第9話 謎の女性がやってきました
さて、この町に来て早2週間…私は、今日もあの丘の上で魔法の練習をしていました。
「『基本魔術 簡易物体移動』」
しかし、置いた箱は動く気配を見せません…
「あら? 魔法の練習ですか?」
その時、後ろから誰かに話しかけられた。ヴァーテルは、露天で買い物をしているので、この場にいません。それに、それは女性の声でした。
「その…お邪魔でしたか?」
私が、振り返るとそこには青い空を思わせるような青色の髪をした女性が立っていました。
「えっと…あなたは?」
私が、名前を尋ねると女性は少し驚いた様子を見せました。
「まさか名前を尋ねられるとは思わなかったわ…そうね…空…空とでも名乗っておきましょうか…。」
彼女はきれいに晴わったった空を見ながら答えました…
どうやらあの言い方だと本名を名乗る気はないようです…
空と名乗ったその女性は私に歩み寄って額に手を当てました。
「『探査魔術 記憶探査』『探査魔術 属性調査』『創造魔術 私の世界』」
彼女がそう唱えるとあたりがまぶしい光に包まれ、私は思わず目をつぶりました。
「…そうなの…あなたは、異世界から来たのね…。」
「そう…ですけど…。」
先ほど、目を閉じてから1分ほどたっているでしょうか?
空の声を聴いて私は、ゆっくりと瞼を開けました。
「ちょっと驚かせちゃったかしら? そんな警戒しなくてもいいわ…少しあなたの記憶をのぞかせてもらっただけよ…。」
「記憶を?」
記憶を覗いたって…もしかして、さっき言っていた探査魔術っていう魔法でしょうか?
ここまで来て私はある違和感に気づきました。
目をつぶる前には、確かに丘の上にいたはずなのだが、私はなぜかかなり背の高い本棚が置いてある図書館のような場所に来ていたのです。
何でこんなところに…
私は、原因を探るために先ほど、彼女が何を唱えていたか考えてみることにしました…
確か、探査魔術の記憶調査と属性調査…これはおそらく関係ないと思います…
「となると…創造魔術 私の世界…。」
「…正解…さすがね…ねぇあなたが住んでいた世界の話を聞かせてくれないかしら? 椅子も用意しますので…」
彼女が、指を鳴らすと目の前に椅子と机が現れ机の上にはティーセットが置いてありました。
「遠慮せずに座ってください…。」
空は、私に席に座るように促してお茶を入れます。
「失礼します…。」
私が、椅子に座ると空が私の顔を覗き込むようなそぶりを見せる。
「さっそく聞かせください…あなたの世界の話を…」
間近で見ると彼女の水晶のような瞳に吸い込まれそうになります。
先ほど魔法を使っていて記憶を勝手に覗いてるのに、私の口から話す必要があるのでしょうか? しかし、このまま黙っていてはいけない気がしたので、私は、もともといた世界の話を始めました。
空は私の話が大変興味深いのかそれとも話に併せているだけなのかわからないが、時々相槌を打ったり質問しながら聞いていました。
特に科学の話に興味を持ったらしく私は、出来る限り質問に答えました。
私が、一通り話を終えると空は満足げな顔をしています。
「ありがとうございます…とても有意義なお話でした…そうですね…さっそくあなたの言う科学とやらを少し研究してみる事にします…そうそう、あなたとのお茶の時間はとても楽しかったですよ…あなたとはまた会える気がします…『魔法解除 創造魔術 私の世界』『時間魔術 時間逆行』」
すると、再びまぶしい光に包まれたと思うと元の丘の上に戻っていました。
日が暮れていないところを見るとあまり時間は立っていないようだ…違うことと言えば空がいないことでしょうか?
「あれは…夢だったの?」
そう思いましたが、夢にしてはあまりにもリアルすぎます…
だから、おそらく夢ではなかったのでしょう…
空が何者なのか気になりますが、私は、魔法の練習を続けることにしました。
「『基本魔術 簡易物体移動』」
でも、結局その日も箱を動かすことができませんでした。
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