3-32 撤退
<相棒、早く来ておくれ>
念話でコーメーが俺を急かしてくる。おい、そんなに危険な状態なのか?
(何だ? 何かマズイことでも起きてんのか?)
<現状としては、ミミは気を失ってる。そんでオイラたちはかなり多くのオークに囲まれてる>
はぁ⁈
何でそんなことになってんだ?
確かこの辺りの魔物はハーピーによって狩り尽くされていたはずだ。なんだってそんな大量の魔物に取り囲まれているんだ?
<それにミミを見つけた時はミミが変だったんだ。何か笑いながらオークの矢を避けてたし、オイラたちが助けに割って入ったら何故か気を失って倒れちゃうし>
(……色々とツッコミたいのは山々だが、ハクとお前でオーク程度をどうにかして、そこから離脱出来ないのか?)
<それがさぁ、オークだけじゃ無くて上位種もかなりいるんよ。ミミが気絶しているのも手伝って身動きが取れないのよ>
オークの上位種……。確か戦種によって進化した個体のことだよな。剣・斧・槍など近接系以外にも弓や魔法を使うタイプ。それに指揮に特化した奴もいるとか。
ランク的には通常種はD。上位種はB相当の奴もいるって聞いたことがあるな。
(分かった。取り敢えず合流が先だな。そんでさっさと逃げるぞ)
俺は森の中に入り、急ぎ仲間たちの元へ向かった。
「ッセイヤー‼︎」
俺は手にした2本の手斧を気合1発で同時に振り下ろす。その斬撃は目の前にいたオークを三枚に下ろす形で、綺麗に縦割りにすることに成功した。
そして背後から来るオークランサーに振り向きざまに手にした手斧を投擲する。時間差で投じたそれらは見事に目標の顔面に突き刺さっている。俺はそのまま走り抜けて、手斧を回収すると次の目標へと迫る。
俺はミミたちを囲んでいるオークの集団に後ろから襲いかかっていた。
オークらは気絶しているミミをどうにかしようとしていたのだが、ハクが立ち塞がり攻めあぐねていた。ハクはその巨体とAランクとしての貫禄でオークを寄せ付けずにいた。だが、周囲を囲まれている状態でミミから離れることが出来なかったので、ハク自身も攻めあぐねていた。
遠巻きに矢や魔法で攻撃を受けていたが、ハクはその強靭な毛で矢を跳ね返し、魔法はコーメーが無力化していた。
俺はハクたちが逃げやすいように、大きな叫び声をあげてオークたちに襲いかかった。予期せぬ敵にオークたちは浮き足立ち、俺は10体ほどの上位種を含めた敵を屠っている。念話でコーメーとコンタクトを取り、ハクはミミを口に咥えてオークの囲いを突破しようとしている。
「この豚どもが! ミンチにしてやるからさっさと来い‼︎」
言葉は通じないだろうが、俺の挑発は成功したようで敵の視線は俺へと集中している。ざっと見ても100体はいるだろうと思い、さっさとズラかろうと心に決める。この場は木が生い茂っているので、長物の得物は扱い辛い。互いにそのことは理解している。俺は敢えてオークの集団の中心へと走り出す。
目標はこの場のリーダーであろうオークジェネラルだ。その巨体の半分を金属鎧で覆っている。手には大きな両手剣があり、他のオークに向かって何か指示を出しているようだ。
矢が数本、側面から放たれたが俺には当たらない。そのまま矢を無視すると、眼前に火の玉が現れた。大した威力ではなかったが、不意を突かれたために大きく横っ飛びで躱したために態勢が崩れた。
そこへオークが2匹迫ってくるのを目にしたので、反射的に手斧を投擲してそいつらを殺す。背中に殺気を感じたので飛び込むように前転で前方へと移動する。振り返るとオークウォーリャーが大きな棍棒を地面へと叩きつけているところだった。
反撃するために距離を詰めようとするが、横から槍の一撃が迫る。初動を捉えられたので、避けることも出来ずに手甲で反らすように防いだ。しかし、衝撃を完全に殺すことが出来ずに数メートル吹き飛ばされてしまう。
さらに追い打ちは続き、無数の矢とサッカーボール大の土塊が何個も飛んできた。【好都合領域】で矢と魔法を反らせるが、両手が塞がってしまう。
そのまま動けずにいると、左右から数体のオークが近づいてくるのが分かる。
「クソ! 厄介な」
俺はオークを舐めていたようだ。はっきり言ってピンチだ! この連携は厄介にも程がある。
当初の予定ではオークジェネラルを倒して混乱させてから逃げようと思っていたが、無理そうだ。ここは撤退するべきだろう。幸いにもハクたちは無事にこの戦場を脱出しているようだ。長居は無用だ。目的は達成しているしな。
俺は魔法や矢を魔法で反らせながら後退していく。正面を向きながらバックステップだ。手頃な木を見つけてその陰に入ると、身体強化で足に魔力を循環させてその場から離脱する。オークはそのパワーこそ脅威だが、足が非常に遅い。このまま逃げ切ることは難しくないだろう。
時たま背後を気にしつつ、仲間の元へと合流するために先を急ぐ。
それにしても、我ながら見事な逃げっぷりだ。単純に数が多いことに加えて、各上位種が非常に厄介だった。おそらく連携を指示しているあのオークジェネラルが1番手強い。個体としての強さは未知数だが、その指揮ぶりに驚かされる。
それにオークウォーリャー・ナイト・ランサーはその腕力とともに武器を扱う技量まであった。メイジに関しては普通に魔法使いだ。それほど強力な攻撃力は無かっだか、前衛後衛の役割をきちんとこなしていたので手が出せなかった。アーチャーは相性的に俺の魔法で問題は無かったけど……。
あのまま突っ込んでいたら死んでいた、と今更ながらその恐怖に体が震えてくる。
自分はまだまだ弱い。
それも広範囲の魔法攻撃が出来ないので、多勢には今後も対応できない場面が出てくるだろう。今回のような集団戦は滅多に無いかもしれないが、パーティーを組むことを念頭に置いておいた方が良さそうだ。
「フゥー………。待たせたな。ハァ…、ミミの様子はどうだ?」
俺は息を整えながらコーメーに話しかけた。
「やぁ相棒。その様子だと逃げてきたのかな? ともかく怪我も無いようで良かった。……ミミは変わらずだね」
「そうか、外傷が無いからポーションをかけても意味は無さそうだな」
「うん。気を失っているけど、感じとしては魔力が枯渇している様な印象だね。これからどうするね?」
「取り敢えず、野営地に戻ろう。何かハーピーの襲撃も上手くいってないようだし、アンガストからは集合するように言われていたしな」
ハーピー討伐作戦の途中だったことを思い出した。アンガストに色々と怒られそうだし、ビビアンにはネタにされそうだ。戻るのは気が重くなるが、とにかく野営地に戻るために移動を開始した。
俺が野営地に戻ると、そこはさっきのオーク戦以上の戦場とかしていた。
「遠距離攻撃が出来るものは無駄打ちをするな! まだまだ敵の数はいる。焦るな!」
「近接系は遠距離攻撃をするものを死守しな。彼らが居なくてはこの戦いには勝てないわよ」
野営地のテントから離れた場所で、アンガストとビビアンを中心に防衛班がハーピーと戦闘中だ。まだテントは襲撃を受けていないようなので、ミミを託すためにそちらへと向かう。
回復魔法部隊にミミを預けて、アンガストに合流することにする。
「ハク! お前も来い。コーメーはここでミミを守れ。何かあれば念話を!」
「ワン!」
「任せて」
元気の良い返事に満足して、俺とハクは戦場へと向かう。
「それにしてもハーピーが多すぎないか?」
誰に聞かせるわけでもなく、1人で愚痴る。
目の前にはハーピーが数百羽はいそうだ。
なぜこれほどのハーピーがこちらへと来たのかは分からないが、奇襲が失敗だったのは間違いないようだ。
E・Fランクの冒険者はアンガストとビビアンの指揮のもと、なんとか渡り合っている。だがやはり数に押されているようだ。数人の犠牲者は出ているかもしれない。でもおかしい……。
言っちゃ悪いが戦力差がありすぎる。いつから戦闘が始まっているか知らないが、よく持っている。ハクと共に戦場に向かう途中にそんなことを考えていると、戦場の一箇所でハーピーがバタバタと地面に落ちていくところがある。
「さぁ、落ちたものから倒して下さい。羽は痛めていますが、爪には十分にお気をつけてくださいまし」
そうやって叫んでいるのはあの執事だ。
周囲の冒険者が革鎧などつけている中で、彼は1人だけ黒の執事服を身につけている。違和感だらけだが、どうやら彼がこの戦場を拮抗させている要因のようだ。
執事は直立のまま手だけを忙しなく動かしている。少し遠いので詳細は不明だが、指を動かすと同時にハーピーが墜落しているのが分かる。何かの遠距離魔法だろうか? だが何かをしているのは確かだ。
そんな執事の死角から、2羽のハーピーが上空から猛スピードで降りてくる。だが執事はそれに気づいていたようで、振り向くとその両腕を躊躇なく振るう。ハーピーは交差した瞬間にその両腕の餌食となって頭部が破壊されていた。
そして執事は何食わぬ顔で上空にいるハーピーを打ち落としていく。
彼が相当な手練れであることは間違いない。初めて見たときは得体の知れないものを、執事には感じていたがこれがその正体か。
「負けてられないな! ハク‼︎ ハーピー共の注意を引くんだ」
ー--ゥゥゥウッワァオオオォォーーーン!
ハクは俺の言う通りに、遠吠えの要領でその存在を戦場に知らしめる。威嚇するためではなく、自分をハーピーの脅威であると示して見せた。
威嚇して逃げられたら今回の作戦が水の泡だからな。
ハクを脅威認定したようで、多くのハーピーたちがこちらへと飛んでくるようだ。
俺は十分に引きつけてから、手にした【火竜の息吹】に魔力を込める。さぁ焼き鳥にしてやろう。




