第86話 必然を待つ
葵さんの部屋で神岡を殺すための計画を考えて、それを葵さんに伝えてから五日後の朝。
眠りから覚めた僕は、寝ぼけ眼を擦りながら緩慢な動作で自分のベッドから起き上がる。
そして、頭の中で今日の予定を確認していき……重要な予定が今日ある事を認識して、半分眠っていた意識を一気に覚醒させた。
というのも、今日は実戦訓練をするためにダンジョンへ遠征に行くと、おととい団長が勇者全員に通達していたのだ。
僕以外の人は初実戦、初ダンジョン、初王都外と、初めて尽くしのイベントになっている。
僕もダンジョン探索は初めてになるわけだが、とにかくやりたい事がたくさんあった。
ダンジョンマスターとして、他のダンジョンがどのように成り立っているか知りたい。
普通の日本人であったクラスメイトたちが、どこまで生き物である魔物と殺し合えるのか見てみたい。
そして何より……この機に、神岡を殺してしまいたかった。
五日前から、僕たちは計画の第一段階として神岡を油断させるために、というよりは警戒させないようにと、ひたすら目立たないように過ごしてきた。
篠宮努と五十嵐葵という存在が、神岡にとってはクラスメイトの一員というただの有象無象になるように。
今までのターゲットとは違い、警戒心の強い神岡相手に、こちらから積極的に動くわけにはいかなかった。
だから、計画の第二段階も計画と言っていいのか怪しいほど曖昧で、受動的なものになっている。
その内容をざっくり説明すると、神岡が何らかの原因で僕と葵さんに対する警戒を完全に解くのを待つという、こちらから出来る事は何もない、一見神岡任せのもの。
しかし僕は、これしか出来る事がないから、なんていうネガティブな理由でこの計画を考えた訳ではなかった。
いつ来るかは分からないが……必ず神岡が警戒を解く時が来るという、確信があったのだ。
何せ、表面上僕たちと神岡は、共に戦う仲間なのだから。
そうした確信の下に待って、やって来たのがこの機会だ。
実戦訓練という、共に戦う絶好の機会。
自分から能動的に動く事は出来ないものの、その時が訪れる可能性は大いにある。
そんな風に、僕は期待に胸をふくらませながら朝の身支度をして、自分の部屋を出た。
そして、相も変わらず葵さんと合流してから食堂で朝食を済ませ、他の多くのクラスメイトと同じように訓練場へと向かう。
そうして着いた訓練場では、ウォルス団長とその部下らしき騎士団員が既に待機しており、訓練場に到着した僕含む勇者組の名前をチェックしていた。
全員来ているか確かめるため、というよりかは、誰が来ていないか確かめるためのようだ。
だって、例のリタイアした三人は多分来ないだろうから。
案の定と言うべきか、その後ダンジョンに向かうべく出発したウォルス団長率いる集団の中に、例の三人の姿はなかった。




