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第76話 血生臭い合流

 僕の移動先は、事前に二人で決めておいたとある部屋だ。

 僕による王城内での大量殺人事件で殺された文官の部屋で、今は一時的に空き部屋になっている。

 予定通りならば、今頃葵さんと橋川さんの死体があるはずだ。

 そこに、僕の方から葵さんを迎えに行く。


 橋川さんを殺した後、葵さんはどのような状態になるのか分からない。

 案外大丈夫だった、なんて可能性も無きにしもあらずだが、恐怖で動けなくなってしまっている可能性だってあるし、最悪の場合は心に深い傷を負ってしまっている可能性だってある。

 そこで、どんな状態になっていたとしても最悪の事態は免れるようにするために、僕の方が動くという訳だ。


 まず、僕は人目を避けて移動するために、適当な場所に隠れてからコピースライムをオリジナルの姿に戻して背嚢の中にしまった。

 あくまでコピースライムの役割はアリバイ作りであり、それが終わってしまえば用済みのためだ。

 出しておいたとしても、今は足手まといになるだけである。


 そして、その後は人の目に触れないように、最低限顔は見られないようにして隠れながらも、出来る限り急いで移動していく。

 

 この世界には正確な時計が無い。

 そのため、具体的な情報さえなければある程度アリバイも前後させることが出来る。

 上手くいけば、僕とコピースライムが食堂からいなくなっていた間の事なんて誰も気に留めず、この時間帯は食堂にいたという情報だけが残るはずだ。


 こうした考えの下、僕は移動を続け、例の部屋に到着した。

 僕は周りに人がいない事を確認してから、念のために扉に耳を当て聴力を強化し、聞き耳を立てる。


 ……特に異常な物音は聞こえない。

 ただ、一か所で布が擦れる音がするだけ。


 内部に大きな異常がないことを確認したところで、僕は部屋の中へ入った。


「葵さん、大丈夫ですか? 怪我はないですか?」


 僕は部屋で葵さんの姿を確認すると、すぐそう問いかけた。

 それが僕にとって、何よりも重要なことだだったからだ。


 扉のすぐそばにあった血だまりと、橋川さんの死体よりも。

 リビングナイフに付いた血を、部屋にあったベッドのシーツで拭っていた葵さん自身の風貌よりも。


「あ、努君。そんなに心配しなくても、私は大丈夫ですよ。努君の考えた作戦なのに失敗するはずないじゃないですか」


 葵さんはゆっくりと振り返って、僕の質問にニコリと笑ってそう答えてみせた。

 自分のやった事に、目の前の死体に、何の未練も無さそうに。

 いや、もしかしたら[そうに]ではなく、実際そうなのだろうか。


 気になる事はあるが、それは後でいい。

 僕は改めて目で葵さんの体に傷がないことを確認して、ほっと胸をなでろした後、ひとまず現場からの離脱を優先することにした。


「本当に大丈夫そうですね。はぁ、よかったです。取り敢えず今はここから離れる事を優先させましょう。移動の準備は出来てますか?」

「はい、血も拭いましたし、荷物は元々少ないので問題ないと思います」

「……頬に血が残ってますよ」

「え?」


 どうやら頬に飛んだ血は視界に入らなかったようで、拭き残してしまったようだ。

 まぁ、これは仕方のないことだろう。


 僕は背嚢の中から手拭いを取り出し、葵さんの頬の血を優しく拭う。

 すると、葵さんは少し恥ずかし気な表情を浮かべて口を開いた。


「す、すみません」

「気にしないでください。この場所は仕方ないですよ。はい、これで大丈夫です。では今度こそこの場を離れましょう。細かい手順は事前に確認した通りですが、何か質問はありますか?」

「大丈夫です」

「よし、では始めましょうか。帰り道も油断せずに行きましょう」


 僕はそう言うと、血だまりを踏まないよう気をつけて扉まで行き、いつものように聞き耳を立てて周りに人がいないのを確認したところで、扉を開けた。

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