第33話 触手の成長と危険性
生理的特性
研究棟の冷却装置が低く唸る。深雪は培養槽を覗き込み、血漿が満たされる瞬間を見守っていた。 触手は単なる栄養培地では反応が弱い。グルコースを与えてもわずかに脈打つ程度だ。だが、人間由来の血漿を加えた瞬間、鼓動は明確に強まり、収縮と粘着の力は格段に増した。 ――この組織の活動は、人間の成分に依存している。偶然ではない。
記録
栄養培地:収縮力・粘着力ともに低下
グルコース単独:弱い脈動のみ
血漿投与:収縮・吸着反応が顕著に強化
所見:人間由来成分が活動維持の鍵
成長過程
培養槽に保存された触手は、日を追うごとに変貌した。 最初は数ミリの糸のようだったものが、やがて数十センチの腕のように肥大化する。 ある個体は太く成長し、またあるものは断片に分かれ、別個に増殖を続けた。血漿濃度が高ければ成長は早まり、温度や酸素条件が変われば伸長は鈍る。 ――触手は、環境を選びながら確かに「育つ」のだ。
記録
成長様式:
・肥大型(太く長く成長)
・断片型(分裂して複数に増加)
サイズ変化:数 mm → 数十 cm
成長速度:血漿濃度・温度条件に依存
所見:成長は可塑的であり、環境要因に左右される
再生性
切除しても、残された断片は蠢きを止めなかった。 ときに失われた形態を回復し、あたかも自己修復を果たすかのように動きを取り戻した。 ――これはただの組織片ではない。自己保存の意思を宿す“個”の萌芽だ。
記録
切除片:活動継続を確認
自己修復:部分的に形態を回復する傾向あり
所見:高い再生能を保持し、完全切除後も残存片が生
夕暮れ、研究棟の培養室。 深雪はカップを片手に、透明な培養槽の中でうねる触手を見つめていた。
血漿を与えれば成長は止まらない。 一本の糸が腕となり、さらに広がる。 「……燃料を断てば収まる。そう理解している。だが、それは本当に間に合うのだろうか」
槽の壁を押し曲げた収縮力。 供給を絶ってもなお蠢き続けた断片。 指先に残る分泌液の痺れ。 ――どれも決定的な事故ではない。けれど「可能性」という言葉の重みを、深雪は知っている。
深雪はコーヒーを口に運び、わずかに苦みを舌に残す。 「夢か、脅威か……。制御できれば道は開ける。だが、判断を誤ればすべてを呑み込む」
彼女の瞳には、冷却装置のランプが赤く映っていた。
記録
成長速度:血漿濃度に比例、遮断で低下
過敏反応:強刺激で収縮力急増、固定具に負荷
自律活動:血漿遮断後も短時間蠢きを継続
分泌液:長時間接触で軽度炎症、成分未解析
所見:制御の鍵は血漿供給の管理。適正な管理下では安全域を維持可能




