なんでだ?」
優は背中をバンバンと叩いてくる。
「俺らで今日の夜、行ってみようぜ!」
流石に呆れる。ここまでバカだったなんて。
「どうせ断っても行くって言ってきかないんだろ?」
もちろん、と答える。少し嬉しそうだ。
気が付けば晴輝は行く事になっていた。計画や道具は優が持ってくるそうだ。呆れつつも少し楽しみだ。優はなんだかんだ言って親友だから。
「ふぅ、」
2階の晴輝の部屋にある椅子に座り考え事をしていた。最近、親からは勉強しろと、先生からは進路どうするんだと、ずっと聞かれている。しかし自分のやりたいことが分からずに悩んでいる。
まぁ、今楽しかったら良いかな。
俺も十分バカかもな。
そこにこの世界は無かった。
存在すら知らないし、信じる物は馬鹿にされた。
でも、確かに存在した。それが証明された。
いや、証明していた。
そして無知の地に放り出される事となる。
不運かもしれない、幸運だったかもしれない。
ただ、終わって、始まったのだ。
そして2度と終わらせることの無いように誓ったのであった。




