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3-11 異変の兆候


「クオンセル君はギルマスから個別に話があるそうなので、このままここで待機していて下さい」


 全員に対しての評価が伝えられてて、解散する際にジュラからそんなことを言われる。エルフの件で話を聞きたかったので、むしろ好都合かもしれない。

 ちなみに俺への評価は別に悪いものではなかった。ただシンに言われたことがミミに残っている。シンとの衝突なんかもうまく緩和させて、パーティーとして分裂しないようにしてくれた、と何故か原因であるシン本人に言われた。

 釈然としないものがあったが、笑って頷いておいた。ただ最後に「もっと直感的に行動した方がいい。小難しいことをダラダラ考える癖があるように見えるから、言動にズレや理屈っぽい部分が多い。考えるのが苦手そうなんだがらもっと気楽にやれ」とシンに言われた。


 ふざけんな! こちとら短絡的な行動が原因で一度死んでるんだ。それを何とか改善して15年生きてきたんだっつーの!

 声には出さなかったが、心の中で精一杯毒づいてやった。



「1人だけ待たせてしまって申し訳ないですね」

 シンへの思いをぶり返していると金髪美人エルフが部屋に入ってきた。どこか妖艶な美しさを醸し出しているここビルリア支部のギルドマスターだ。

「いえ、私も聞きたいことがあったので渡りに船でした」

「ふふふ、そうですか」

 彼女は笑いながら唇に触れる。その様子が可愛らしくて思わずニヤけてしまいそうな表情筋に喝を入れる。

「実はクオンセル君に指名依頼が来ています。カルアラレの長老直々にです。もしかして知ってました?」

 彼女は笑顔の割には鋭い視線でそんなことを聞いてくる。冷静に考えればエルフの長老が駆け出し冒険者の俺に指名依頼をするっておかしい話だよな? あれ? もしかして俺って尋問されてるのか?


「……直接の面識は無いですが、共通の知人がいます。指名されたのはその辺りに原因があると思います。ちなみに、聞きたかったのはそのカルアラレのことでした」

「そうですか、クオンセル君は随分と広い人脈をお持ちなんですね」


「あははは、そんなことはないですよ。偶々ですよ。たまたま」

「それで何を聞きたかったんですか?」

 さらに鋭くなっな視線に全身に気合を入れて何とか平静を装う。別に悪いことをしている訳でもないし、 秘密にしておく必要も無い。ただ説明が面倒なので誤魔化したい。

「私としては昨日のエルフたちとの接触もあったので、何かご協力出来れることがあれば、と思っただけですよ」

「……まぁいいでしょう。そういうことにしておきます。それにギルドとしても冒険者の内情に深く踏み入ることは好ましく無いですからね。ただ、私としては「はいそうですか」と言って君を今回の件に関わらせたくは無いんです」


 彼女は少し拗ねたように両肘を机の上にたてて、組んだ手の甲に顎を置いて口を尖らせる。彼女の実年齢は知らないが、随分と可愛らしい仕草だ。吸い込まれてしまいそうだ。

「君には私のこの憂鬱な思いが分かる?」

 吐き出すように紡がれる言葉に首の後ろがゾクゾクしてしまう。

「……おそらく実力の問題かと思います。詳しい話は知りませんが、確か依頼対象はカルアラレから何かを盗み出したんですよね? 細かい依頼内容は分からないですが、エルフのコミュニティに忍び込んで盗みを働けるような力量の相手に私では力不足だと思います」

「そうね。残念だけど、君個人(・・)の力量に不安があることは確かですね。ランク的にも相応しくは無いです。そもそも能力的に向いていないと思います。でもね、理由はそれだけじゃ無いんです」

 ギルマスの言う他の理由が思いつかない。何だろう? 

「あのですね、クオンセル君。なんと指名依頼がブッキングしているんです」


「……あっ! ポロス様の指導役」

 すっかり頭から抜けてしまっていた。そういえば領主フロイストからDランクに昇格したら返事して欲しいって言われていた。


「どうやら忘れていたようですね。責めるつもりは無いですが、自分の住む街の領主からの指名依頼を忘れるなんて中々おめでたいですね」

 笑顔でギルマスに毒を吐かれてしまった。ただご指摘はごもっともなので何も言えない。

 しかし、どうしたものか。それぞれの組織のトップの依頼とは普通に考えれば贅沢な悩みだ。


「悩んでいるようなら……」

 おそらく渋い顔をしていたであろう俺に、ギルマスからアドバイスが出てきた。

「フロイスト様の依頼を受けて下さい。ギルドとして冒険者を適材適所に派遣することを考えるとどうしてもそうなります。カルアラレの方は私の顔も効くので穏便に断っておきますが如何ですか?」

「そうですね。どちらにしても両立は出来そうにないので、そのように配慮して頂けるとありがたいですね」

 相手の顔を潰さない為にも、ギルマスの意向に従っておいた方が良いかもしれない。ポロスの指導役については何かしらの思惑が領主側にありそうな気がしたけど、この際だから引き受けてしまおう。エルフの長老にはコーメーを通して謝っておくか。

 俺が申し出を了承したことで、ギルマスは安堵したかのように息を吐いた。

「ではそのようにお願いします。ポロス様の依頼内容は受付で聞いて下さい。ごめんなさいね、時間を取らせてしまって」

 彼女はそう言って部屋を出て行ってしまった。少しばかり名残惜しくはあったが、1人で部屋にいるわけにもいかない。俺も退出して領主からの指名依頼の手続きをしに1階の受付へと向かうことにした。



     ――――――



「とりあえずこれでよし、と」

 私は手元に置いたエルフ盤にクオンセル君と話した内容を踏まえて、長老に向けての詫びの文章を刻んでいく。A4サイズ程の粘土のような感触の板にエルフ文字を刻み終わる。

「精霊さん。お願いしますね」

 エルフ盤に魔力を少量流し込むと、柔らかな光が盤面に灯る。


「お呼びでしょうか?」

「フリント、待ってました。カルアラレの件ですが、お願いした冒険者の反応はどうでしたか?」

 

「数人のABランクの斥候職を中心には色よい返事をもらっています。7番鐘がなる頃には会議室に想定の人数が集まることでしょう。ですが……」

「なに? 何か問題が?」

 この優秀すぎるくらいの男が言い淀むことは珍しい。ただ彼は悪い報告ほど早く正確に伝えることの重要性を知っている。そんな男が言い淀むのだから、余程の難問か判断しづらい事柄なのだと感じる。

「Aランクのフランさんがこの件に協力したいと申し出てきてまして……」

「はぁ。そういうことですか。どこから聞いてきたのか…。いや、確か渓谷であった中に【血の乙女】のメンバーが居ましたね。そこから漏れたんでしょうか」

 だがあの時には子供達が誘拐されたことは話していなかったはずだ。受験者から聞いたにしては動きが早い。情報は別口かも知れない……。

 そこまで考えて思考を止める。情報元を今更気にしてもしようがない。問題は彼女に知られてしまったことだ。

「あの方にはこの話が伝わらない様に配慮していたのですが……」

 フリントが申し訳なさそうにしているが、どうしようもない。

「彼女はこの手の件には首を突っ込んで来ますからね。だからこそこの件から外したかったのですが……」


「ではどの様に致しましょうか?」

「断って勝手に動かれても厄介です。彼女にも参加してもらいましょう。ただ同行できるのはBランクまでと念を押して下さい。中途半端な強さでは足手まといになりかねません」

 今回の下手人はカルアラレに侵入して子供を攫える程の力量だ。慎重に行動する必要がある。

 だからこそフランには勝手に動いてもらっては困る。首輪を付けなくてはいけない。

「フランにはギルド職員が常に行動を共にする様に対応して下さい」

「分かりました。その様に枠組みを作ります」

 フリントはそう言って部屋から退出していった。

 そして彼と入れ替わる様に別の職員が入ってきた。

「ギルマス不在時の出来事をまとめておきました。ご確認ください」

「はい、見ておきます。他に何か緊急性の高いものはありますか?」


「…特には無いです。あ、先ほどクオンセルさんが領主様からの指名依頼を受けられました」

 クオンセルはしっかりと手続きをした様だ。さすがにすぐに行動したみたいで良かった。さすがにフロイストからの指名依頼を忘れていたのには驚いたが…。

 私はまとめられた数日の報告書に目を通す。手だけでこれを持ってきた職員に退室を促して、文字の羅列に没頭する。そのほとんどご取るに足らない小事ばかりで、安心できる。ただでさえ即応すべき大きな案件があるのだ。

 そしてどんどん読み進めていく。しかし、依頼の一覧を目にして違和感を覚えた。隅から隅まで目を通して気になった点をまとめた。…どうやらエルフだけでなく、この街にも異変が起きている様だ。

「誰かいますか!」

 私は声を張り上げて職員を呼ぶ。

「はい。なんでしょうか?」

 すぐに現れた職員は私の切迫した様子に顔を強張らせているようだ。

「すぐに衛兵の詰所まで行って確認して欲しいことがあります。それと、領主様に至急知らせることが出来ました。前触れを出して面会の約束(アポイント)をお願いします」

「分かりました。詰所には何と?」


「行方不明の子供についての問い合わせが来ていないか、その数と子どもについての詳細を聞いてまとめて下さい。急いで!」


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