第62話 閾値へ迫る試験
研究室・拘束台上
波形の乱れが増すなか、深雪は端末から視線を外さず、静かに息を吐いた。 「……誤差確認のためには、もう少し継続が必要です」
「っ……」 篠原の胸が大きく上下する。 (これ以上……。でも、“委員長として確認に来た”のは私……拒めば、立場そのものが揺らぐ)
冷たく硬い拘束台に背を押し付けたまま、彼女はかすかに頷いた。 「……必要ならば、続けて」
深雪はわずかに口元を引き締め、端末に指を走らせる。 「了解しました。次は強度を一段階上げます。ただし閾値までは到達させません」
篠原は唇を噛み、視線を逸らす。 (“誤差確認”。……それだけ。そう言い聞かせれば、私は委員長でいられる)
しかし肌はもう微細な汗を浮かべ、拘束具に縁取られた豊満な胸の起伏は、緊張と呼吸の速さを隠せなかった。 波形の光が瞳に映り込み、委員長の仮面の下から「被験者」としての表情が滲み出していた。 骨盤帯のセンサーが震えるように反応を刻み、波形の山はさらに鋭さを増した。 「……刺激を一段、強めます」 深雪の声は変わらず淡々としていた。
脚を固定された篠原の腰がわずかに浮き、シーツがかすかに皺を寄せる。 胸部の電極は乳頭の硬直を拾い、導電度が一気に跳ね上がった。
「……あっ……!」
抑えきれぬ声が喉から漏れ、すぐに唇を噛んで飲み込む。
画面の波形が急峻な斜面を描く。 「前頭前野の抑制はさらに低下しています。理性の働きは弱まり、扁桃体の結合が優位に。 ……恐怖と快楽が同時に高められている状態ですね」
篠原は目を閉じ、首を振る。 (誤差確認……誤差……私は委員長……)
必死に言葉を探すが、膣内の導電度が赤いスパイクを描くたび、 自分が“被験者”であることを否応なく思い知らされる。
深雪は視線を外さない。 「閾値の9割。ここから先は、もう誤作動では説明できません」
篠原の胸が大きく波打ち、汗が鎖骨を伝って滑り落ちた。 その滴りさえ、グラフに刻まれる振幅の一部のように思えてならなかった。
波形が一段と揺れを増した。心拍は赤く跳ね、呼吸は浅く速まる。 骨盤帯のラインがじわじわと上昇し、膣内の導電値も閾値に近づいていた。
「……っ、は、ぁ……」
篠原の喉から、かすかな裏返りが混じる。 自分でも聞き取れる程度の震えに、羞恥が胸を締めつけた。
(落ち着いて……私は委員長……“誤差確認”のために来ただけ……)
しかし拘束具に縁取られた豊満な体は、細かい痙攣を隠せない。 胸の起伏は荒く、額には汗が滲み始めていた。
深雪は端末を見つめ、冷静に記録を取る。 「抑制系は弱まり、報酬回路が優位になっています。……典型的な閾値直前の反応です」
「……っ、そんな、分析……っ」
篠原は声を押し殺すように応じたが、わずかに震えが混ざり、掠れた響きが裏返る。
委員長の仮面を必死に守ろうとする言葉。 だがモニターの波形は、被験者としての真実を隠さず刻み続けていた。




