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シルヴィ・ハートは魔王の子である。認知は多分されていない  作者: たけのこ
皇国政変編

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49.ルゥールーの頬はよく伸びる

国や地域が変わる毎にシルヴィ達の服装はコロコロ変えたいなって思ってます。


「先ずはコチラでお召し換えを……ふふっ、やっときちんとしたお召し物を用意できました」


 長い旅路を経て到着した皇城の一室にて、ジェシカはそう言って何処となく嬉しそうな、安堵したような表情をする。

 彼女にとって敬愛する主の姉であり、エルフの姫君でもあるルゥールーの案内を頼まれたというのに、そんな姫君に庶民の服装しかさせられなかったのが苦渋だったのだろう。

 シルヴィは主も確信を得ている訳ではない様なので扱いは保留中だが、そちらも出来れば貴顕に相応しい装いをして貰いたい気持ちでいっぱいだった。


「いっぱいある」


 部屋の中にズラっと並べられた衣装の数々と、頭を下げたまま待機する多くの側仕え達。

 それらを見てシルヴィは少しばかりたじろいだ様に後退りする。


「この方々は皇太子殿下の客人であり、またこの後すぐに殿下と謁見する。それに相応しい装いを頼む」


「畏まりました」


「三人の身分についてはコチラに」


 部屋に待機する側仕えの中でも年嵩の者にメモ書きを手渡し、ジェシカは一足先に退出していく。

 この場の責任者である女性がメモ書きに目を通し、そこに書かれていた内容に目を丸くするがそれも一瞬の事で、即座に気持ちを切り替えて貴人の対応の指揮を執り始める。


「先ずは旅の汚れを落としましょう」


「隣りに浴場を準備しております」


 側仕え達の流れるような手際の良さにシルヴィ達は何かを言う暇もなく、気が付けば移動させられ、服を脱がされる。

 その段になってやっと認識が追い付いたのか、シルヴィは感心する様に「おぉ!」と声を上げ、優希は顔を真っ赤にさせて「すいませんすいませんすいません! 自分で脱ぎます!」と泣き叫ぶ。

 ルゥールーただ一人が慣れた様子で側仕え達に身を任せ、シルヴィ達の様子に「あちゃ〜」と苦笑していた。


「まぁ、なんと美しい……」


 シルヴィを担当した者たちは、そのあまりにも人間離れした美に感嘆の溜め息を吐く。

 一糸纏わぬ姿のシルヴィはそれこそ著名な芸術家が彫った彫像、もしくは美の天使が舞い降りたと言われても一切の疑問もなく信じてしまいそうな程であった。

 成熟していない少女の侵しがたい無垢な美――そんな感情に相反する自らの手で穢したいと思ってしまう危うい色香。

 純粋でいて妖艶、無垢でありながら蠱惑的――例え同性であったとしても、シルヴィの裸体を長時間も眺めるのは毒であった。


「そんなに恥ずかしがらずとも宜しいのですよ」


「いいえ! いいえ! 自分で出来ましゅかりゃ!」


 そんなシルヴィ達のすぐ横では優希が戸惑いの声を上げていた。

 何処に何があるのかさえ教えて貰えれば自分で洗えるからと、他人の手を借りる程の事ではないと切実に訴える。

 しかしそんな彼女の主張も「遠慮なさらず」の一言で切り捨てられてしまう。


「お湯を掛けますよ、目を瞑って下さい」


 優希が羞恥に悶えている間にも、側仕え達は慣れた手付きで三人の身体に粘度の高い透明な洗液を垂らし、全身を揉み込む様に纏わせていく。

 油のような、ローションのような、粘度が高い筈なのに肌触りはサラサラとしている未知の感覚にシルヴィと優希が目を白黒させている間にも、並行して別の側仕えが頭髪を丁寧に梳かし洗う。


「なんと羨ましい……」


 満足に手入れも出来ない旅の後だというのに一切の艶を失っておらず、それどころか都会暮らしの自分達よりも美しい三人の頭髪に同じ女性として側仕え達は複雑な感情を抱く。

 しかしプロとしてその私情を即座に捨て去り、改めて気持ちを切り替えただ黙々と作業を続ける。

 慣れた様子のルゥールーは特に気にした様子もなく身を任せ、シルヴィは全身に垂らされる洗液の感触に好奇心を刺激されたのか自分でも手に取り、自らの親指と人差し指の間で糸を引くそれをしげしげと眺める。

 ただ一人優希だけがアワアワと慌てるも緊張と羞恥から動く事も出来ず、ただされるがままに全身を揉まれて目に涙を溜めていく。

 か細い声で「そこはっ、そこだけは……」と小さく主張しても側仕え達には通じず、身体の隅々まで入念に手洗いされてしまった優希は全てが終わる頃には瞳から光を失っていた。


「ささっ、コチラは如何でしょう?」


「シルヴィ様はどうなされます?」


「ユウキ様の体型ですと、コチラの方が宜しいのでは?」


 身綺麗になったのなら次は服選びだと、シルヴィ達は休む暇もなく先ほどの衣装部屋で用意された鏡の前に連れて来られる。

 ここでも優希が「自分でしますから!」と言おうとして、並べられた衣服の複雑さに言葉を呑み込んで絶句してしまう。

 何故なら皇都への移動の初めにジェシカが用意した庶民の服とは違って、あまりにも複雑な構造をしていたからだ。

 袖が長く、金属製の装飾具までセットとなっているらしいその所謂『貴族が着る服』は、まるで一人で着替える想定などしていないのではないかと想像してしまう程であり、優希をして諦めて素直に側仕え達の手を借りるしかないと思わせる物であった。

 そもそも下着からしてそれぞれの服に合わせた物が用意されており、もう何がなにやらであり、シルヴィや優希にとっては完全に未知の世界である。


「皇太子殿下にお会いするなら……格式としてはこれらになりますが、お好みはございますか?」


「えっと、お任せします……」


「良きに計らえ」


 優希は色々と考えた末での諦めであったが、シルヴィはただ言ってみたかっただけである。


「それではコチラをどうぞ――」


 そうして優秀な側仕え達にされるがままに服を着せられ、シルヴィ達の準備が終わる。


「まぁ!」


「お似合いですよ」


 きちんとした正装をした今のシルヴィ達は、誰が見ても何処ぞの姫君としか思えないだろう完成度だった。

 シルヴィはいつもなら無造作に下ろしている黒銀の髪を高く結われ、小さな黄色い玉が連なった簪を差し、そして一房の髪を片側に流していた。

 紺色の布地に金糸で刺繍を施された着物のようなドレスを身に纏い、一枚だけでは向こう側が透けて見えるような布をさらにその上から重ねる事で、シルヴィの動きに合わせて薄らと浮かび上がる刺繍が角度によってその姿を変える。

 また袖部分は同じ布を何枚も重ねる事で、肌を晒さずに、けれども光の加減によってはシルヴィの細い腕の輪郭だけを強調する造りになっていた。


 優希はその溶かしたチョコレートの様な髪を銀製のバレッタでハーフアップにして留め、大きな胸のせいで太って見えないようにウエスト部分を引き締めるドレスが選ばれていた。

 色はシンプルな白であり、あえて肩と二の腕の一部を露出させる事でその細身と胸の大きさを強調し、体型の誤解を招かないように、むしろ優希の魅力を底上げする努力がなされていた。

 シルヴィと違い服の裾は膝下までしかなく、アンクレットが装着された足首と挟まれた健康的なふくらはぎに目が引かれるデザインとなっている。

 赤いペディキュアが塗られた足の爪を見せるため靴は底の厚いミュールサンダルが選ばれていた。


 ルゥールーはその長い若草色の髪の毛を丁寧に編み込まれており、飾られる装飾品の多さから三人の中で一番身分が高い者として扱われている事が分かる。

 薄紫色の衣を身にまとい、シルヴィよりも丈の長い袖や裾は指先や足下さえも見せない。腰のベルトから吊るされる玉の飾り、金糸の刺繍と縫い付けられた極小の宝石による彩り。

 さらに透けるような薄い桃色の羽衣を背負えば、皇国の貴族達にとって皇族と同じ身分の者として遇されているのは一目で分かってしまう。


「お姉ちゃん豪華」


「そう、だね……私もちょっと慣れないかも……」


 シルヴィは言葉その通りの感想しか抱いていなかったが、優希は服装によって細かい身分を示しているのかと考えていた。


「うーん、家族と会うだけで正装する必要は無いと思うんだけどなぁ……」


「ギルベルトさん、様? でしたっけ? その人と会った後で夜会とかあるんじゃないですか?」


「そっか、確かに招待状とか貰ってたね」


 ジェシカから貰ったギルベルトの手紙に、それぞれ日付けの違う招待状が入っていた事を思い出してルゥールーは納得した。恐らく丁度今日開催される物があるのだろうと。


「それでは殿下のもとまでご案内致します」


 納得のいく準備が出来たと満足気な側仕え達の中から、年嵩の者が進み出て三人を部屋の外へと連れ出して行く。

 ルゥールーは何度か来た事があるのか特に何か気にした様子は無かったが、シルヴィと優希は初めて大きな城の中を、それも皇族が住まう奥へと進む道とあって興味深けに周囲へと視線を飛ばす。

 逆にそんな彼女達へと、見慣れない美しい少女達へとすれ違う貴族や騎士達から視線が注がれる。

 真っ先にそれに気付いた優希が緊張に襲われたのか段々と動きが固くなり、それとは対照的にシルヴィはむしろ目が合った者たちに手を振って見せる。

 何処の令嬢か分からない者に手を振られた者たちは一様にギョッとしつつも下手な対応は出来ず、少し迷ってから会釈をするという同じような反応を返す。

 ただ一人、父親の職場を見学していたとある貴族の青年だけはシルヴィに見惚れて突っ立ったままだった。

 そんなシルヴィの様子にルゥールーが呆れた目を向けている間に目的の場所へと辿り着いたのか、案内をしていた者が芸術品のような扉の前で立ち止まる。


「コチラでございます。……失礼します、お客人をお連れしました」


『入れろ』


 その一言と合図に扉が開き、促されるままにシルヴィ達は足を踏み入れる。

 その部屋のド真ん中には黒髪の青年――世界最強の男と名乗っていた人物がふんぞり返っていた。


「あっ」


 シルヴィがその事に気付き、何かを言うよりも早く黒髪の青年は立ち上がり、そのままズカズカと近寄って来たかと思うと唐突にルゥールー頬を両手で引っ張り出した。


「――こんのバカ姉貴がッ!! いつまで引き篭ってんだドアホッ!!」


「いひゃいいひゃい! ぎるひゃんはらして!」


 その突然の出来事に優希は思わず「えぇ……」と引き攣った声を漏らす。

ガハハ!謎の光や泡で隠すなんてちゃちな真似はしねぇ!

窓もない屋内でローションみてぇな透明な洗液で全身を揉み洗いだ!


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― 新着の感想 ―
[一言] こういった行為に慣れない優希ちんは自分のシークレットポイントを隠したくて仕方なかったことだろう。 端から見るとそんなことは全然なくて、それでも多くの女性がコンプレックスを持つという、おなかと…
[一言] ルゥールーちゃん、ここまですごい姫っぽかったのに最後よw
[一言] まあ日本の一般人なら着替え諸々を人にやってもらうのは気が引けますよね……。
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