吸血女子は使い魔に起こされたい
「……ん、はっ、あ!カーティス!や、やめ!」
「だめ。やめないよ、ルディ」
「つっ!カーティス!!」
調度品が品良く並ぶ部屋には一人のルディと呼ばれる少女とカーティスと呼ばれる狼の様な大きな犬の2つの影がカーティスがルディを下に組み敷く形で向き合っていた。そしてカーティスはひたすらに、ルディの顔や首を舐めていた。それがたまらずに、ルディは悲鳴をあげていたのだ。
その悲鳴が十分な広さも誇る部屋に響き渡っていた。
「ルディ、ルディ!」
「っっ!カーティス。いい、加減に………いい加減に、しなさいよぉぉぉぉお!!」
ドゴォッと言う鈍い音と共にカーティスの身体はルディの身体から飛ばされ遠ざかる。
「っ!やめてって言ってるじゃない!この変態犬!」
握りこぶしを突き上げて、ルディは腹を押さえて床にうずくまるカーティスに叫んだ。
「っ、くっはっ……。ル、ルディ今のはちょっと」
「なぁぁにが今のはちょっとよ!貴方が悪いんでしょう」
「だって、起きないルディが……」
「問答無用よ!」
ズカズカとルディはカーティスに近づくと、思いっきり足を上げ……その足を容赦なく振り下ろしたのだった。
⭐⭐⭐⭐⭐
「……動物虐待だと思うよルディ」
恨めしそうに自身のお尻を擦るカーティスを一瞥すると、ルディはふんと鼻をならした。
「カーティスが悪いんじゃなくって?よりによってなんで起こすのに人のからだを舐めるのよ。っていうか、そもそもが、なぜ貴方は人形じゃなくて犬の形で私を起こすなんて言う愚行をはたらいたのよ?」
カーティスは吸血一族の末娘ルディの相方であり、雄の使い魔犬だ。
吸血一族は妖魔の世界で最強クラスに位置する。そして妖魔の世界では幼い頃から妖魔界の神である邪神が選んだ相手をパートナーとして切磋琢磨し育つように決められていたのだ。
もちろん例に漏れることもなく、ルディとカーティスもそうだった。
場合によれば同じ吸血同士もあり得たのだが偶々ルディの場合は魔犬だった。
そして、偶々魔犬の一族の場合は吸血一族に選ばれた際に、使い魔として契約してもらう習性があったためカーティスはルディのパートナーであり使い魔なのだ。
そんな関係のカーティスは犬型にも人形にも自分の意思で自由に変幻できる。そして、彼は普段はなぜか好んで人形をとっていた。
彼曰く、人型の方が色々便利だからだと言ってはいるが、ルディはどちらかというと犬型の方がもふもふしていて好きなのだ。
ルディが求めればカーティスは犬型でもいてくれるのだが、今は先程留目とばかりにルディが尻尾を踏みあげたせいで、再び踏まれまいと尻尾を隠すために人形になっているようだ。
「だって、この間人形で起こしに入ったらルディが殺しにかかってきたんじゃんか……」
「……ソウダッタカシラ」
そういえば……とルディはひっそりとため息をつく。
確かに数日前、目が覚めたらいきなり筋肉がしっとりとついた厭らしい上半身裸の銀髪のイケメンが目の前にいたせいで驚きのあまりヘッドロックをかましてしまった……気もする。
けれど、それはイケメンなカーティスが悪い。
それに……
「……それはあなたが上半身裸でくるから……つい……」
「前日に犬が服着るなんてもふもふの冒涜だっていって俺の服取り上げたのは?」
「……」
確かに前日珍しく酒を飲み気分がよくなっていた。
そして、運悪く服を着たままカーティスが犬型になっていたから……。
「仕方ないから、シーツ巻き付けたけどさすがに上半身まで隠せなかったからああなったんですけど?」
「だったら犬型で……」
「もふもふに触られても気持ちいいから二度寝して集会に遅れたって泣き喚いたのは?」
「……。」
吸血一族は月に何度か集会を行う決まりだ。
遅刻に対する罰は原則死なない程度に血祭りで、ひどい目にあう。
そして、その時に遅刻したルディはひどい目に合った。
ぼろ雑巾のようになり帰ってきた時に、2度と犬型で起こさないように硬くカーティスに言い聞かせていた。
「やっぱり、ヒト型で……」
「奮起してヒト型で起こしに行けばヘッドロックかけてきたり、最悪なんでか知らないけどバーサス状態になって俺を銀爪で刺し殺そうとおそってきたじゃないか」
それはイケメンが……以下略。
「ぐっ……」
「俺だって起こすのは毎回命の危機だから、代わりの従者に起こしてもらえばって言っても、俺じゃなきゃ嫌だって泣き喚いて立てこもったのは?挙げ句魔力暴走させたのは?屋敷壊しかけてお父上にぶちギレられたのは?ねぇ、ルディ?」
「うううううう」
もはや言い返す事すらできず目尻に涙を溜めてルディが頬を膨らませれば、カーティスは困ったように眉尻を下げた。
「……でも、だって。仮にも私は年頃の女の子なのよ」
「じゃあ、何度も言ってるけど女の子の使い魔でもつくってたのめば?」
邪神によって選ばれるのは切磋琢磨して育つパートナーであって、使い魔ではない。その為ルディにはカーティス以外にも使い魔はいる。
「それは嫌!!カーティスが……いいんだもん」
「困ったねルディ」
本当に困ったのだろう、カーティスは小さなため息をついた。
「それにね、ルディ。俺は魔犬一族の掟で君の使い魔になってるけど、本来なら君と僕は能力を高めあうための相手なんだよ?俺に頼りきって堕落していたら最悪相手だって解約されるかもしれないよ?」
「え?」
邪神の選んだ相手は基本解消などされない。されないのだが、希にお互いがお互いを堕落させあう関係に陥ることもあるのも事実だった。その為、一生に1度だけ、お互いの部族の審査のもと解消されることもなきにしもあらずだったのだ。
「ましてや、君は最強と言われる吸血一族の末裔だよルディ。かたや俺はそこまで弱くはないと思ってるけど、基本使い魔の魔犬一族だ。ルディが自分で起きれないくらい堕落していたら俺たちは間違いなく解消させられるだろうね」
それか、起こす前に俺がルデイにやられるか……と小さく呟いたカーティスの言葉はルデイには届かない。
「い、いやよ!いいわよ!そこまで言うならカ、カーティスには頼らず起きるわよ!起きて見せるわよ!見てなさいよ!!」
突然叫ぶとルデイはガバリと再びベッドに滑り込み頭から毛布をかぶってしまった。
「……ルデイ?なにしてんの?起きないと駄目だよ?今日はまた集会だよ?」
呆れたようにため息をつくカーティスにベッドの中のルデイはさらに叫ぶ。
「あ、明日からよ!明日からちゃんと自分で起きるから……だから、今日は……カーティスに起こして欲しいんだもん」
チラリとベッドから可愛らしい紅い目がカーティスを捉える。
「はぁ……。遅刻しても知らないよルデイ。で、どっちで起こせばいい?このまま?それとも犬型?」
尻尾は踏まないでよとカーティスは優しくベッドにちかより紅い瞳を覗き返せば、紅い瞳は嬉しそうに細められる。
「ん、カーティスならどっちでもいい」
「はいはい。ルデイ……ちゃんと起きて、俺の可愛いパートナー。また血祭りになりそうな時間だよ」
かなりやばいよ?と耳元でささやけばルデイは跳び跳ねた。
「血、ええええええ!な、な、なんでカーティス起こしてくれなかったのよぉぉお!」
泣きながら叫びカーティスをきにする素振りもなくあわただしくルデイは着替え部屋をバタバタと去れば、残されたカーティスはやっぱり明日も俺が起こさないとだめだなと再び小さく、それでいてどこか嬉しそうにため息をこぼし、泣きながらボロボロになって帰ってくるであろうパートナーを甘やかすべく仕度にとりかかっていた。
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