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アルラウネとドリアード

 いつの間にか自分の周囲はエルフのみになっていた。だが族長や監視役とは違って頭に花の冠を被り、ゆったりとしたローブを羽織り足元まで隠していた。

 彼女たちはその場から一歩も動くことなく、こちらを興味深そうに観察している。


 そのままお姫様抱っこされたまま歩き続けて、大樹や建物も見えなくなり、開けた広場の中央に向かって進んで行く。わかってはいるが注目されているので、相変わらず恥ずかしい。

 そして中には羨ましそうな視線を送ってくる者も居る。


「この場合はどっちなんだろ?

 族長に抱きかかえられたいのか。それともアタシを抱っこしたいのか」

「考えるまでもなく後者よ。沙紀はお姫様だって言ったでしょう?」


 冗談だったらいいなと思っていたが、やはり後者だったらしい。メガネをかけた地味系女子がお姫様など、どう考えても物語的に盛り上がりに欠ける。

 アタシがやるせなく溜息を吐いたとき、何故か下半身が大きく膨らんだ近くの女性エルフのローブの中から、男の呻き声が聞こえた。


「えっ…ちょっと止まって。今の声は何?」

「そう言えば説明してなかったわね。ここはエルフではなく、アルラウネの区域よ。

 そこの貴女、もし良ければ沙紀に見せてもらえないかしら?」


 族長の指示で、目の前のアルラウネが恥ずかしそうに頬を染めながら、ゆったりとしたローブをたくし上げる。

 彼女の下半身が視界に入ると、アタシは驚きのあまり絶句して何も喋れなくなる。


 巨大な赤い薔薇の花の中心から、ひょっこり生える美しい女性の上半身にも驚いたが。一番びっくりしたのが、裸の人間の男が彼女の花の中に胸まで飲み込まれて、切なそうに身悶えしていることだ。


「えっ…あっ…ええっ!?」

「あら、沙紀。初々しい反応ね。男女の交わりを見るのは初めてかしら?」

「そりゃ初めてだけど…って! そう言う問題じゃないからね!

 ああ! ごめん! もう隠していいよ!」


 アタシもいつまでも異種間的な男女の交わりを見るのもはばかられたので、すぐに顔をそらしてローブで隠すように告げる。

 目の前の女性はモジモジとした様子で恥ずかしそうに下半身をサッと隠す。よく見ると周りに居るエルフだと思っていた人は皆彼女と同じアルラウネで、下半分が周囲から見えないようなゆったりとした服装を着用していた。


「今の人間も奴隷なの?」

「それは…」

「奴隷よ。でもエルフとは違うわよ」


 エルフの族長が質問に答える直前に、広場の中央から大きな声が聞こえてきた。続けて無数の蔦が目にも留まらぬ速さで伸び、あっという間にアタシの四肢を絡め取る。


「もっと近くにいらっしゃいな」

「へっ? にょっ……にょわっ!?」


 空を飛ぶ経験は何度もしているが、蔦に引っ張られる経験が初めだ。そのままアタシは重さを感じさせずに軽々と運ばれていく。

 辿り着いた先の広場の中央に居たのは、高貴なローブを身に着けて若草色の髪をした二十代半ばほどの美女だった。

 目の前のアルラウネはアタシを自分の真ん前まで引き寄せて蔦から解放した。


「私がアルラウネの族長だけど、いい反応ね。ふふっ、可愛いわよ」


 てっきりそのまま自由にしてくれるかと思ったが、、彼女の半身である桃色の巨大な花の中に、アタシの下半分を飲み込んだのだ。

 足先が無数の花びらでゾワゾワとくすぐられているような刺激を受けて、足腰の力が急激に抜けていく。


「…っと、さっきの質問の答えだけど、アルラウネは精気を糧にするの。

 だから人間奴隷の使い方も、そっち方面になるのよ」


 そっち方面になるのよ …ではない。今のアタシはとても困っているのだ。何とか踏ん張ろうとするが足元がくすぐったくて堪らない。

 このまま力を抜けて巨大な花の中に全身が飲み込まれれば、一体どんな酷い目に遭うことか。


 先ほど少しだけ見せてもらったが。アルラウネに顔以外を捕食されていた男は涎を垂らしながら全身を弛緩させ、心の底から幸せそうに蕩けきった表情を浮かべていた。

 そんな光景が一瞬脳裏に浮かぶ。しかし目の前の相手はアルラウネの族長だ。先程の男を遥かに越える心地良さを味わうことになるのは、想像に難くない。

 そもそも十五歳でまだ生娘のアタシには刺激が強すぎるのだ。


「地脈から摂取してもいいんだけど、やっぱり直飲みが一番美味しいのよ。

 でも思考や感情も一緒に吸い上げるから、貴女のように負の感情が薄くて人外に好意的な人間でないと、不味くて食べられたものではないわ」


 アタシの半身は巨大な花に飲み込まれていて、おまけに足腰から力が抜けてまともに動けずに子鹿のように震えている。

 相変わらずくすぐったい刺激を受けて身悶えしながらも、死なばもろともと覚悟を決めて目の前のアルラウネに抱きつく。


「あらやだ! 大胆ね!」

「もうっ! わかっててやってるでしょう!」

「あははっ、…バレちゃったわね」


 下半分が骨抜きになっても上半身はまだ辛うじて動くので、目の前のアルラウネに抱きつくことで巨大な花に飲み込まれるのを防ぐ。

 イタズラを誤魔化す子供のように僅かに舌を覗かせて可愛らしく微笑む彼女は、待ってましたとばかりにアタシの腰に両手を回して抱き寄せる。

 自分の顔の辺りに族長の豊かな果実が押し付けられて、スッポリと包み込まれたのがわかる。


 そして姿勢が安定したのはいいが、今度は周囲の他のアルラウネたちから羨望の眼差しが浴びせられる。一体どちらを羨んでいるのか、

 族長に抱き締められているアタシか、自分の半身を飲み込んでいる彼女か。エルフの族長からすればこの場合は後者らしい。

 だがこの姿勢も必死の抵抗の現れなので、何とも複雑な心境だ。


「沙紀の精気を少しだけ味見したけど、これは危険ね。

 うちの若い子が一度でも吸ったら、たちまち虜になって確実に奪い合いになるわ」

「うへぇ…そっ、そんなに?」

「神代の時代でも、貴女ほど親愛の情を持ってお付き合いしてくれた人間は居なかったわ」


 妖精と人間の仲が良かった時代でそれはないのではないか。アタシのような人間はもっと大勢居たはずだ。

 奪い合いという言葉から強引に意識をそらして少しでも前向きに考える。自分だって現実逃避をしたくなるときぐらいあるのだ。


「それでもせいぜい子供までよ。成人した盟友は種族の違いに苦悩するわ。

 そして最後には皆離れていってしまったわ」

「そうなんだ」

「でも、沙紀は違うようね」


 アルラウネの抱き締める力が少し強くなり、アタシと彼女の密着の度合いが高まる。別に苦しくはないが何だか恥ずかしく感じる。

 そして彼女はエルフの族長が途中まで語ってくれた思い出話の続きを聞かせてくれた。


 隠れ里の三種族は人間のことが好きなので、平野に住む者たちを暖かく見守っていた。

 だがエルフやアルラウネは仲の良い友人として接しているつもりでも、人間たちからはそうは見ていなかった。何とか彼女たちの力を利用しようとする。


 物心がつく前の子供が信頼関係を築くことはあるが、妖精と人間の文化や肉体の違いに悩み、周囲の者たちから陰口を叩かれる。

 その他にも色々な障害によって結局長続きすることなく、お互いの信頼関係は壊れてしまう。

 そして時代が過ぎるほどに人間至上主義は顕著になり、やがて妖精たちが人前に姿を現すことは完全になくなる。


「へえー…そんなことがあったんだ。それは何と言うか大変だったね」

「そうなのよ。本当にあの頃は大変だったわ」


 相変わらずアルラウネとアタシはお互いを抱き合ったままだが、和やかな雰囲気で話を続ける。内容は重いのに彼女は何処か楽しそうだ。

 おまけにアタシの髪を優しく撫でて、ちゃんと手入れしてるの? …とか聞いてきたので、まあそれなりに…と無難に答えておいた。


「駄目よ。髪は女の命なんだから、沙紀もちゃんとお手入れしないと。

 今度私が教えてあげるわ」


 そんなに手間暇かけたところで、基本的には家に引き篭もっているのだ。そして身なりに気を遣って、少しでも自分を良く見せようなんて気はさらさらない。

 このまま女子トークのほうに持っていかれると、自分のがさつな性格が露呈して不味いと考え、アタシはわざとらしくアルラウネに別の話題を振る。


「そっ、そんなことよりさ。…いつまでこの状態なの? そろそろ自由にして欲しいんだけど。

 あと、エルフの族長は?」

「ふふっ、都合が悪くなって話をそらしたわね。…このこのー! 悪い子めー!」

「……にょわっ!? やめえっ! やめれーっ!」


 アタシの癖っ毛を傷つけないように、それでいてはしゃぎながらワシャワシャと撫でるアルラウネは、始終笑顔だ。

 やられている自分にとってはくすぐったいので何とか逃れようと首を振るが、彼女がそれを許すはずがない。


 結局その長時間に渡って指先で髪を撫でるだけでなく、蔦や花弁も存分に使ってアタシの全身をくすぐり続けるという、羞恥プレイを受けることになった。

 そして周囲のアルラウネに混ざってエルフの族長も一緒になって、好き放題にニャンニャンされているアタシを、羨ましそうに眺めていたのだった。







 いつの間にか眠っていたらしい。柔らかくて綺麗な落ち葉を集めた布団が大樹の陰に作られ、アタシはその上で寝かされていたことに目覚めて気づく。

 昨夜はアルラウネの族長に捕まってからの記憶が曖昧で、途中でアルラウネやエルフも大勢混じって、色々と可愛がりを受けた気がする。

 口移しで甘い何かを飲まされるついでに舌まで入れられたり、花の香りをかがされて夢の世界に旅立ったりと、それはもう酷い有様だった。

 詳しく思い出そうとすると全身にゾクゾクと痺れが走って自然に内股になるので、絶対に忘れたほうが良いのだろう。


 取りあえず身を起こして体に異常がないかあちこちに手を当てて確認する。お腹も空いてないし、お風呂に入った記憶はないが髪も肌も汚れはない。

 それにいつものTシャツとGパンではなく、エルフの衣装に着替えさせられていた。


「あっ、でもメガネがないや」

「ふむ、沙紀の言っているメガネとは、これのことか?」


 すぐ近くに居たらしい親切な人にお礼を言ってメガネケースを受け取り、中身を耳にかけて改めて確認する。


「多分これだよ。ありがとう」

「なに、気にすることはない」


 彼女はアルラウネの族長と似ていたが二本の足があった。それ以外に異なるのは茶色の髪と、自らの裸体を隠すための服を着ておらずに枝葉で申し訳程度に覆っていることだ。

 アタシは彼女が三種族の最後の一人、ドリアードの族長だと考えた。


「確かに沙紀の思う通り、私がドリアードの族長だ」

「あっ…はぁ、これはどうも。おはようございます」


 取りあえず頭を軽く下げて挨拶を行うと、ドリアードはおかしそうに笑ってアタシに言葉を返す。


「ふふっ、もう昼過ぎだぞ。だが昨日は明け方まで宴で騒いでいたからな。

 私たちドリアードも混ざらせてもらったが、覚えていないのか?」

「あー…それは何と言うか」


 記憶が混濁しているが中途半端に覚えてはいる。しかし明け方までぶっ続けとは、皆はそれだけ楽しかったのだろう。

 三種族の隠れ里に招かれた人間が相当珍しいのかも知れない。


「はぁ…全く、だからエルフの果実酒は沙紀にはまだ早いと言ったのだ。

 アルラウネの花の蜜にしておけば、明け方まで楽しめたものを」


 と言うことは、口移しで飲まされたのは果実酒だったらしい。十五歳でアルコールハラスメントを受けるとは思わなかった。

 しかも舌まで入れられたので、セクシャルハラスメントの同時攻撃に頭が痛くなってくる。


「大丈夫か? これでも飲んで落ち着くといい」

「あいたた…あっ、ありがとう」


 比喩ではなく本当に頭痛がするので、アルコールを飲まされた影響がまだ残っているらしい。ドリアードから受け取った木製のコップに溜まった水を、ゆっくりと口に運ぶ。

 舌で少しずつ味わうように飲むと、何かの果汁が入った天然水のような爽やかな甘味が、口に広がる。


「…美味しい」

「ふふっ、気に入ってくれて良かった。

 自然豊かの森から湧き出る水に、私の本体に成った実を溶かし込んだ特別な果実水だ」


 目の前でこちらを微笑ましく見守るドリアードの本体とは、もしかしてすぐ近くの大樹のことだろうか。

 わざわざ酔い覚ましに果実水を作ってくれたので、彼女は良い人だなと思った。


 そのまましばらく喉を潤していると、ドリアードが再びアタシに声をかけてきた。


「今夜もまた宴が開かれるだろうが、次は私が沙紀を守ってやろう」

「ありがとう。ドリアード」

「礼はいらん。私や皆も沙紀と一緒に宴を最後まで楽しみたいだけだ」


 果実水を飲んだことで頭も大分スッキリとしてきた。中身が空っぽになったのでドリアードに木製のコップを返すと、もう一杯どうだ? …と聞かれたが、丁寧にお断りする。

 アタシは体を伸ばして凝りをほぐしながら、自然豊かな隠れ里の空気を控え目な胸いっぱいに吸い込んだあとに大きく息を吐く。


「イギリス政府との交渉が終わるまで、よろしく頼むね」

「ああ、任せておけ」


 自信満々に言ってのける族長が手を差し出してきたので、アタシも伸ばして友好の握手を行う。

 手を離したあとにすぐ近くの彼女の本体に向かって歩き、よっこいしょ…と腰をおろして背中をもたれかける。

 そのまま周囲に観察すると族長の本体ほどではないが、あちこちに大樹が生えていたので、あれが全て他のドリアードなんだろうなと、ぼんやりと考える。


「今日中に宝玉が戻ったら、宴の前にお別れになるんだよね」


 ふとそんな考えが頭をよぎったので自然に口から出てくる。そう考えるとあまりにも早い別れに、少し寂しく感じてしまう。


「それはないだろう。むしろ沙紀は一生、私たちの隠れ里で暮らす可能性のほうが高いぞ」

「……えっ?」


 宝玉を最奥部に返して森に立ち入らないと約束させれば、アタシは自由になれるのではないのか。彼女たちが約束を違えるとは思えないが、緊張気味に次の言葉を待つ。


「奴隷にした人間たちの思考を読んでわかったのだが、イギリス政府はどうしても宝玉を返したくないらしい」


 歴史的価値がとても高い宝玉なので手元に置いておきたい気持ちもわからなくもない。だがアタシや調査団の命よりも重いのだろうか。


「沙紀が私たちの隠れ里に居る間は、これ以上の森の拡大はない。

 その間に外交団を派遣して人質を取り返し、さらに宝玉を手元に置く策を練るつもりなのだろう」


 心が読まれているのならそれに沿った作戦を立てるだろう。騙し討ちが通用しないので誠心誠意の外交団になる。

 こっちは隠れ里の入り口を閉じてしまえば人間たちは入って来れないのだ。人質の救出は失敗となる。

 そう考えると交渉は一歩前進はしたが、解決まではまだまだ時間がかかりそうだ。


「外交団かぁ。三種族の望みはわかってるけど、人間側は何を要求するんだろう?」

「魔の森の拡大の即刻停止、人質の解放、宝玉の返還拒否、森の立ち入りと遺跡の調査の許可。

 …こんなところだろう」


 それは三種族連合の無条件降伏に等しい。隠れ里に手を出さないのは彼女たちの力を恐れているからであり、支配下に置ける機会があれば遠慮なしに踏み込んでくる。


「それで、どうするつもりなの?」

「少し前は憤慨したが、今は一つを除いて受け入れてもいい。

 それが私たち三種族の総意でもある」


 彼女の言葉を聞いて意外だと思った。いくら人間と親しく付き合いたいと考えていても、一方的な要求を飲む関係ではすぐに不満が爆発する。

 それが三種族揃って殆どを受け入れてもいいと考えているのだ。


「私たちは沙紀が残ってくれれば、他の人間は必要ないとわかった。

 大多数が帰りたくないと言い出すだろうが、それでも全員無事に帰すつもりだ。

 なので人質の解放だけは無条件に飲むわけにはいかないんだ」


 酔いは覚めたはずなのにまた頭が痛くなってきた。つまり三種族はイギリス政府の要求を飲む気代わりに、是が非でもアタシを確保するつもりらしい。

 自分の隣に座っているドリアードは晴れやかな笑顔を浮かべているが、今の会話の何処に爽やかさがあるのだろうか。


「とにかく私たちは今まで通りに隠れ里に引き篭もり、ひっそりと暮らしていく。

 そのときはよろしく頼む」

「待って」

「隠れ里も私たちも、沙紀を歓迎しよう」

「だから待って」


 アタシはインドア派だが、別に隠れ里に引き篭もりたいわけではない。人間界の森久保家で気楽にゴロゴロしたいのだ。

 確かに皆の好意は嬉しいが自分にはこの場所に骨を埋める気はない。数日か長くても一週間ほどで、皆が迎えに来てくれると信じている。

 そこに帰りのハシゴを外すような真似をされては困ってしまう。


「大体アタシは人間だから、皆より早く死ぬよ」

「隠れ里で暮らしていれば、人の身でも私たち妖精に近くなっていく。何の問題はない」


 あの世の物を食べると自分も亡者になるとか、そんな話だろうか。慌てて体のあちこちを触って変化がないか確認する。

 するとドリアードが、急に変わるわけではなく何ヶ月もかかり、見た目の変化は殆どなく、人間界に帰れば自然に薄まる…と、優しく語りかけるように教えてくれた。


「沙紀は隠れ里で暮らすのは嫌か?」

「そんなことないよ。皆はアタシに優しくしてくれるから、一緒に暮らすのも楽しいと思うけど」

「けど、…何だ?」


 まだ少ししか触れ合っていない。それでも、少し愛が重いが悪い妖精たちではない。人間奴隷が帰りたくないと言い出すのも、捕らえた彼らを大切に扱っているからだろう。


「エルザ、真理子、ポーラ、ミズチの四人が、今もアタシのために頑張ってくれてるんだよ。

 やっぱり友達を裏切ることなんて出来ないよ」

「そうか。その者たちより早く沙紀と出会いたかったものだ」


 そもそもアタシは日本人なので、イギリスまで行く機会は殆どないと言ってもいい。しかしまあ、そこに突っ込むのは野暮だろう。

 自分の性格は今も昔も全然変わらないので彼女たちと先に出会っても、きっと仲の良い友達になれたはずだ。


「ドリアードたちも今は友達だからね。…多分」

「ふふっ、それは嬉しいな」


 多分と言ったのは、彼女がアタシとの友達関係を嫌がった場合に誤魔化しやすくするためだ。しかしその心配はなかったようで、本当に嬉しそうに顔をほろこばせている。

 そこでふと思いついたことがあったので、隣のドリアードに質問する。


「ところで人間奴隷なんだけど、彼らとはお友達にはならないの?

 外の世界に帰りたがらないなら、改心したんだよね?」

「あれは制約で縛って飴をやっただけだ。

 その甘美な飴は、私たち三種族しか与えられない」


 つまりドリアードたちと打ち解けているわけではなく、ご褒美目当てで友好的に接しているのだ。意味合いが多少異なるが、金の切れ目が縁の切れ目と言ったところだろう。

 体は許しても心までは許していなければ、いつ裏切るかわかったものではない。妖精付き合いはなかなか難しい。

 アタシがそんなことを考えていると、ドリアードが自分にそっと身を寄せてきた。


「その飴だが、沙紀も少し舐めてみたくはないか?」

「えっ? いや、アタシは別にいいよ」

「遠慮することはない。友達としてたっぷり可愛がってやるからな」

「あっ…ちょっ! ……にょわ!?」


 艶っぽい微笑みを浮かべて優しく語りかけるドリアードが、いきなりアタシを押し倒した。…かと思ったら、もたれていたはずの背中の大樹が突然消えた。

 正確にはそうではなく、自分の後ろに大穴が開いてそこに飲み込まれたのだ。


 謎の浮遊感に身を任せながら、さり気なく抱きついて唇を奪ってくる彼女を見て、ブルータス、お前もか…と、何処ぞの独裁官のような気持ちを味わわされながら、徐々に意識が遠ざかっていくのだった。

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