48.シルヴィの日記その1
急に寒くなったせいで体調を崩してしもうた……
――拝啓、お母さん。
おはよう、こんにちは、こんばんは、貴女が愛してやまないシルヴィです。
私は今現在お友達のユウキとお姉ちゃんのルゥールー、お兄ちゃんの部下らしいジェシカ、そしてお兄ちゃんを支持する兵士達と一緒に旅をしています。
兵士の皆さんと合流するまでは何回か刺客に襲われていたのですが、大所帯になってからはそれもぱったり止みました。
お姉ちゃんが捕まえた刺客にジェシカが何かを聞いていたみたいですが、何処そこの貴族から出向した……くらいしか話してくれないみたいです。
お兄ちゃんを旅の仲間にする為に解決しなければならない大きな問題があるのですが、この調子だと上手くいくかは分かりません。
あ、あと今度のお兄ちゃんはお兄ちゃんだと良いなって思います。次はちゃんとお母さんから貰った魔道具を使います。
最初は一人で旅をするのは寂しく思いましたが、お母さんの言った通りすぐに賑やかになりました。
最初に出会ったお友達のユウキはすごいんですよ。めちゃくちゃ頭が良いんです。とにかくすっごくすごいんです。とてもすごい。
あとお母さんよりも若いのにお母さんよりもおっぱいが大きいのです。すっごく大きい。なんか、すっごく、めっちゃ……とにかく大きいんです。
お母さんは以前に大人になれば大きくなると言っていましたが、ユウキは現時点でお母さんよりも大きいのてす。お母さんも間違う事があるんだなって思いました。
ルゥールーお姉ちゃんは小さいです。お母さんの手紙に書いてあった通り本当に小さくてビックリしました。私よりもお姉ちゃんなのに不思議だなぁって思いました。
試しに高い高いしたら物凄く怒られました。ユウキのおっぱいがお母さんよりも大きかったからといって、手紙に書いてあった注意を少しでも疑ってしまって悪かったなと反省しています。
ちなみに私から高い高いされて驚くルゥールーお姉ちゃんはとてもすごく可愛かったです。すごくすごかったです。
そしてジェシカの頭に石を十七個も積む事が出来ました。すごいでしょ。
沢山居る兵士達の中ではサムおじさんと仲良くなりました。彼は私に色々な事を教えてくれます。
私が「こんなにいっぱい人が居ると、すぐにご飯が無くなりそうだね」と言うと「途中で狩りをしたりするんだよ」と教えてくれました。
特に『ガキブタ』という、とても捕まえやすくて美味しい獲物が居るみたいです。
私が「なんでそんな名前なの?」と聞くと「ピンチになった時に駄々を捏ねる子どもみたいになるからだよ」と教えてくれました。
実際にサムおじさんが捕まえて来たガキブタを見せて貰いました。老いさばらえた豚みたいな見た目をしていました。
私が「全然子どもっぽくない」と落ち込んでいるとサムおじさんは困った顔をしていましたが、横で聞いていたユウキが「生まれたての赤ちゃんも皺くちゃだし、生まれたばかりの人間の皮膚は赤みがかってて、だから赤ちゃんとも言うし、だからこの皺くちゃでピンク色の皮膚をした豚さんも子どもと言っても間違いではないかも」と小さな声でごにょごにょ言っていました。
なんでそんな小さな声で喋るのかは分かりませんでしたが、やはりユウキは物知りですごくすごいと思いました。何故か私を困った顔で見ていたサムおじさんも「助かったよ」と言っていました。やはりユウキはすごくすごいです。
ついでとばかりに「ガキブタがピンチになった時の姿が見たい」と言うと、サムおじさんは笑顔で「今度連れて行ってあげるよ」と約束してくれました。
私はもう嬉しくなって嬉しくなって、興奮して毎晩のように「明日は行くのか」と訊ね、お昼になれば「狩りに行かなくて良いのか」と声を掛け、楽しみ過ぎて即興で作った『出荷されていく豚さんのお歌』を毎日決まった時間に口ずさんでいると、サムおじさんが「もう勘弁してくれ」と言いながら連れて行ってくれました。何を勘弁して欲しいのかは分かりませんでした。
サムおじさんが所属する隊の皆も狩りに付き合ってくれました。ユウキも心配だからと付いて来てくれました。
道中で私が神様に祈る度に大袈裟に驚いてみせてくれるのですが、やはり自分はまだまだ子どもに見られるんだなって思いました。
森に入り、サムおじさん達の案内に従うとすぐにガキブタが現れました。
私は今まで獲物に出会すまで森を彷徨い、食べられそうな動物に出会うとさっさと捕まえるという力技で狩りを行っていました。
ですがこうやって知識がある人達に同行すると、森の中の痕跡や獲物の生態からすぐに目当ての動物を見付ける事が出来るのです。すごくすごいです。
サムおじさんに「お手本を見せる前にお嬢ちゃんが先に捕まえてみるかい?」と聞かれたので、私はいつもの様に獲物に近付いて両手を広げました。それだけで獲物の方から寄ってくるのでそのまま締めました。
サムおじさん達は頭を抱えて「なんで野生動物が警戒しないんだ」と言っていました。よく分かりません。しかしながら確かにこれではガキブタはピンチになっていない事に私は気付き落ち込みました。
そんな私にサムおじさんは「大丈夫だから、これから見れるから」と仲間達と一緒に他のガキブタへと近付いていきました。
当然の事ながら殺気を丸出しのサムおじさん達にガキブタは気付き警戒し、そして逃げようとします。
しかしながらサムおじさん達の連携は巧みで、ガキブタが何処へ逃げようと必ず誰かが先回りしているのです。確かにこれなら殺気を隠す必要もありません。
いよいよ捕まえるか、といったところでガキブタが驚きの行動に出ました。
なんと自らひっくり返り、投げ出した四肢をバタつかせ始めたのです。
サムおじさん曰く、その発達した強靭で鋭利な蹄で天敵を撃退する為のガキブタの最終手段らしいのですが、四肢をバタつかせながら何とも情けない鳴き声を発するのです。
それはガキブタの決死の命乞い。なるほど、確かに駄々を捏ねる子どもみたいです。そう言われる理由が分かりました。
これが雄大でいて厳しい自然を生き残る野生の知恵かと、私は物珍しさと感動で目を輝かせました。
しかしながらそんな厳しい自然を生き抜く野生の知恵ですが、ある重大な欠点がありました。
それは――「助かる訳がない」という事です。
そもそもバタつかせる四肢のリーチが短く、全く脅威になっていません。
さらに耳に残る情けない鳴き声を響き渡るせるせいなのか、余計に他の天敵を呼び寄せてしまう始末。
しかもサムおじさん曰く、ガキブタは本来この様な動きを想定している身体構造はしておらず、四肢をバタつかせればバタつかせるほど自ら死に近付くそうです。
そうまでして助かりたいガキブタですが、現実はあまりにも非情でした。
何故なら――「そこまで頑張っても許して貰える訳がない」からです。
私達も、ガキブタの天敵も、何かを食べなければ生きていけません。
そんな条件下でこんなしょうもない必殺技を出されても「だからなに?」としかならないのです。
しかもですよ、先ほども述べた通りこの必殺技はガキブタにとって無理をしているのです。そのせいなのか、このまま放置しておくとせっかく得たお肉が不味くなると言うのです。
その為サムおじさん達はこの態勢に入ったガキブタを許すどころか、むしろ「さっさと仕留めろ」とばかりにリンチするのです。
自然界の天敵も同様です。ガキブタの決死の行動は野生動物にとってちょっと鬱陶しい程度のものでしかなく、その耳障りな命乞いも相まって「さっさと黙れ」とばかりにリンチするのです。
そうしてガキブタは集団暴行の憂き目に遭い静かに目を閉じるのです。
そのあまりにも壮絶な最期は私に何かを考えさせる物がありました。ユウキは少し青ざめた顔で震えていたので抱き締めてあげました。
ビックリして困惑しつつも抱き締め返してくれるユウキはとても可愛かったです。
そんな事をしていると、狩りの成功に興奮したサムおじさんが私達にもガキブタの差し出し、せっかくだから一緒に喜ぼうと、何か言ってくれと促しました。
なので私は「やったね」と言ったのですが、サムおじさんは「相変わらずお嬢ちゃんは愛想が無いな」と何故か不評でした。仕方ないのでユウキに振りました。
突然の事に困惑したのか、ユウキは少しオロオロしたかと思えば急に「獲ったどー!」と叫び始めたのです。
突然聞き慣れない叫びを聞きサムおじさん達は固まり、かくいう私も普段とは全く違うユウキの言動に目を丸くしました。
そんな私達が驚いてるいるのを見て恥ずかしくなったのか、ユウキは消え入りそうな声で「間違えました……ごめんなさい……間違えました……」と言いながら、真っ赤な顔をして座り込んでしまいました。とてもとてもすごく可愛いです。
何故なのか分かりませんが、こんな風に恥ずかしがっているユウキは見るとちょっかいを掛けたくなります。さらに突っつきたくなるのです。面白いので、もっと林檎みたいに赤くなった顔を見せて欲しいです。
それと同時に、普段は頭が良くて頼りになるのに、時折こんな感じに自信を無くしてしまうユウキは友人でもあり妹の様でもあります。
野営地に帰還し、狩ったガキブタを食べながらそれをユウキ本人に伝えると、物凄く困ったような、何か凄く言いたい事があるような顔をして黙ってしまいました。
私がどうしたのだろうと首を傾げていると、ルゥールーお姉ちゃんが「シルヴィちゃんほど末っ子気質な子は中々居ないよ」と言ったのです。意味は分かりません。
頭を捻って考え込んでいると、やれやれと溜め息を吐き出したルゥールーお姉ちゃんが「それで? ガキブタの命乞いってどんな感じだったの?」と別の話題を振って来ました。
なので私は自信満々に「暴行を受けている老人の様だった」と答えました。ルゥールーお姉ちゃんは「えぇ……」と引いていました。
他にも……あっ、どうやら皇都に着いたみたいです。馬車の中の私達へと馬に乗ったサムおじさんが声を掛けて来ました
また忙しくなって暫く日記は書けなくなりそうです。
余裕が出来たら覚えている楽しかった事や辛かった事、印象に残った事を沢山書きたいと思います。
ちなみにマイナスイオンは見付けられませんでした。
マイナスイオン、私は見付けました――by.母より
何故か日記の記述に家族や友人よりも豚に関する物が多い娘シルヴィと、しれっとその娘の日記に返信を書き込んでいる母ダイナ。
ここまで読んで面白いと思って下さったらブックマーク、評価、感想をくれると嬉しいです。




