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乙女ゲームの主人公に転生しましたが壁になりたい件について。  作者: じゅん
ある日目が覚めると乙女ゲームのヒロインになっていた件
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父と弟は心配なようです。

「~♪~♪」


私は今、先程の恐怖体験(お説教)のことも忘れ、上機嫌に鼻歌交じりでレッドカーペットの敷き詰められた廊下を歩いていた。

足取りも軽く…厳密にはほぼスキップのような状態でゲームのメインテーマを口ずさむ。

実際にはてんこ盛りにされたパニエやドレスが重く、周りから見れば両足を痛めておかしな歩き方をする主人公にしか見えない気もするが、知ったことではない。

何故なら私は機嫌がいいから!!!!

何度でも言おう、機嫌がいいから!!!!


それは先程ユーリから出たセレスティンという言葉が原因だった。

セレスティン皇国。

それは宗教心の厚い国で、それ故なのか他の国と比べると少し閉鎖的で、皇子であっても国民すらその姿を目にしたことが無いほどだ。

しかし。それもストーリーに絡んで変わり出す。

共通ルートでの建国記念パーティーで皇子が主人公を見初めたことから自国に招待し、その閉鎖的だった国を徐々に解放していく…というストーリーなのだが。

その“見初めた”という事実も、実はここカスティージョ王国を支配したいが為にまずはその国唯一の公爵家令嬢である主人公に取り入り、内側から徐々に攻め落とそうというある人物の策略だったりするのだが、その人物というのがー


「姉さん!」


その時後方から先程と同じ綺麗なソプラノの声が響いた。

思わず思考を停止し振り返ると、廊下の奥からパタパタと駈けてくるユーリの姿が目に入った。


「ユーリちゃ…ユーリ、様…?」


流石に普段そう呼んでいるからと、男の子に向かって「ちゃん」付けも失礼かなと思い、咄嗟にこのゲームでは無難そうな「様」を付ける。

と、途端に彼は眉をひそめ「様?」と首を傾げた。

訝しげにしているその顔までもが可愛いなんて、美少年は本当に得だな。

なんて私が「うんうん。」と1人で頷いていると、彼が心配そうにこちらを覗き込んできた。


「どうしたの、姉さん。いつもならユーリって呼ぶのに、…昨日も1人で街へ出かけたって言うし、まさか頭でも打ったんじゃー」


「へ?あ、だ、大丈夫、大丈夫!ちょっと言ってみただけ、だから、…ー」


鼻の頭が触れ合いそうな至近距離。

付けられた額から彼の熱がじんわり伝わり、伝染するように徐々に広がっていく。

突然の度アップ美少年に声は尻すぼみになり、心臓は痛いほどドクドクと脈打つ。


暫く額をつけていた彼は「熱はなさそうだね…」と呟くとゆっくりと身体を離す。

一つ一つ、どんな動作をとっても絵になって流石攻略キャラなだけあるなと関心してしまう。


そんな惚ける私を他所に彼は「あ、そうだった…」と徐に口を開くと足元を見つめゆっくりと話し出した。


「前にも言ったけど、父上だって姉さんのことを心配してるんだ。さっき話しているのが聞こえたけど、1人で出かけるのは控えて欲しい。」


「それはー…さっきも言ったけど、マキナも一緒でー」


スっと背筋が凍りつくような感覚がした。

ユーリはこちらを見ている訳では無いのに。

確かに、その目で、その瞳で、射抜かれたような強い錯覚に陥った。


「メイドは姉さんの身の回りの世話をする為の人間だ。護衛のためのそれじゃない。少しくらい自衛の術は知っているかも知れないけど、それも護衛や兵士の力があってのものだ。もし俗に襲われた時メイド1人で姉さんを守りながら戦うのは無理だし、もし姉さんにもしもの事があれば咎められるのは彼女なんだよ。」


「あ…」


ユーリの深い蒼の瞳と目が合う。

宝石のようにキラキラと輝くそれは深海の深さを見ているようで、どこまでも、どこまでも呑み込まれていってしまいそうなほど蒼く澄んでいた。


「ご、ごめんね、ユーリちゃ、ユーリ。私、そんな気は全然なくて、本当に、ごめんなさい!」


慌てて頭を下げる私に頭上から小さく息を着く声が聞こえると「大丈夫だよ、姉さん。」と小さな手に頭を撫でられた。


私が拍子抜けしたように顔を上げると、ユーリは少し驚いたような、困ったような顔で静かに笑った。


「なんて顔してるんだよ。大丈夫、怒りはしないよ。ただ、僕も父上も姉さんを心配しているんだよ。」


優しく微笑む彼に吊られて笑みがこぼれる。


「ほーら、分かったら、今日はお部屋でゆっくり休む!明日は今日サボった分のお稽古だってあるんだし、早く行く!」


そう言いながら背中を押してくる彼はとてもシリアスエンドが待ち構えているようには見えないほど輝いて見えて、控えめに言って天使だと確信した。


「え、えぇ…お稽古なんてあるの、私…」


「何言ってるの、当たり前じゃないか。朝はヴァイオリン、ピアノや武術、魔法の練習に午後からは主に座学だよ。いつもやってるじゃないか。」


あまりの事柄の多さに私はただ「えぇ…」と顔をひきつらせるばかりだったが。

ある言葉に反応し、口角が上がってしまうのが分かる。


「魔法…そうよね、魔法があるのよね、だってここはセイリオスの王子の世界なんだもん…あぁ、すごく楽しみになってきたわ!」


私の言葉に今度は彼が大きく目を見開き「セイリオス…?」と疑問の表情を浮かべるが私は気にせず「何でもないわ!」と1歩前へ出た。


「明日が楽しみだね!ユーリ!」


私の笑みに彼は吊られて笑顔を向けると「そうだね…じゃあその為にも早く休まないと。」と、長く続く廊下の奥へと歩き出した。


「あ…」


思わず漏れた声に彼は即座に反応すると「なに?」と振り返る。

私は罰が悪そうに後ろで手をモジモジと動かすも、これを聞かねば始まらない。と意を決して口を開いた。


「わ、私の部屋って…どこ…?」




「……………え?」

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