お嬢様の本音
「ちょっと良いかしら?」
放課後、帰ろうとしたら声を掛けられた。
――うん。彼女が私に、前々から声を掛けたがっているのは知ってた。
でも長年の癖なのか、授業が終わったなら早く帰りたい。
「手早く終わらせて?」
持ち上げていた鞄を下ろし、席に座り直す。
「なっ!!」
(平民の癖に生意気な口の聞き方だわ。)
(とりあえず、話を聞いてくれるみたい。)
(嫌われてはいないみたいで良かったわ。)
(ドキドキ〈緊張〉)
(ウィル……。)
(う。負けたわ……。)
「あ、ごめん。私平民だからさ、堅っ苦しい話し方は苦手なんだよね。」
一応謝っておく。
機嫌を損ねたら、貴族の令嬢だけに色々と面倒くさそう。
カグヤさんは女性ながら同じクラスの5-A。つまり武術クラスの貴族側で、男子共みたいな“体目当ての汚れた欲望”を向けてこなかった内の一人。まぁ、女にそんな感情向けられても困るけど。
男は武術。女は魔術。
軽い洗脳によるそんな風習の中で、彼女はある意味異質。
って言っても彼女は魔術の才能が無いからこそ、真面目に武術の腕を磨いているらしい。
「フン。私が寛大な心を持っていたお陰で、命拾いしたわね?」
カグヤさんは腕を組み、不機嫌そうにそっぽを向く。
しかしその心は……。
(そもそも何で平民ごときが、このクラスにいるのよ。)
(彼女に距離を置かれては駄目。平民だけどここは穏便に事を進めなければ……。)
(落ち着け、落ち着け。)
(さっさと謝るなんて、少しは良いところもあるのかしら?)
(ウィル…。)
(平民の癖に、大きいのはズルいわ。)
貴族だからかな?
上手く立ち回る為なのか、心の声は多め。
「で、用件は?」
聞かなくても分かってるけど、心が読めるってことを悟られないように敢えて聞く。
「貴女、私の下に付きなさい。平民なのだから、色々と大変でしょう?」
(貴女が私のもとに来れば、ウィルは必然的に私のものよ。)
(平民ごときが私の下に付けるだなんて、何て幸運な事でしょう。)
(平民なのだから、色々苦労してるハズ。きっとこの提案に乗るわ。)
(ウィル。今度こそ手離したりしないわ。)
(ウィル。ウィル。ウィry)
(ウィルは、胸の大きい女性が好きなのかしら……?……ま、まさかね。)
「心配してくれてありがと。でも、今のところは問題ないから大丈夫。」
カグヤさんはウィンハル君が好き。だからこそ例のいじめっ子グループに指示を出し、ウィンハル君をいじめていた。
――ウィンハル君にも、自分を好きになって欲しいから。
愛情の強要。
でもそれじゃ、彼に伝わりっこない。
というか、逆に嫌われるでしょ?
ま、彼女はそういう所に疎いみたいだけど。
本当の意味で、相手の気持ちを理解していない。
――なんか、クソ虫みたい(笑)
でも、彼が好きという気持ちは本当。
危なっかしくて怪我ばかりするウィンハル君を守りたいから、強くなりたいと願ってる。
「こ、この世界をなめてはいけませんことよ?わ、私の下へつけば――。」
「うん。大丈夫だから。」
断られるとは思っていなかったみたいで、ウィンハル君を取り戻す為に必死で頭を捻るカグヤさん。
「じゃ、私は帰るね。」
隙ありッ!!
私は逃げるように教室を出た。
「あ!ちょっと、お待ちになって!」
カグヤが追いかけて教室を出るが、美結の姿はもう無かった。
「あ、あの……。」
「何ですの?」
後ろから声を掛けられ、カグヤは振り向く。
「ひゃぁ><」
弱々しい声を上げたのは、紺色のフードを被ったピンク髪の子、ミーリャ。
中腰になり、頭を抱えてしまっている。
「私に何か用かしら?」
腕を組み、カグヤは不機嫌そうにミーリャを見下ろす。
ミーリャは腕の隙間から彼女を見上げ、弱々しい声で言葉を紡ぐ。
「あ、あのですね。……美結……ちゃんと、と、と、友達になれば、良いと思い、ます。……そ、それで、解決すると、思いま、すッ。」
言い切ると、こっちも脱兎の如く逃げてしまう。
「もぅ。これだから平民は……。」
忌々しげに呟く彼女。
「トモダチ……か。」
しかし、クルリと背を向け歩き出す彼女には、嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
難しい。
他人の心は全く理解できないです……。




