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愛される幼女は獣を愛する  作者: ばる。
4/4

第四話 それは夢物語か

「全く…私にこんな事をさせるなんて」


 沈黙が続く地獄のような時間を止めてくれたのは、私が勝手に恐怖心を抱いているフォードさんだった。馬車の扉を開けた彼は、片手で持つ宝箱をその繊細そうな見た目に似合わず乱暴に投げ、あまりにも静かな団員達を訝しげに見た。

「何をしているんです?」


 そう聞いても尚何も言わない団員さん達。まるで魂が抜けたように床の一点を見つめ続けている。そして私の額にはじわりと汗が滲み始めていた。まずい、本当にまずいぞ。私のせいだとバレたらフォードさんが何と言うか……。あ、フォードさんと目があっちゃった!


「ああ、リサ!可哀想に……おじさん達に放って置かれて寂しかったでしょう!年ばっかり食って不甲斐ないおじさん達……こんなに情けない団員ばかりで一体これから先どうなるんでしょう?リサ、貴女が頼れるのは私しか居ませんよ」


 おじ……!ああ、団員さん達が傷付いてる!フォードさんがおじさんとか不甲斐ないとか言うたびに団員さん達の顔が死んでいく!私のせいでもの凄い二次災害が!ごめんなさい!


「フォード!」


 団長さんが厳しい顔でフォードさんに叱責を飛ばす。流石だ!フォードさんを止められるのは団長さんしか居ない!

「俺はおじさんでは無いぞ。まだまだ若い!お兄さんだ」


 なぜか私と目を合わせたままアウルムさんはそう言った。確かに、おじさんでは無い。どう見ても20代半ばくらいだろう。それにしてもあの、いつまで目を合わせてるんですか?


「全く…よく言う。魔素を取り込んでいなければ今頃お爺さんでしょう?」

 なんだと、そのファンタジー用語は!聞き捨てならない、と思わず私の胸は弾む。

「まそ?」

「魔素はな、魔物が体内に貯め込んでいる命の素の様なものだ。魔物を倒すと魔素が外にあふれ出す。それを人間が吸い込むと生命力が高まるんだ。だから魔物を倒し続けている冒険者は何百年と生きている奴がざらにいる。俺達だってそうだ」


 そう言ったアウルムさんの顔をじっと見つめる。とても何百年も生きているようには思えない。いや、この見る者すべてを従わせてしまうような圧倒的な強者のオーラは年の功もあるのかもしれない。

「おじいちゃん!」

「おじっ……!?」


 アウルムさんはピシリと固まる。そしてクスクスと笑うフォードさんを見て、言ってはいけないことだったのかと後悔する。

「ふふ、お爺さん。そろそろ荷物の運搬が終わるそうですから、出発の準備をした方が良いのでは?」

「お爺さんは辞めろ!二度と言うな。」


 相当苛立った様子でフォードさんを見る団長さん。私は恩人に凄く失礼なことを言ってしまったみたいだ……。本人が気にしていることを言うなんて最低だな、私。


「リサ……?見なさい、リサが落ち込んでいるではないですか!貴方はもう少し考えてから言葉を話しなさい!」

「団長、大人気ないな。二度とリサに近寄らないでくれ」

「教育上良くないですよ、二度と近寄らないで下さい」

「それにさっきから距離が近すぎです!セクハラですか?」

「お前ら……!!」

 みんな団長さんのことが大好きなんだね。だから私みたいな素性も分からない怪しいやつに近づいて欲しくないんだ。分かっていても辛いな。ぐっと拳を握りしめる。うわ、爪ちっちゃ。さすが子供の爪。桜色でかわいい……。

「ね、ねえ、これ食べない?いや、別にいらないならいいんだけどさ!もし良かったらどうかなって………なーんて……へへっ僕なんかがごめんね気持ち悪いよね」

 目の前に差し出されたのは綺麗な袋に包装されたクッキー。クッキー……!?この人早口すぎてほとんど何言ってるか分からなかったけど、凄くいい人だ!!

 目の前の人をじっと見つめる。三つ編みにされた緑色の髪に、薄茶色のダックスフンドのような垂れ耳。あ、笑顔が滅茶苦茶可愛い。思わずきゅんとした心を誤魔化すように、大きな声で答える。

「たべる!」

「ほんとに!?ど、どうぞ!」

 差し出した私の手に、震える手でクッキーが乗せられる。嫌悪感で震えてるのかな、だとしたらそれを我慢してお菓子をくれるなんて凄く優しいな。あ、これハート型だ。こっちにもハート型があるんだね。意味も同じなのかな?


「あ、ハート型なのは別に深い意味はなくて!いや、無いわけでもないけどね……」

「メルル?」

 可笑しいな、フォードさんの笑顔が怖い。

「あの、ありがとう!はんぶんこしよう!」

 ぱきっと力を入れると、図らずも真ん中から真っ二つに割れた。少し不吉な気がしなくも無いけど、まあ今は子供だから許されるよね。

「真っ二つ……あのこれ、深い意味はないよね?……え、あるの?やっぱり僕なんか駄目だよね不釣り合いだよね友達にすらなりたくないよね普通」

「けっ、ざまーみろ」

「誰かな今ざまあみろって言ったのは!普通にひどいよね!?」

 な、なにこれ!ホロホロのサクサクで口の中がハッピー!!語彙力がなさ過ぎるけどそのくらい美味しい!!……あ、話聞いてなかった……今この人何か言ってたよね。

「おいしいね!」

 必殺!笑って誤魔化す。

「本当!?おいしいよね、そうだよね!」

 可愛いなぁ〜。この人、身長も高くて体つきとかはしっかりしてるのに笑顔だけすごく幼い。それにしても語尾がね、ばっかりなのは口癖かな?


「むう……リサ、菓子くらい俺が好きなだけ……いや菓子なんかじゃなく何でも買ってあげるぞ!何がほしい?宝石か?城か?ああ、ペットなんかはどうだ?ペガサスか?ドラゴンか?少し捕まえてくるまでに時間がかかるが、君のためなら何だって用意するさ」


 団長さんってば、真剣な顔で冗談ばっかり言ってー!真面目一直線みたいな見た目なのに中身はお茶目なんだね。ユーモアのセンスなら私も負けないぞ。


「えーっとね、くにがほしい!」

「国!?それは……少し待ってくれないか。君が大人になるまでには絶対にプレゼントするから」

 団長さんは目を見開いたあと、焦ったようにそう言った。

「国かあ、うん、そのくらい捧げないと駄目だよね」

「醜い者達でも自由に暮らせるような国だといい」

 ライアンさん、私のためにそんな……!でも、そんな国があったらいいね。醜い私が一人で出歩いても人さらいにあわないような、見世物小屋なんか無い国が。

「まさかリサ、俺達のことを考えて……!?」

「感動したよ、僕。」

「なんて優しい子なんだ……うっ、涙が」

「やめろ醜男の涙なんて見たくねーよ」

「おい今言ったの誰だ!!ここにいるの皆醜男だろうが!」

 ざわざわと一気に騒がしくなる馬車の中。うーん、騒がしすぎて皆がなんて言ったのか聞こえない。

「ふふ、世界じゃなくて良かったんですか?」

 いつの間にか隣に立っていたフォードさんはクスクスと上品に笑った。へー、貴方もお茶目なとこがあるんだね!

「うん、くにでいいよ!まっててあげるから!」

「そうか!では俺の名に誓おう。いつか君を一国の王妃にすると」

「えへへ、ありがとー!」

「約束だぞ、リサ。もし君が約束を破ったら俺はどうなるか分からない」

 へへ、団長さんってば変なの。真剣な顔しちゃって。国をプレゼントするって約束したのは団長さんなんだから、破るのは団長さんの方でしょ!それに子供にそんなこと言って、普通の子なら信じちゃうぞ。ほら、団員さん達も物凄い顔してる。はい、調子に乗ってすみません。醜い居候の分際で団長さんに無茶振りしてごめんなさい。

「うん!やぶらないよ!」

 


 …………ん、王妃?




久々の投稿です、ごめんなさい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです! これは続きが気になります(*^-^) 更新待ってます♪
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