67 最後の最後まで
リリィは天井を見上げながら手をニギニギとして無邪気に笑っている。
自分の母親が、死んでいくと言うのに。
少しは泣いて悲しんで欲しいと思うのだけれども、本当にこの子は。
そして、リーゲの頬を撫でている。
元気づけようとするかのよう。
私は、それを見届けると、さらに上に登って行った。
大神殿が下に見える。
そして、真っ黒なモヤに包まれる前の国が。
リリィが居るので、前の国も、この世界も完全には消えていない。
だけど、人外達が、何かを企んでいる。
私としては、これを何とか防がないと。
多くの人に伝える手段と時が、私には限られているからだ。
そして、夢で見た異世界の若者。
あの青年がこちらの世界に来れるように、仕掛けを施しておこう。
もし、転移の力を大神殿を悪用して使おうとしたら、その時に。
伊達に、転移の力で、アチコチ探検したわけではない。
格の違いを、人外達に思い知らせてあげる。
あの若者は、ウトウトと寝ていた。
ねぇ、リリィ。
あの子で、本当に大丈夫なの?
母としては、少し心配だわ。
私は、出会う可能性のある時期のリリィの姿を、彼に見せることが出来るか試みて見た。
彼は、ジッとリリィを見ていた。
見ている相手は、少し大人になったリリィかしら?
リリィの後ろから見ている私からは、その成長した全ての姿が見えていない。
どんな姿に成長しているんだろう?
今は、どうなるか予測もつかない。
それでもこの二人は、互いに強く引き寄せようとするのだろう。
「リリィ。いつか、あの彼のことを教えてね。でもそれは、ずっと先で大丈夫よ。それから、ごめんなさい。二人とも。苦労をかけますね」
そして私は、白い白い世界へ、向かって行った。




