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幕間 篠宮努という男の過去④

 翌日、僕は【俺】に切り替えずに学校に行った。

 いじめの解決という、この実に道徳的な目標を達成するためには、僕が色々と動かなければならない。

 【俺】には、授業と会話のときだけ切り替えるつもりだ。


 教室に行くと、僕のロッカーの中身が荒らされていた。

 中に入っていた教科書や、ノートに僕への悪意が込められた落書きがされている。


 さらには数冊の教科書、ノートが消失していた。

 僕にとっては好都合だが、思ったより手を出すのが早い。

 そんなに邪魔をされたのが腹立たしかったのだろうか。

 

 僕は自分のロッカーの有様をスマホで撮影すると、自分の席へと着く。

 それから、昼休みまでは普段とさして変わらなかった。

 教科書が消失していた教科の授業で【俺】が多少苦しんでいたが、それくらいのものだ。

 授業に支障が出るほど酷い精神状態には設定していない。


 昼休み、屋上にいた五名プラス他一名が僕の方にやってきた。

 どうやら、いじめの対象は完全に彼女から僕にシフトしているようだ。

 大体何をしようとしているのかは察しがつくので、僕は制服の内側の胸ポケットに入れた録音機のスイッチを入れた後、【俺】の方にスイッチを切り替えた。

 あとは裏の方でじっくり観察するとしよう。


「ぐっ!?」


 半強制的に屋上に連れ出された【俺】は、膝の裏を蹴られて四つん這いになる。

 最初は昨日と全く違う様子の僕を多少訝しんではいたが、【俺】が抵抗しないと理解するや否やすっかり安心して事に及ぶようになった。


「よくも俺たちの邪魔をしてくれたなぁ!?」

「ごふっ」


 続いて、四つん這いになった【俺】の腹が蹴り上げられた。

 できれば入院しないレベルでお願いしたいところだ。

 本当にやばそうだったら僕が出るけど、できればしたくない。


「も、もう許して……」

「何舐めたことを言ってるんですか?」

「この程度で終わると思ってんのか!?」

「う、うぅぅぅぅ……」


 結局、昼休みが終わる直前になるまで、【俺】は罵声と暴力を浴びせ続けられた。

 【俺】には中々効いていたようだ。


 僕としては、入院して時間を取られたり、後遺症が残るような怪我がない限りは問題ない。

 軽い怪我は必要経費であり、重要な証拠でもある。


 午後の授業も特に普段と変わりなく終了し、放課後になった。

 また例の六人がやってきて、今度はトイレに連れ込まれて、同じようなことをされる。

 屋上と違って水をかけられたときは、電子機器を守るために僕を一瞬出した。

 壊れてしまったら、今日の努力が水の泡だからね。


 ようやく解放されて、下校しようとすると、昇降口に彼女……葵さんが佇んでいた。

 

「わざわざ待ってたんですか?」

「心配で、なんだか私のときよりエスカレートしてるみたいだったから……ごめんなさい」

「なんで謝るんですか。僕がちっとも精神的ダメージを受けていないのは君なら分かるでしょう。体の傷も大したことはありません」

「でも、私の代わりに篠宮君が」

「僕は君にいじめの矛先が向く方が恐ろしいです。だから、今のいじめられていない自分を責めないでください。僕が大人しくやられてるのだってわざとなんですから」

「そう、なんですか?」

「ええ」


 彼女の観察眼なら、僕が嘘をついていない事がすぐにわかるだろう。

 それについてどう思うかはともかく。


「無茶はしないでくださいね」

「もちろんです」

「……あの」

「なんです?」

「一緒に帰ってもいいですか?」

「よっぽどのことじゃない限り僕は君の頼みを断りませんよ」

「ありがとう、ございます」


 途中までだが、大した会話もなく二人で並んで歩いた帰路では、確かに温かい感情を感じた。

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