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閑話 迷宮入りの使命

「くそっ、一体何が起きてるっていうんだ?」


 食堂から団長室に戻って、部下から今回の事件の調査結果を聞いた後、俺は思わずそう独り言を呟く。

 実際、今回の事件はあれらの事件と同じぐらい謎に包まれていた。


 殺された場所ははっきりしている。

 王城のとある倉庫部屋だ。

 現場の様子から見て、これは間違いない。


 殺害方法もはっきりしている。

 鋭利な刃物による刺突だ。

 胸の傷から見て、これも間違いない。


 だが、問題の犯人に繋がる物は何一つとして残っていない。

 物としても、目撃情報としても、本当に何も残っていないのだ。


 先ほど[あれらの事件と同じぐらい]と言ったように、今回のような事件が起こるのは初めてのことではない。

 王都で起きた王城関係者の連続殺人事件と、文官の大量殺人事件も、今回の事件と同じように犯人に繋がる情報をほとんどつかめないでいる。


 王城での事件では、逃走する犯人が目撃されているが、外套に覆われたその人影からは、顔はおろか性別すら判断することが出来なかったようだ。


 同僚を殺された貴族からの圧もかなり強くなってきている。

 本来なら、今すぐにでも勇者たちに聞き込みを行って朝倉宏和の行動を洗い出したいところだが……俺は、聞き込みを遅らせる判断を下していた。

 現在召喚されている勇者は、少々メンタル面が危うすぎるからだ。


 記録によると、歴代の勇者は前の世界に未練がなかったり、何故かこの世界の知識を事前に有していたりしたため、召喚によって精神が不安定になることはなかった。

 むしろ、召喚されて喜んでいた勇者もいたという。

 

 それが、今回の勇者はどうだろうか。

 前の世界に家族、友人を残してきている者がほとんどで、召喚されたことを嘆いている。

 人数が多いとはいえ、このままではとても戦力にならない。


 そこで、俺に勇者たちの指導が任されたわけだが……今回の事件でどうなることやら。

 

 少しずつこの世界に慣れさせていくつもりが、これで全てパーになってしまった。

 彼らは、この世界が前の世界とは比べ物にならないぐらい物騒なことを一瞬で知ってしまったのだから。


 しかしいずれにせよ、俺も、彼らも、立ち止まることは出来ない。

 俺はいくら情報がなくても、この不可解な事件の犯人を騎士団の誇りをかけて捕まえなければならないし、彼らはいくら恐ろしくてもこの世界で戦わなければ元の世界には帰れない。


 俺は殺人的な忙しさの中、得体の知れない不安を使命感で押し込め、団長としての仕事を進めていった。

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