表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/79

1-2 この世界の魔法

 


 ――― 五年後 ―――




 金髪碧眼の少女の周りに拳大の火の玉が浮かんでいる。

 その少女の正面で腕組みをしたまま、細いが鍛えているであろう肉体を持った銀髪の男が立っている。


「レモニア、そのまま火球は維持したままだ。俺がこれから作り出す火球の軌道を追うように動かすのだ」

「はいっ」


 少女は額に汗を浮かべながら、指示された通りに火球を操作していく。しかし数分もすると彼女の作り出した火球は消えてしまった。


「レモニア、何をしているのですかっ! 折角モーフィス様がお忙しい合間をぬって、修行のお手伝いに来て下さったのに! 恥を知りなさい」

「マリアン、そう言うな。この歳でここまで火球を操るのは立派なものだぞ」


「しかしながらモーフィス様…」

「まあ、ここらで休憩にするか」


 そう言いながら、銀髪の男は中庭の隅に用意してあったティーセットの方へ足を進める。マリアンはまだ不満が残っているらしく、レモニアに何か言いながら男の後ろについていく。おそらくスチュアート家としてああだ、こうだと言っているのだろう。


 このモーフィスと呼ばれた男は、スチュアート家当主で俺たちの父親だ。仕事の休暇で領地に帰ってきたのだが、暇を見つけたのでレモニアに修業をつけているところだった。



 

 そんな親子が魔法の修行をするという、この世界独特の光景を俺は母親の部屋の窓から眺めている。


「マリアンは少し厳しすぎるわね」

 そう言いながら、カップに口をつけながら俺の母であるミランダはつぶやく。


「レモ姉は大変ですね。あんなに口うるさい母親がいるのでは…」

「クオン。マリアンは確かに言い過ぎな部分はあるかもしれませんが、レモニアのためにやっているのです。そんな風に言ってはいけません」


「すいませんでした、お母様。出すぎたことを言いました」

「いいのですよ。あなたはレモニアが大好きですからね」

 微笑みながら、俺の頭をそっと撫でてくれる。


 今日はミランダの体調も良く、俺は部屋に遊びに来ていたのだ。

 ミランダは俺を産んだ時に体調を崩してしまい身体が弱ってしまった。その状態が5年たった今でも変わらないのだ。だが、たまに体調のいい時はこうして俺を呼んで色々な話をしてくれる。


「お母様、今日はどんな話をしてくれるの?」

「そうね~、クオンにはお母様の… あなたのお婆様のお話はしたことはあったかしら?」


「いいえ、ありません」

「では今日はお婆様の、【暴川バイオレント・リバー】と恐れられた魔法使いのお話を…」


 ミランダの口からは、大袈裟ではないかと笑ってしまうような話が聞けた。

 先陣を切ればその圧倒的な水魔法で敵を押し流して湖を作ってしまう。

 川の近くの戦場では祖母の影響で氾濫してしまった水流が敵味方関係なく撤退する羽目になった、と言った様な武勇伝を聞かされた。


 中々に破天荒な行動が目立つが、非常に腕の立つ魔法使いであることに変わりは無く、武功をたてまくった祖母は一代で下級貴族から伯爵にまでなったそうだ。

 現在では、第一線を退いてはいるが修練場を作り後進のために指導をしているそうだ。

 祖母のことを語るミランダは、それは嬉しそうに語りかけてきた。俺も機会があれば、挨拶だけではなくて修行をつけて貰いたいと思ったものだ。






「ほらっ、二人とも付いてきなさい」

「はい、お姉様」

「分かりました。でもあまり危ないことは駄目ですよ」


 ここは屋敷の裏にあるちょっとした林の中。俺と姉のレモニア、そして腹違いで1歳違いの弟であるジョージと連れ立って探検をしている。


 俺は元気に成長している。話し言葉は完全にマスターしたし、読み書きも習っている。算術に関しては前世の記憶があるので問題が無い、というよりも天才扱いされそうだ。

 何といっても一般的には読み書きが出来る人間は少ない。使用人も半分以上は読み書きが出来ない。算術にいたっては父親と一部の部下や使用人くらいしか出来ない。しかも簡単な四則計算ぐらいだ。

 一般的には、生きていくのに必要の無い知識ということだろうか。今思うと日本の教育水準は非常に高かったんだなと思う。


 また、時間の感覚は地球とあまり変わらない。1日は24時間で、1週間は6日間だ。日曜日というものは無く、30日間で1か月。それが12個で1年だ。

 四季もあるようで、地域差はあるがおおよそ日本に近い感覚である。


 さて、先ほど少し触れたが腹違いの弟ができた。彼の母親はマリアンだ。ちなみに俺の母親のミランダは体を弱めているので子作りができないようだった。


 名前はジョージで親父と同じ銀髪で堀の深い顔立ちをしたイケメンだ。10年もすれば、さぞや多くの女性の視線をくぎ付けにするだろう。

 個人的には、嫌いではない。顔が良いからと嫌ってはいない。足が長いからって嫌いではない。女性の使用人が俺よりも弟を可愛がっているけど嫌いじゃない。………嫌いじゃないよ??性格も悪くない。ただレモニア至上主義なだけのシスコンだ。


 それに引き換え、俺ときたら前世の容姿を引きずっているのか薄めの顔に黒髪黒瞳だ。我ながら悪い顔立ちではないと思うが、いかんせん弟が美形なだけだ。

 あと、使用人が俺を敬遠するのは理由がある。この黒髪黒瞳だ。古くから伝わる童謡に黒髪黒瞳の悪魔が出てくる。こいつは、沢山の使い魔を引き連れて暴れまわったそうだ。

 子供をさらって、家を焼き、畑を荒らして、人々を蹂躙する。固有名詞はないが、幼子が悪さをすると「黒い悪魔がやってくる」と言って戒めとしたらしい。日本で言うナマハゲみたいなものだろう。


 まあそのおかげで、俺には恐れが含まれた視線が送られることがあるというだけだ。別段、この容姿がものすごい珍しい訳ではないらしい。だから俺はあまり気にしていない。


 そんな俺たち姉弟がレモニアを先頭に林を進んでいるのだ。

 基本的には勉強(貴族らしい知識を得る)の時間以外は3人一緒にいることが多い。今日も姉の一声で、林の探索をすることとなった。


 個人的には読書がしたかったんだけどね。この世界のことを知るために、俺は知識を貯めなくてはいけない。だって、俺の目標は立派な人間になることだ。何をすればいいとかは無いので、困った時になんでも出来るようになっておきたいんだ。

 でもレモニアは、頭を使うことよりも体を動かすことがお好きなようだ。シスコンのジョージは、そんな姉の意見を全肯定して追従するので俺も散策に同行することになってしまう。

 ジョージは、レモニアが先頭で腰くらいまである草を棒で叩きながら歩く姿を見て、ニコニコしている。そんなレモニアは棒で身近にある木を力の限り叩いている。明らかに機嫌が悪そうだ。

 そしてその理由を俺は知っている。

 今朝の修業のせいだ。



「レモ姉、なんだか機嫌悪いね。何かあったの?」

「何よクオン。そんなこと無いわよ。この笑顔が見えないのかしら」


「いやいやそんなことあるって。今も目が笑ってないよ」

「レモ姉様。僕も心配です。何か僕たちが気に触るようなことでもしましたか?」


「いいえ、ジョージ。あなたたちは何もしていないわ。ただちょっと午前中の修行でお母様に色々言われて気がたっていたのよ」

「そうでしたか」


 ジョージは姉の苛立ちの原因が自分で無いことに安堵の息をついている。その横でレモニアは修行のことを思い出したのか、じっと前を見ながらしかめっ面をしている。そして手にした棒で近くにある木を叩いている。


 そう、レモニアの機嫌が悪いのはその魔法についての修行が原因だ。この国では5歳になると、神官から自身の魔法適性や魔力の性質を鑑定される。レモニアは3年前にこの鑑定を受けたのだ。

 その時の結果で我が家は大変な騒動になった。なんとレモニアは基本属性全てに高い適性を持っていたのだ。そのおかげで家族の期待を受けて英才教育が始まってしまったのだ。

 

 今はそんな修行の合間を使ったレモニアにとってのストレス発散の機会というわけだ。

 しかも午前中の修行は今までよりも難しい内容だったようで、彼女は手こずっていたようだ。きっとマリアンに色々と言われたのだろう。


「まったく、変に適性があるというのも考えものよね。私としてはもっと自由に学びたいのよ。窮屈ったらありゃしないわ」

「レモ姉はそれだけ期待されてるってことだよ」

「そうですよ。お姉様はすごいんですよ」


「ありがとうね、二人とも…」


 手放しに賞賛するジョージの隣で、俺もレモニアの方へ尊敬をこめた視線を送る。見た目も美しい姉は俺たち弟に対しても優しい姉で、ジョージが懐くのもよく分かるものだ。俺も好きだし…。

 

「そーいえばクオン。あなたも来週から修行が始まるんでしょ?」

「うん。その予定だね。明日の鑑定で適性を調べてから修行内容を考えるらしいけど」

「兄上もきっと良い適性をもっているんでしょうね」


「そうよね~、クオンは勉強もできるし要領もいいから楽しみだわ」

「才能があればいいんだけどね。こればっかりは頑張ってもどうしようもないからなぁ」


「まあね、そうだ! 魔法について少し教えてあげましょうか。知っておいて問題はないし、速くてダメとは言えないしね。そもそも魔法というのはね……」

 

 いつのまにか、レモニアによる魔法講義が始まってしまった。探索はどうしたのかと思ってしまったが、機嫌が良さそうだし、俺も気になる内容だったので突っ込まなかった。



 レモニアによると、魔法には基本属性というものがあって火、水、土、風、4つがそれだ。ちなみに普通は一人一つでも高い適正を持っていれば宮廷魔道士レベルになれる素質持ちと言われている。周りがレモニアに期待してしまうのも分かるだろう。


 それぞれの属性を自分の魔力と引き換えに自然現象として起こすのが魔法である。最初はどの属性も軽く広げた両の掌の中に、それぞれの自然現象が起きるようになるまで繰り返しイメージする。そしてだんだんと規模を大きくしていく。


ここで、重要になるものが魔力を操るための効率である。

 例えば同レベルの火の特性を持つ者が同じ基本魔法の【ファイアボール】を使うとする。すると二人放つ火の球は同じ大きさや威力にはならない。


 これは変換する魔力の量と効率が影響していることで起きる現象だ。この効率にも適性があり、大別して無属性としている。無属性の適性が高いと少ない魔力で大きな火の玉を作り出したり、圧縮して高密度にしたり、火の玉を複数作り出したりできるわけだ。

 この無属性にも適性はあるが、後天的に訓練でその効率を上げることが可能である。

 つまり無属性が高いと、色々な応用が可能になるのだ。この世界には、先人達が作り出した様々な魔法が存在する。それらの魔法は扱う魔法使いによって様々に派生したものが存在するのだ。【ファイヤーボール】も大別して火の玉のことだが、個人によって様々な運用ができるのだ。


 また、魔力を変換するのに効率を上げる手法として【呪文の詠唱】がある。これは己がイメージする魔法に魔力を変換する過程において活用される。イメージを言葉にすることで、魔法に効率よく均質的な効果を持たせることができるようになる。

 魔法使いの中にはこの過程を限りなく省略することができ、呪文を必要としない者もいる。これは経験とイメージ力に左右され、無属性に分類される技能だ。さらには無属性を組み合わせることで氷や雷と言ったような基本属性には無い現象を起こすことも可能だ。

 言ってしまえば、この世界の魔法は適性が高ければ、訓練しだいで様々な現象を引き起こすことが可能なわけだ。


 この基本属性とは分けられて考えられているのが、精神、回復、空間、精霊などである。


 精神は、気分を高揚させてたり落ち込ませたり、上級になれば意識誘導などが出来るようになる。

 回復は、ケガや病気を治すといったような身体に影響を与えるもので、これは自身の回復と他者の回復とで分けられる。適性が高い者は他者も癒すことができ、適性が低いと自分にしか影響を与えることができない。 

 空間は、そのまま3次元を認識する力。亜空間を作って物を出し入れしたり、人を遠い地へ転移させたりする事ができる。

 精霊は、自身の魔力をエサに精霊にお願いして、様々な現象を起こす魔法である。これはほかの魔法とは異なり、自身のイメージでは無く精霊に魔法を行使してもらう。そのために魔法使い自身には無い適性の魔法を活用することができる。

 しかし、ほとんどの精霊は気ままなためにあまり協力的ではないので、イメージとはかけ放たれた魔法が完成することが多いようだ。


 基本属性以外の適性を持つ者はそれなりに希少なので、それぞれの適性者は色々な場面で重宝される。


 レモニアは基本属性の適性は軒並み高いが、無属性だけは平均レベルなので毎日の修行は魔法を上手に扱うことに重点を置かれた内容になっている。

 だが、派手好きなこの姉にとっては、魔力のコントロールを優先される現在の修行内容はお気に召さないようだ。


 レモニアの魔法講義を聞きながら、俺は魔法への思いを募らせていくのであった。だって魔法だよ? 男の子なら憧れてしまうだろう。


 その夜は緊張してほとんど眠ることが出来無かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ