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0-0 プロローグ

 

「あぁ〜、くそっ! 何でこんなことになっちまったんだ」


 俺は周りを気にせずに不満を口にしながら先程のことを思い出す。


 

「倉本さん、あなたには失望しました。こんなミスをした上に、ろくな対応をして頂けないとは……」

「申し訳ございません。すべて私の責任です。早急に対応を―――」


「もういいです! 何をどうしたら2000人分の発注を200人と間違えるんですか? 打ち込みミスなのか、なんなのか知りませんが有り得ません」


 俺の前にいる担当者の表情は、怒りのあまり無表情になっている。もう話すことは無いって空気を出している。


「…もうあなたというよりも御社には二度と関りたくありません。もう来ないでください」

「そ、そんな。弊社というよりも私の責任ですので当然担当も代わります。なんとか引き続きご縁を頂けないでしょうか?」


 俺は人生で何度目になるかも分らない土下座をする。俺はこれで何度も窮地を……。


「あなたは何を甘えたことを言っているのですか? 御社を信用できないと言っているのです。あなた以外の担当者が来ても我々の印象が変わることはありません!!」


 ……。

 俺は土下座態勢のまま応接室に残された。

 隣のテーブルで他の商談中であろう人たちの声が聞こえてくる。ここは個室ではなく、衝立で仕切られただけの空間に4つのテーブルがある。

 周囲から土下座する俺のことをコソコソと話す声が聞こえてくる。

 

 結局、受付嬢が次の客が来るのでスペースを空けてくれと言われるまでそこに居座り続けた。当然ながら担当者が出てきて再び契約が結ばれることはなかった。




 俺の名前は倉本真治くらもとしんじ。大学卒業後に営業として就職した会社はいわゆる大手といわれる商社だった。

 昔から比較的に何でもそつなくこなしてきた俺は、社会人になった現在窮地に立たされている。

 上司や同僚ともうまくやって来たはずだった。しかし、それなりに上手くやっていると思っていたのは自分だけだったようだ。


 入社3年目、周りから「詰めが甘い」「ミスがある」「任せられない」という評価を受けてしまっている。

 そんなことを言われる原因は、請求書や発注書の計算ミスや面談の日時の間違いなのだが、こういった人為的なミスを何度も起こしている。今回のミスも商品を納入する数量を間違えて、先方に多大な損失を出すことになってしまった。さらに、このことに迅速な対応をしなかったために先方はお怒りだ。

 ちなみに対応が遅れたのは、ミスが発覚してすぐに上司に報告しなかったからだ。


 ちなみにそんな仕事が出来ない自分を自己分析すると、一つの原因が判明した。まあ、自己分析などとカッコつけてみたが帰社途中の電車の中で考えてみただけだが…。


 俺は極度の面倒臭がりなのだ。

 すぐにサボりたくなるし、面倒ごとは後回しにしてしまう出不精な性格だ。部屋の電球が1つ切れても、他の電球で明るさが確保できれば放置する。多少の薄暗さは放置する。

 コンビニで買ってきた週刊誌は部屋に貯まる一方で、足元に置くスペースが無くなるとベランダに積んでいた。半年後には洗濯物が干せなくなってしまったので、仕方なく片づけた。

 自炊しようと料理を作ったのはいいが、皿を洗うのが面倒になってしまい数か月放置した。その結果、流し台に重なった皿たちから見たことも無いような黒い物体が産まれた。……あれはカビだったのか? 今でも謎である。

 それに難しいこと考えていると、感情が先行して後先考えない行動をとることもある。とる行動の大体が何もしない、そのままにする、というものだから救いようがない。

 

 そんな俺の口癖は「死にはしないから何とかなるだろう」だ。

 こんな言葉を免罪符にあらゆることをテキトーにやってきた人生だった。


 だから今回のトラブルも死にはしないさ、と自分に言い聞かせる。 


「まあ、悩んでてもしょうがないよな。…いやだけど、とりあえず上司に報告だな」

 こんな失態をおかせば、すぐに電話連絡をするのが普通の営業マンだが、怒られるのが嫌なので、帰社してから伝えようと思っている。少しでも怒られる時間を遅らせたい。…そのせいで余計に怒られるのは理解しているが、俺のメンタルが心配だから後回しにする。

 


 深く考えることを無意識に避けて、帰社した後にどうやって上司へ報告しようかと考えていた。場合によっては切り替えが早いと言われるかもしれないが、明らかに自分のミスに目を背けてしまっている。現実逃避ってやつだろう。

 

 そんなこと考えながら、だからダメなんだよな~、なんて呟いてしまう。

 こんな感じで電車移動を終えて残すは会社までの道のりを歩くだけとなる。

 ふー、とガードレールに腰かけて気が重くて動きたがらない足を休ませる。


 すると目の前を知り合いの女性が肩を落として歩いているのがわかった。



「どうした?何かミスったのか??」

「あっ、先輩お疲れ様です」

「おっす」


 ほぼ反射的に声をかけてるまうと、声ををかけられた女性がこちらに顔を向けるとニパっと笑いながら寄ってくる。


「それが今日も成果なしです。この仕事向いてないんでしょうか」

「始めてまだ3ヶ月だろ? 何言ってんだよ。俺なんか未だに上手くいかないし。つーかさっきもお客さんに怒られた上に契約を解除されたし……」


「……ええっ!?? 大丈夫なんですか?」

「いや、駄目だけどさ。グジグジしててもしょうがないっしょ」


「……なんて言うか、ものすごいポジティブですね」


 彼女は新入社員で同じ部署に配属されてきた後輩だ。明るくて前向きな新人に部署のみんなが癒されている。かくいう俺もこの元気いっぱいな後輩を可愛がっている。……まあちょっとした下心はある。

 自分のミスのことは棚に上げて、先輩面で慰めてあげようと考えていると……


「あれ、どうしたんでしょう?」

「んっ??」


 何かに気づいた彼女が声を上げながら明後日の方角を見ている。その視線の先に俺も目を向ける。


 2人の男が馬乗りになりながら揉みあっている。片方は明らかに堅気じゃなさそうな装いだ。普段ならば絶対に関わりたくない現場だが、何故だが俺は隣の後輩にカッコいいところを見せたくなってしまう。


「ちょっ、先輩!!」

「いいからいいから、そこで見てて」

(男らしいとこ見せないとね〜)


「危ないですよ、放っておきましょうよ」

「ダイジョブ、ダイジョーブ」


そう言うなり俺は、揉み合っている二人の下へ……





「そこのお二人さん」


 頬に傷のある厳つい顔がこちらを向く。

「なんじゃ、兄ちゃん!邪魔すんなや」

 

 そのあまりにおぞましい表情に思わず顔を背けてしまう。

(あれ?)

 

 そらした視線の先。もみ合っていたはずのおっさんが、血だらけになって血の池を作っている。

 彼の四肢に力なく垂れ下がり、光のない瞳がどこか虚空を見つめている。


「――――――えっ?」


 非日常な光景に視線が吸い込まれてしまう。 

(なんだこれ、何が起きてるんだ? 死体……。これは死体だろ? 白昼堂々殺人ってマジかよ) 


 ―――――ーズブッ。


 何か腹部の辺りに熱を感じる。

 血だらけの死体に気をとられていると、俺のすぐ隣にこの凄惨な現場を作り出した張本人がいた。


「兄ちゃん、死ねや」

「へっ?」


 手で熱を持った部分に触れてみる。

 触った手にヌルッとした感触があり、目を向けると真っ赤な血がべっとりと付いている。 

 腹からものすごい勢いで血が溢れ出ている。

 

「な、なんじゃこりゃぁぁぁああああーーーーっ!!」

(痛い痛い、死んじゃうって! 何でいきなり刺してんだこの人? 俺なにかしたか??)


「い、いっつぅぅ…」


 ドサッ。

 

 体をうつ伏せに倒しながら、意識が薄れるのを感じる。それでも何とか後輩が近くにいたことを思い出した。なんとか首を曲げながら自分の周囲を探してみる。


(あ、あいつも襲われている……)

 暴漢は後輩の女子に乗りかかっている。彼女の胸にも深々と刃が刺さっている。


(や、やめろ。あの馬鹿! つーか、何で逃げてないんだよ!!)

 

 急激に体温を失っていくのを感じながら、悪態をつく。瞼が重くなるのを感じるので、抵抗することなく瞼を閉じる。

 理不尽な暴力にさらされている後輩のことを思い、何でこうなったのかを考えてしまう。


 ああ、俺が自分から危険に近づいていたんだっけ? 後輩の言う通りに放っていれば俺もあいつもこんな目に会わなかったのかもしれないな。……そもそも変な色気を出すからこうなるんだよな。別に武術の心得があったり、運動神経が特別に良かった訳でもないし。出来もしないのに後先考えずにカッコつけたがるから、こんなことになるんだ。

 そういえば今日のクレームも自分の許容範囲を超えた仕事をうけて、手が回らなくなっておざなりに作業してしまったのが原因だった気がする。短絡的にやってしまうのは俺の(さが)なのかね。親にも上司にもずっと注意されているけど死ぬまで直んなかったな。というか直そうとしなかったんだよな。治そうと気を張っていると疲れるし、気づいたら治ってるかもしれないし……。なんて都合よく考えていたな。


 でも実際に何人ものお客さんに迷惑をかけた。後輩に関しては巻き添えで殺してしまった。ホント碌な人間じゃないな俺は。生きてる価値無いんじゃないかな、ハハハハハハ……。

 って死んでるんだっけ俺? 何か意識はあるし頭の回転も止まってないし……、あれ? おかしくないか??


 死の瀬戸際にずい分と長い間思考が続くな。

 そう思いながら目を開けてみた。地面にうつ伏せになっていたので、目の前はコンクリートのはずだ。でも俺の前にはスーツ姿の男性の背中があった。


(ん〜、どこの後姿は何か見たことが……。って、よく見ると俺か? 倒れているやつの横顔は俺のじゃなねーか! というか俺浮いてるよ!?? 何か手も透けてるし。なんというか幽霊にでもなっちまったてのかよ)



「ああ〜〜〜、やっと気づいたのかな? ほらほらキョドってないで此方を見てくれないかな〜〜」


「―――っ! 誰だよ?」


 声のする方を見てみると、そこには宙に逆さになって浮いている中年の男が疲れた笑顔でこちらを見ている。顔は誰かに似ているのか、見たことは無いけど何故か見覚えのある気がした。

 服装はギリシャ神話に出てきそうな白いヒラヒラしたものを着ている。



「俺? 俺は〜〜何て言うか君たちの知識で言うところの【神】ってやつだと思ってくれよ〜〜」

「神だって!??」


「うん、そうそう。敬ってくれていいからね〜〜」

「は、はぁぁーー」

 とりあえず、正座で頭を下げる。宙に浮いているので不格好になっているかもしれない。


(何か貫禄の無い神様だな。そもそも本当に神様なのか? 何が起こっているんだ??)

「貫禄が無いって、言ってくれるね〜〜。ま、自覚があるから特に何とも思わないけど」


「えっ」

(俺って考えたことを声に出していたのか?)


「いや、喋ってないけど考えていることは分かるよ。なんと言っても神様だし」

「ぅお! マジですか? ええ〜と、貫禄無いなんて言ってすいません」


「気にしないでよ〜〜、事実だし。それよりも何が起きてるかって質問に答えたいんだけど良いかな?」

「あ、はい。お願いします。何がなんだか分かんないです」


 営業活動で培った経験のおかげか反射的に頭を下げてしまう。


「ん〜、そんなに畏まらなくて良いよ。―――かくかくしかじか」

 

 


 ――― 数分後 ―――


 


 この自称【神】が言うには、本来の寿命より早く死んでしまった人間にはもう一度だけ人間としての人生を与える、という決まりがあるらしい。誰が決めたのかは知らないが、神本人が言っているのだからそうなんだろう。

 俺の場合、本来はあのタイミングでは死ぬ運命では無かったそうだ。神は下心からの短絡思考でドジ踏んで死んでしまった俺に「余った寿命を使って人生をしっかりと謳歌したら?」ってのを伝えに来てくれたらしい。

 俗に言う輪廻転生を前世の記憶を持ったままやってよし! とお許しが出たのだ。


「と、言うことで早速やっちゃいますか〜〜」

「って、早速すぎませんか??何というか心の準備も出来てないし……」


「ん? そうかい?? じゃあおしゃべりでもしようか。次の人生に何か願望はあるかい??」

「……俺は立派な人間に、周りの人間から信頼されて、周りの知り合いのために頑張れる人間になりたいです。」


「へぇ〜〜〜、興味深いね。それは何故だい? 良ければ聞かせてもらえないかい」


「俺が死ぬ原因は、短絡的で後先考えない言動が原因だと思っています。それに自分で言うのもなんですが、かなりしょーもない人生を送ってきたんですよ。それも自堕落な性格で周りも巻き込んで、マイナスな事ばかり産み出していたように思います。ましてや俺の自分勝手な行動で無関係な後輩を死なせてしまったんです。罪滅ぼしというわけではないですが、彼女のためにも誰かのために生きたいと思ったんです」


「――――――ふむ。なかなか難しい願望だね。それに曖昧で偽善的じゃないかな? 君の周囲にいる人間以外で困っている人々はどうするんだい? 敵対する人間は救わないのかな。まあそれは良いけど、そもそもそんなことが続けられる人間は偉人レベルだと思うよ」


 それに君みたいなタイプは、生まれ変わっても変わらず自堕落に過ごすというのが鉄板なんだよ、と続ける。幾人もの生まれ変わりを見てきたであろう神様が言うんだから物凄い説得力だ、でも……。


「そうかもしれないですね。俺自身も漠然とした思い付きで言っていると思います。でも俺はこの機会で変わりたいし、この気持ちを忘れたくないんです。俺は変わらないといけないと思う。今のままでやっていこうなんて、そんなことは駄目だと思うんです」


 神は俺の考えを聞き終えると、今までと違う少しだけ優しい笑顔で此方を見るようになった。そして少し悩んだ素振りを見せながら悪戯を思いついたような、爽やかではない笑顔を浮かべながら神様は口を開いた。


「よし。じゃあ君の新しい生きる目標が出来たことをお祝いして、何かサービスをしてあげようかな。来世で役立つような才能やら能力はあるかい?」


 急に真面目な雰囲気を出し始めた神に戸惑いを覚えてしまう。


「それって、俺のことを応援してくれるってことですか?? あれ程出来ないって否定していたのに…」

「まあね。でも面白そうだからさ。変われると言うのなら見せておくれよ。そのために少しだけプレゼントだ」


 そう言いながら何かワクワクしたような空気を出してくる。その姿はバッチコーイ! と声なき声が聞こえてくるようだ。

 そんなこと言われても、いきなりだと思いつかないものだ。


「え〜〜〜と、どんなものでもいいんですか?」

「あくまで、世界の理を乱すようなものじゃなければね〜〜」


「……では病気にならない……、健康で疲れもすぐにとれるような身体に出来ますか?」

(生まれながらに疾患があったりすると、自分のことで一杯一杯だから他人にかまけていられない。病気になるのもNGだ)


 俺の要望を聞くと拍子抜けしたような顔で返事をしてくる。


「えっと、そんなんで良いのかい?」


 俺なりには凄いお願いをしているつもりだったんだが、目の前の神は不服のようだ。少し残念な空気を出して俺に問いかける。


「本当にそれだけで良いのかい? なんだったら、もう一つくらい融通するよ」


 何が良いんだろうか。俺に必要な能力……。俺はどうして失敗をしたんだ。そうだ、失敗したのは自分から窮地に向かってしまったんだった…。


「それでは、勘が良くなりたいですね。」

「……第六感みたいなものかな?」


「ええ、そんな感じで。危機を感じたりとか、騙されないとか…」

「―――ちょっと弱い気がするけど。…逆に応用は利くかな?」

 俺の要望を聞き終えると、少し考えるように何かを呟いた。


「なるほどね。うん! じゃあそれでいってみようか。いい感じだと思うよ〜〜」


 どこか満足した顔で、何度もうなずきながらこっちに近づいてくる。そして俺の頭に手を置くと、ぼそぼそと何かを口ずさんだ。さっきの祝福を授けてくれているんだろうか。まぁ、分からないことは置いておこう。それよりもこれからのことを考えよう。 


 新しい人生は日本人なのだろうか? それとも紛争地域に生まれるのだろうか? むしろ、そうだったら祝福で貰った身体と第六感はかなり有効になるんじゃないかな。それに子供の頃からある程度は、知識をもった状態なのだから幼い頃から活躍出来そうだ。


 あれこれ来世について考えていると、神がグッと力を入れた視線を向けてきた。


「さて、ではそろそろ新しい人生を始めてもらおうか」

「分かりました。ではお願いします」


「うん。じゃあリラックスしてね。次に意識が覚醒した時、君の新しいの人生の幕開けだ!」 

 

 そう言うと、俺の周りに淡い光が生じてきた。驚いて周りを見ると視界はすぐに白い光で溢れてしまい、もう何も見えない。徐々に意識が薄れていくことが分かる。

「あの、神様ありがとうございました。俺頑張ります」

「お礼を言われることは何もしていないんだけどね~~」 


 もうほとんど何も見えない状態で、神の言葉に耳を傾けていると最後に爆弾発言が飛び出てきた。


「地球とは違う世界で、勝手も違うと思いますが君の想いが成就すれば良いですね~~。勇者になろうが魔王になろうがあなたの自由ですけどね~~」




 ………………………………………………えっ?


初めて書いてみました。

何かご意見などありましたら、お気軽にコメント下さい。


お読みいただきましてありがとうございます。

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