大樹の洞の中で
目が覚めたアタシはまずは冷静に現状を確認する。確か大樹の中に飲み込まれたはずだ。周囲は光苔が群生していおり明るく照らされ、湿度は高めで快適な気温に保たれている。
出入り口は見当たらないので完全に大樹の洞に閉じ込められた形だ。幸いと言っていいのか、内部はかなり広々としていて天井の高さは三階建てのビルほどもある。
「まあどれだけ広くても、アタシが一歩も動けないから意味ないんだけど」
今の自分の下半身は地面から伸びてきた枝葉が絡まり、痛くはないが両足が動かなくなっている。大きく溜息を吐いて、ここに飲み込んだ張本人であるドリアードを探す。
出来る範囲で体を捻って見回したが、何処にも見つからない。
「私を探しているのか?」
その声と同時に突然目の前から一本の木が生えて凄まじい速度で成長し、大人の身長ほどまであっという間に育つと、先ほどまで一緒に居たドリアードの姿へと変化する。
だがそんな彼女が、前回と異なる点が一つあった。
「まっ…前ぐらい隠してよ!」
「これからする行為に服は必要ない。
それとも沙紀はお互い着た状態でするほうが好みか?」
「それは、どっ…どうなんだろうね」
多分アレのことだろうが未経験なのでわからない。と言うか、自分の好みのシチュエーションに関しては考えたこともなかった。
豊かな実りを象徴する二つのモノを揺らしながら、優し気な微笑みで近づいてくるドリアードに思わず身を強張らせる。
自分に百合の花を咲かせる趣味はないので、ここははっきりとお断りさせてもらう。
「あっ…あの!」
「沙紀にそちらの趣味がないのはわかっている」
「そっか。…良かったよ」
「なので今回は、私が男性になろう」
何故アタシを拘束してドリアードは全裸の状態で居るのか。もっと良く考えるべきだった。
彼女の宣言と同時に突然ニョキニョキ生えてきたご立派様は、既に臨戦態勢を取っていた。
「うわ、…でっかい」
「そんなにジロジロと見ないでくれるか。沙紀に見られると、その…照れる」
それを見たのは初めてだったので、驚きのあまりつい声を漏らしてしまった。そんな新鮮な反応に照れ臭そうに頬を染めるドリアードだが、すぐにアタシは冷静に戻って彼女を静止する。
「待って! だから待って! アタシはそんなの望んでないから!」
「すまない。私のほうが我慢できそうにない。
ドリアードの樹液を分泌するので、痛みは消えて快感が増幅する。安心して受け入れてくれ」
別に白馬の王子様との出会いを夢見てはいないが、やっぱり初めては自分が望んだ相手とやりたいものだ。ドリアードのことも別に嫌ってはいないが、これは違うと思う。
そんなアタシの恥も外聞もなく慌てふためく様子が非常にそそるらしく、本気で我慢できなくなった彼女は、一部分の拘束を解くと器用に服を脱がし始める。
非力なアタシは両手でヨイショ…ヨイショ…っと、押して引き剥がそうとするが、やはりドリアードには何の効果もない。
「そう言う問題じゃないからね! 大体そんな大きいのが入るわけないでしょうが!
アタシはまだ十五で生娘なんだんよ!」
「それは若いな。しかも初めてか。ますます滾ってきたな」
やること成すことの全てが逆効果になって彼女を喜ばせ、このままでは本当に不味いことになると背筋が寒くなる。
どうしても視界にちらつくので、ドリアードのモノがますます大きくそそり立っているのがわかってしまった。
あんなのを突き立てられたら、アタシは壊れてしまいそうだ。
「大丈夫だ。すぐに終わらせるので沙紀に負担はかけない」
「それ絶対すぐに終わらなくて、こっちが死ぬほどキツいやつだよ!
アタシは詳しいんだからね!」
歯医者でも痛くて手をあげたが、もう少しで終わるから我慢してねー…と、軽く流されてしまう。その後数分間も歯を削る音と苦痛が続いたので、ドリアードの言葉は信用できない。
しかも今回は痛みではなく快感を倍増とか、初めてでそれをやられるとアタシの意識が吹っ飛ぶのは間違いない。絶対にヤバいことになる。
「ふふっ、沙紀は可愛いな」
アタシの上から下まで脱がし終わったドリアードがこちらの腰に両手を回して、そっと抱き締める。耳元で可愛いと褒めてくれるが、自分の顔は最初から真っ赤なままだ。
「うう…まさか、こんな形で初めてを失うことになるなんて」
「すまない。もしどうしても嫌なら…」
人生初の開通式をこんなところで行うとは思わなかった。ドリアードは辛そうな顔をして、どうしても嫌なら止めると口に出そうとしているが、アタシは観念したかのように途中で口を挟む。
「別にいいよ。ドリアードとは友達だし。
たとえ無理やりされても、アタシのことを大切に思ってくれてるのは事実だから、嫌いにはならないよ」
ただ最後に気になったのが、森久保除霊事務所のメンバーだ。彼女たちにはどう言い訳したものか。
やったからには責任を取ってもらう流れになるが、人間と妖精の結婚式とかどうやるんだろうか。
その辺りは長生きしているミズチに聞いてみるしかない。
元々三種族は今まで隠れ里に籠もりっきりだったので、食う寝るヤるぐらいしかすることがなかったのだ。
そして自分も気づかないうちに、毎日の過度なスキンシップによって貞操観念の壁が脆く崩れやすくなっていた。
それがドリアードという種族なりの友達の愛し方あり、どう足掻いても逃げられないのであれば、もう諦めて楽しむしかないよね…と、そう思えるほどに女性と体を重ねることに抵抗がなくなってしまっていた。
「やっ…優しくしてよね」
「ああ、もちろんだ。沙紀、好きだ。愛してる」
ここまで来ちゃったし仕方ないか…と小声で囁き、全てを受け入れる。彼女が互いの愛を確かめるために、柔らかな唇を近づける。
だがそこで自分の体が勝手に動いて、両手でドリアードをあっさりと押し退ける。
(えっ…? …は?)
「沙紀の初めてには万金の価値がありますのよ。
申し訳ありませんけど貴女には渡せませんわね」
ドリアードもすっかりその気になって油断していたのか、エルザが乗り移ることで身体強化されたアタシは根本の拘束を引きちぎって跳躍した。
そのまま背後に飛びながら、右手に霊力を集めて大樹の壁を思いっきり殴り、外へと通じる大穴を開ける。
「どうやら、ギリギリ間に合ったようですわね」
(エルザ、いつ戻ってきたの?)
「今さっきですわ。交渉をまとめて宝玉も戻しましので、これで日本に帰れますわよ」
空を飛んで大樹の洞から脱出したアタシは確かにこれで日本に帰れるのだが、ある心残りを感じていた。
エルフ、アルラウネ、ドリアードと、たった一日でも心を通じ合わせた。その結果襲われたのだが、愛が重いのは森久保除霊事務所のメンバーも変わらない。
(あのさ、エルザ)
「今は心が繋がっていますし、口に出す必要はありませんわよ。
そちらに関しても悪いようにはしませんわ。
何より沙紀のお願いですものね」
アタシは心の中でエルザにお礼を言い、隠れ里を空から見下ろす。入り口には真理子、ポーラ、ミズチ、そしてエルフとアルラウネの族長が集まっていた。
彼女たちが何を話しているのかわからないが、皆の表情は明るい。
日本と三種族の隠れ里を繋げるのはいいが、その前にGB日本支部に許可を求めたり、ドリアードの族長が強引に迫り、いいところでお預けをしてしまった。
そのことをどうやって説明し、謝罪したものかと、アタシは大いに頭を悩ませるのだった。




