第39話 帰還
見慣れた草原を歩いてダンジョンの入り口に到着したとき、後ろからついてきていた諜報員さんがささやかな抵抗を試み始めた。
まだ無駄だと分からないのだろうか。
「なあ、こんな気味の悪い噂のあるダンジョンに入ろうっていう提案は無茶な提案に含まれねえのか?」
「死ねと提案するよりかは全然マシな提案だと思いますが、あなたはどう思います?」
「……ああくそ分かったよ。行けばいいんだろ行けば」
うん、分かってくれればいいんだ。
分かってくれれば。
怖気づく諜報員さんと共に、僕はダンジョンに入っていった。
そして、取り込んだ魂をダンジョンに出していく。
今回の外出ではかなりたくさんの魂を集めたから、後で確認するのが楽しみだ。
道は分かっているので、迷いなく迷路を進んでいく。
当然トラップは発動しないようにしてあるので、実に平和なダンジョン探索だ。
流石に不思議に思ったのか、途中諜報員さんに「どうして道が分かるのか」と聞かれたが無視した。
どうせ、後々嫌でも知ることになるだろう。
そのまま二階層目に続く階段に到着し、そのまま階段を降りていく。
すると、あるものを見つけた。
「おや、これは……」
「ん、何か見つけたのか? っておいおい、こりゃ人の死体じゃねえか。ひでえ臭いだな」
そういえば、死体の還元って僕がやっているから、留守にしている間は死体は溜まる一方なのか。
目を強化して広間を見てみると、他にも数体の死体を確認できた。
その影響か、二階層目にはひどい腐乱臭が漂っている。
どうやら無謀な冒険者が侵入してきていたようだ。
「うおっ、死体が消えた!?」
当然気持ちのいいものでもないので、さっさと還元してしまうことにする。
後でリビングウォッシャーにこの広間を清掃してもらわなきゃだ。
もうダンジョンに来る人は多くないとは思うが、死臭がするからなんていう理由でせっかくの獲物を逃がしたくない。
狩れるものは狩っておかなくては。
他に何かやらなきゃいけないことは……む、壁際にいる近接装備のクレイゴーレムの武器に血が付着している。
防具がボロボロになってる奴もいるし、これらの手入れもしなければならなさそうだ。
思考で装備品の手入れが必要そうなクレイゴーレムに指示を出し、ついてくるようにする。
「お前って実は魔物なのか?」
「はい?」
「いや、普通魔物を従える奴なんて上位の魔物ぐらいだろ」
ふむ、魔物を従えている人を見たら普通はそういった反応を示すのか。
この反応を見るに、どうやら魔物使い等の職業は存在しないようだ。
「答え合わせはもうすぐですからさっさと付いてきてください。そこのクレイゴーレムはこの男の手を引いてあげてください。暗闇で周りが見えないでしょうから」
「俺は魔物に手を引かれないといけないのか……」
「嫌なら魔物に担いで行ってもらいますがどうします?」
「そいつは流石に勘弁してくれ」
僕とクレイゴーレム、そして諜報員さんはこうして歩いて二階層目を移動し、管理室へとたどり着いた。
さて、確かめたいこともあるので、ここらで答え合わせをしてあげよう。
生かして帰すつもりもないしね。
「目的地に着きましたし、あなたのお望み通り僕が何者か教えてあげましょう。僕はこのダンジョンのダンジョンマスターをしています。噂通り、侵入者は一人として逃がした事はありません。ですから、あなたも逃げられると思わないでくださいね?」
僕の言葉を聞いた諜報員さんの顔色が、少しだけ青ざめたような気がした。




