第88話 実戦訓練
あの後、主にレイヴ洞窟に関する情報の共有を葵さんと済ませた僕は、現在他の勇者組やウォルス団長率いる騎士団員さんの集団と共に、レイヴ洞窟の入り口に集まっていた。
話に聞いた通りドワルドの中央広場にあったそれは、魔物が出てこないようにかフェンスでしっかりと覆われているものの、その奥に町中には似つかわしくない仄暗い空間を覗かせている。
しかし、材質は違うもののダンジョンの壁の性質は僕のダンジョンと同じようで、洞窟の岩壁は薄光りしており、完全な暗闇は出来ていないようだった。
そんな風に、僕が呑気にレイヴ洞窟の入り口の観察をしていると、メンバーが全員揃っている事を確認したらしいウォルス団長が「よし、全員揃ったな。それでは改めてにはなるが、今回の実戦訓練での注意点を話しておく。聞き漏らしのないように」と、前置きをして、前も何度か話していた注意点を説明し始めた。
重要な内容を要約すると、状況に応じて戦闘する人を決めるので、魔物を見つけても勝手に戦闘を始めないように、というのと、異常事態が発生した際は撤退の指示を出すので、その時は慌てて隊列を崩さないようにしつつも急いで上の階層に逃げるように、という話であった。
他にも細かい注意点はあったが、それは実戦を経験していない他の勇者組向けの話(血を見ても怯むななど)だったため、僕はそれに関しては軽く聞き流した。
そうしてウォルス団長の話も終わり、いよいよ全ての準備が終わった僕たちは、フェンスゲートを通ってレイヴ洞窟の内部へと侵入していった。
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レイヴ洞窟に入って、僕は驚いた。
いや、まあ事前に情報として知ってはいたのだが、それでも僕は目を丸くした。
僕のダンジョンとは違い、魔物がそこらを気ままに闊歩している、その様子に。
それは、僕からしたらありえない光景だったのだ。
せっかく冒険者の方から来てくれるのだから、通路の角等に魔物を配置して待ち伏せをする。
侵入者の撃退を考えるなら、当然のことだ。
各個撃破されるのは不都合なのだから、複数魔物がいる場合は集団で配置する。
魔物の召喚費用を考えるなら、当然のことだ。
しかし、その当然のことをしないということは……やはり、僕のダンジョンとは何かが違うんだろう。
さて、僕の感想の話はこれくらいにしておいて、このダンジョン探索の主な目的である実戦訓練に話を移すと、結論から先に言ってしまえば実戦訓練はかなり順調に進んでいた。
魔物を発見したら、ウォルス団長が戦う勇者を指定して戦わせ、万が一がないように騎士団員はいつでもカバーが出来る位置に待機しておく。
ひたすらこれを繰り返して、僕たち勇者組は交代ごうたいに戦闘もとい訓練をしていたわけなのだが……正直、トラブルが起きる要素が見当たらなかった。
ダンジョン自体は探索済みでマッピングもされているため、道に迷うこともないし、同様の理由でトラップに引っ掛かることもない。
魔物との戦闘も、いくら実戦は初めてとはいえ勇者は勇者なので、大して危なげもないし、ウォルス団長という強力な司令塔がいるため混乱も起きそうにない。
ということで、初めての実戦訓練で皆気負っていた割にはかなりあっさりと、僕たちは最下層の十階層に続く階段へと到着した。
僕としては、このまま最下層である十階層に行ってもよかったのだが、ウォルス団長の指示で一旦休憩をとろうということになり、僕も他の人と同じく休憩をとる。
それで暇だったため辺りを見回していると、葵さんが何やら最下層に続く階段をしきりに気にしている様子が視界に映った。
何かおかしなものでも見つけたのだろうか。
気になった僕は、葵さんに直接確認することにした。
「葵さん、何かおかしなことでもありましたか?」
「あ、努君。別に、おかしなことと言うほどではないかもしれないんですけど……ちょっとあの階段がある通路の壁、変だなって思ったんです。そこに確かに見えてるのに、所々偽物のような気がして。もっと近くで見れれば、確かな事が分かると思うんですけど」
「……どうせ休憩が終わったらあそこを通るわけですし、その時に確認してみましょうか。僕のダンジョンの改造リストに載っていたトラップかもしれませんし、何か分かるかもしれません」
それから少しして休憩も終わり、僕たちはいよいよ最下層の十階層へと向かうために階段を降りていく。
そのときに、僕が葵さんの言っていた変な箇所を確認した結果、幻影トラップによって隠されてはいるものの、壁にサッカーボール程度の大きさの空洞がいくつも開いていることが判明した。




