幕間 篠宮努という男の過去⑤
あの日から一週間ほど、僕もとい【俺】はいじめを耐え続けた。
体にはいくつか痣も出来ているし、物的被害もそれなりに出ている。
もうそろそろ大人しいふりをするのは十分だと判断し、僕は動き始めた。
日本には法律があるし、警察も優秀なので物理的に殺すことは現実的じゃない。
でも代わりに、社会的に殺すことは出来るんだ。
僕が動き始めてから数日、学校にいた例の六人の顔は真っ青になっていた。
彼らは後から登校してきた僕を見つけると、一転して顔を真っ赤にして、僕に詰め寄ってくる。
そして、その態度に似つかわしくない言葉を発した。
「俺たち今までしてきたこと謝るからさ……取り下げてくれないかな?」
「何をですか?」
「白を切りやがって……裁判だよ! 昨日書類が届いて大変なことになってんだよ!」
「なんで取り下げると思ったんですか? もう手遅れだと何故分からないんです?」
奴らの顔がまた赤から青に戻る。
こちらとしては中々面白い光景だ。
今までの苦労が報われる。
奴らの言う通り、各々の家には弁護士から民事裁判の書類が届いているはずだ。
その内容は、奴らのしたいじめに対してそれぞれに七十万の支払いを求めるといったもののと、奴らの親に対して裁判所への出頭を求めるものだ。
きっと奴らの親は驚いてパニックになるだろうなぁ。
普通の人間は裁判なんて起こされないからね。
まぁ、僕には奴らが普通の人間には見えないから、親が普通かどうか知らないが。
「あなたたちがやって来た事は十分犯罪です。器物損壊、傷害、窃盗……刑事裁判にならないだけよかったじゃないですか」
「お前……まるで別人じゃねえか」
「まさか、僕は正真正銘あなた方にいじめられていた篠宮努ですよ」
「くそっ、まだ負けたわけじゃねえからな!」
「無理だと思いますけどねえ」
流石に、僕にまた何か危害を加える気にはならなかったらしく、奴らは捨て台詞を吐いて去っていった。
確かにまだ裁判に勝ったわけじゃないけど、僕は徹底的に準備をしている。
壊されたり汚された所持品の保管、いじめによる怪我の状況を記録した画像、いじめの状況を録音した音声などなど、他にもあらゆる奴らがいじめをしたと証明する証拠を集めてきた。
大人しい僕を【俺】に演じさせて。
あとは証拠も不自然でない程度に見せつつ、両親に相談して、弁護士の人と直接相談が出来る状況を作った。
そして、奴らを訴えるのにあとどれくらいの証拠が必要か、今まで集めた証拠を並べて聞いた。
両親も弁護士の人も驚いていたけど、仕方のない犠牲だ。
僕は未成年だし、法律の専門家でもない。
どうしても、大人の助けが必要だった。
例え、両親が昔のような目で僕を見るようになったとしても。
弁護士の人は驚きつつもしっかり質問には答えてくれたので、聞いた通り怪我の診断書なども新たにとった。
その後も弁護士さんとの相談を重ねて訴訟の準備を本格的に進めていき、今に至るのだ。
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その後の六人の末路は、凄惨の一言に尽きる。
示談を持ち掛けてきたが、僕は断った。
僕は奴らがいじめで訴えられて、その裁判で負けたという事実が欲しかったのだから。
奴らは裁判で敗北した。
結果を公開したわけではないが、僕と奴らの様子を見ていればおのずと結果は見えてくる。
このクラスには奴ら以外にいじめをするような人はいないが、冷遇はされた。
保護者会等から噂が広まり、この町での社会的地位も家族ぐるみで地に落ちた。
もう奴らがこの町に戻ってくることはないだろう。




