唯一の神
「この世に存在する神はただ一人!セネル様です!
セネル様は、どんな時も貴女方を見ているのです!セネル様は全知全能優秀な神。どんなに小さな悪事も見逃しません!ですから、悪い事をすれば天罰が、良い事をすれば幸福が与えられるでしょう! 世の中には家が無い、その日食べるものさえ無い方がいますが、それは神を怒らせてしまったが故の天罰です。また人間ではない姿の獣人やエルフと呼ばれる者達も、神からの天罰によって体の一部を動物に変えられてしまったのです。恐らく彼らは、到底口では言い現せそうに無いほど凶悪な悪事を働いたのでしょう。今、獣耳や尻尾を持つ者は、祖先が巨大な悪事を働き、それを未だに子孫が償っていることがほとんどです。しかしその子孫が悪事を働いていないかと言えば否でしょう。獣耳、尻尾は悪事の象徴。今世にしろ前世にしろ、何かしらの悪事を働いていたに違いありません。だからこそ純粋な人間は持たない、忌まわしき獣耳と尻尾が彼らには存在し――――」
黒白と服の服を着たシスターっぽい人が、教壇?の上で熱弁している。
唯一絶対神、セネル。
ハイハイ、覚えた。鬱陶しい。
……うん、あれだな。宗教って面倒くさい。
その後の実技授業。
「【火球】」。
プスプスと変な音を立てながら、ヒューンと飛んでいく火の玉。
「……む。」
やはり、何かが変。
「【火球】。」
ボヘラファ!!ヒュルル~。
今度は、出現した瞬間に炎が大きく燃え上がった。
パワーを使い果たし、小さくなった火の玉は弱々しくフラフラと飛んで、最終的には数メートル先でポテッと落ちる。
「調子、悪いの?」
気怠げな低音の女性の声。
聞き覚えの無いその声に後ろを振り向くと、禍々しいオーラを放つ彼女が漆黒の瞳で俺をジッと見つめていた。
んーと?名前名前……。確か2文字……。
「サナ。 覚えやすい名前だと思うんだけどな。」
可愛らしく首を傾げるも、表情は全く動かず不気味な雰囲気を醸し出すサナ。…………うん、『サナ』。思い出した。3文字と4文字も忘れているが、まぁ良いか。
「私ね、死神なの。」
「え?」
自然と入り込んできた言葉。
意味を理解した俺は、サナに聞き返していた。
「私の側にいると悪いことが起こるんだって。
私と喋ると、魔術が使えなくなるんだって。
だから君の魔術が乱れるのは、シニガミの私がココにいるからだよ。」
そう言って、スゥっと遠くの空を眺めるサナ。
重たげな髪がサラリと風に揺れ、覆い隠していた顔の左半分をさらけ出す。
左半分の頬から上。顔全体の1/4程がピンク色に変色している。
そして左目は、白色の部分が紺黒く、瞳は金色。
「ふふ。変な色でしょ。……気味悪がられて焼かれちゃった。目、自体は無事だったけど。」
金の瞳と漆黒の瞳が、キョロリとこちらを見る。
自嘲気味な笑みが、サナの口元には浮かぶ。
「……シ、じゃなくて、……サ……セ……ソ……?んー?何だったっけ、唯一神の名前。」
聞き飽きるほど聞いたハズなのに、今は全く思い出せない。
そもそも、横文字の名前って全然覚えられないんだよな。――――漢字でもよく忘れるが。
「ん、セネル様?」
「あー、それそれ。セネル。うん、覚えた。」 たぶん。
「呼び捨てると、強烈な信者が怒るよ?」
「“様”を付ける理由も無ぇし、呼び捨てで怒るような神なら器が小さすぎるだろう。
それより、お前の方が強烈な信者?とやらに怒られるんじゃねーの?」
「……なんで?」
あれ?自覚無いのか?
「死神って『神』だろ。……んーと、なんちゃら神一人しかいないってあれだけ言われてるのに、お前が神を名乗っちゃって良いのか?」
意味を理解したらしい、サナは『クスッ』と笑う。
「変なの。」
呟いた彼女はクルリと後ろを向き、『じゃあね。』と言って何処かへ行ってしまった。
――あれ、雨?
地面が一粒の滴を吸い込み、黒い丸を作り出している。
しかし空を見上げても、ちらほらとしか雲は見えず、真っ青な空が広がっている。
――魔術の水でもかかったか。
どっちにしろ、どうでも良い。
「【火球】。」
……しーん。
「【火球】。」
ボッファァァァァアアアーーー!!ドッッッカーン!
……。
――ここに結界が張られてて良かったな。
不発に終わった前のパワーを借りて、威力が増した次の【火球】。
頑丈な結界により、被害が無かったことに安堵する。
……でも、何かが変なんだ。
この学校に来てからではあるが、サナ云々関係なく、なんかこう……
――“魔術が、発動されるのを嫌がっている”感じがするんだ。




