1 . 王、一喝する
カチコチ、カチコチ、カチコチ、カチコチ。
東京の高層ビルの広大なフロアの一角。
間仕切りのないだだっ広いオフィスに、深夜、時計の秒針の音が響く。
人気のないオフィスのデスクに、一ヶ所だけ灯りが灯る。
一人寂しく残業中に、精神的にいっぱいいっぱいになった女性社員は、思わず大声で叫んだ。
「あーーーー、転職したーい」
『そうですか』
女神様のような優しいような冷たい声が脳内に鳴る。
次の瞬間、齢37歳の私は意識を失った。
なんか、がやがやと遠くから声が、、、、
「王よ!いかがされるおつもりかっ!」
「あ?」
しまった、一瞬寝てた。
顔を上げると、大広間。高い天井。シャンデリア。豪華絢爛。
んー、これはゴシック建築だ。柱が太くて立派で、床は大理石。
「王よ!国庫は底をついています」
「水害の被害が深刻だと、南西部より報告が上がっています」
「後宮の維持費が莫大です。予算超過が今年も見込まれます」
「王の圧政で国が傾くという噂が広まり、民衆の集会やデモが頻繁に起きています」
みんな言いたい放題だな。それにしても、なぜこのおじさん達は私を見て喚いているのだろう。
私は、37歳、大手化学メーカーの部長だ。女性管理職の希望の星として、日々がむしゃらに働いてる。
って、ん?王?
あ、そう、王。
「静粛に!課題1点につきA4、1枚に簡潔に纏めよ。タイトル、背景、問題点、解決しない場合のリスク、改善案、それに係る概算を過去実績から算出すること」
王に転職?転生したのを自覚した私は、指示を端的に的確に飛ばす。
「しかし、急いでいます」
「時間がない」
「緊急です」
各大臣が喚く。
「とにかく、やれ!」
前職なら昨今の事情で丁寧に言うが、ここでは怒鳴って一喝することにした。
王は足早に謁見の間を退出し、自室に戻った。早く今の容姿を確認したい。




