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幕間 救世主(自殺願望者)

 私は生まれつき、普通の人より多くのことを感じることができる観察眼を持っていた。

 植物を見れば、水が足りているか、栄養が足りているのかが分かる。

 昆虫を見れば、お腹が空いているのかどうかが分かる。

 そして、人間を見れば、その人の考えていることが何となく分かった。

 ……分かってしまった。


 両親は私を受け入れてくれたけれど、周りはそうとも限らなかった。

 私を気味悪がって、疎み、遠ざける。

 私だってこんな能力、望んだわけじゃないのに。

 嫌でも見えてしまう周りの感情は、確実に私を蝕んでいった。

 

 そんな中、私の両親は必死になって私を支えてくれた。

 辛くなったとき、思わず「母さんと父さんは私を気味悪がらないの?」と聞いてしまったことがある。

 そうしたら両親は「自分の子供なんだから当然でしょう! そんなこと言わないの!」と、ちょっと怒りをあらわにしながら言った。


 嬉しかった。

 自分を絶対に見捨てない人がいるんだってことが途方もなく。


 これまでなんとかやってきていたが、高校二年生になってから、私はいわゆるいじめを受けるようになった。

 今までは多少の悪口や嫌がらせにとどまっていたのが、暴力を受けることも出てきたのだ。

 運悪くいじめっ子と同じクラスになってしまったせいで。

 私が目を付けられるのは必然的だった。


 精神的にギリギリの毎日の中、私は変なクラスメイトを見つけた。

 名前を篠宮努というらしいのだが、私には彼がとても異質に見えた。


 人間の思考というのは、毎日何かしらの影響を受けて、何かしら変化するものなのだが、彼は全く変わらないのだ。

 まるで、そうするように設定されたみたいに。

 周りの人には普通の人として見られているみたいだけれど、その違和感が消える事はなかった。


 そんなある日、私が放課後に屋上でいじめられている時に、彼がやってきていじめっ子たちを撃退してくれた。

 今まで私を助けてくれる人なんていなかったから、私には彼が正義の救世主のように思えた。


 けど、そうじゃなかった。

 彼の動きにいつもの違和感はなく……自然に彼は絶望していた。

 目に光がない。

 どんな人間にもあるはずの正の感情が一切ない。

 あらゆる情報が負の感情を指し示した。

 彼は救世主などではなく、絶望した一人の自殺願望者だったのだ。

 

 私は彼を助けたかった。

 同情もあったのかもしれない。

 恩返しのつもりだったのかもしれない。

 でも何より、私を助ける時にほんの一瞬見せてくれた、目に光ある彼の顔をもう一度見たかった。

 あのときの彼の顔はとっても素敵で……恥ずかしいことに、一目惚れしてしまったのだ。

 

 しかし、彼はもう言葉でどうこうできる段階じゃなかった。

 だから、直接止めることにしたんだ。

 

 私は、躊躇いなく彼に抱き着いた。

 彼の目に光が少し出てきた。

 私は「あなたを孤独にはさせません」と言った。

 彼の目の光がはっきりとしたものになった。

 私は「生きる理由を作ります」と言った。

 彼の目の光が人並みになった。

 私は「だから……生きてぐだざいっ」と言った。

 

 あれ、なんで涙が出てるんだろう。

 私、今すごく嬉しいのに。

 彼が人並み以上に目を輝かせて、私を見てくれてるのが、すごく。

 泣いてる彼を慰める予定だったのに、これじゃあ抱きしめることしかできないや。

 

 私は、彼の救世主になれただろうか。

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