第60話 装置の接続
拘束台に横たわった篠原の身体は、患者着の布越しでも豊かな曲線を隠しきれなかった。 胸部は呼吸のたびにゆるやかに上下し、下腹部のラインはベルトに締められるたび、わずかに沈む。
制度を守る委員長であるはずの女の肉体が、白光の下でただの「被験対象」として晒されていた。
深雪は無駄のない手つきでセンサーを取り出す。 冷たい電極が胸に、下腹部に触れるたび、篠原の呼吸はわずかに乱れた。
「……誤差確認、それだけ」――小声で繰り返しながらも、胸の鼓動は逆らえず高鳴っていく。
端末にコードが差し込まれる「カチリ」という音が響く。 ディスプレイの上に、心拍・呼吸・皮膚電位のラインが次々に走り、整然とした波形を描き始めた。
「……同期、問題ありません。ご安心ください、委員長」 深雪の声は平板で、感情の起伏を欠いている。
「……ええ」
篠原は努めて冷静に応じた。だがその心音の跳ね上がりは、グラフに露骨に刻まれていた。
画面に揺れる緑の波形は、制度の盾を脱ぎ捨てた女の肉体が――すでに研究の装置と一体化した証そのものだった。
深雪は端末を操作しながら、淡々と告げた。 「……久慈主任の臨床時と同条件を揃えるため、胸部と骨盤帯にも追加センサーを装着します。委員長、よろしいですね」
篠原は一瞬、言葉を失った。 (……やはり、ここまで……) だが拒めば「誤差確認」という建前が揺らぐ。委員長の肩書きが、逆に自分を縛っていた。
「……必要なら、どうぞ」 小さく吐き出すように答える。
深雪は無言で胸元の患者着を少し開き、乳頭の外周へ冷たい電極を接触させた。 「……っ」 篠原の喉が震える。グラフには即座に微細な波が走った。
「続いて、骨盤帯センサーです」
深雪の指示に従い、篠原は膝をわずかに開いた。拘束具が金属音を立てて固定される。 冷たい感触が下腹部に触れ、細い電極が膣内へと差し込まれていく。
「……ぁ……」 思わず漏れた吐息が、静寂に響く。画面上では心拍が急に跳ね上がり、呼吸数も乱れを見せていた。
深雪は一瞥もくれず、ただ端末に記録を打ち込む。 「誤差確認のため、導入は必要です。――異常はありません」
胸部・下腹部・膣内、すべてのセンサーが装着され、拘束台の篠原は完全に装置の一部となった。 委員長としての肩書きは、この白光の下では意味を失い、波形だけが「被験者」の真実を語っていた。




