表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/46

森久保除霊事務所

 同居人として真理子が森久保家に住み着いてから、一週間が経った。最初は殆ど着の身着のままで引っ越してきた彼女だが、霊能力者としてはやはり優秀だった。

 GBの公式サイトにアクセスする手段を持っていなかったので、アタシがノートパソコンの使い方を教えると、適当な依頼を選んでその日の内に仕事を終わらせ、きちんと家賃を支払ってくれた。




 そして今日は予報が雨なのもあり、実体化したエルザも合わせて三人で、居間のちゃぶ台を囲み、家から持ってきた古いゲーム機をテレビに接続して楽しく遊んでいた。

 画面の向こうのアタシは次の駅を目指してサイコロを振り、列車を移動させる。現実世界ではちゃぶ台の上に置かれた醤油煎餅を齧って、一緒に遊んでいる真理子に声をかける。


「それで真理子は、いつ自分のGB事務所を開設するの?」

「どういうことですか?」

「いや、今はアタシのホームページを経由して依頼をこなしてるし、最近は一緒に付いて来るでしょう?」


 彼女は友人であり森久保家に同居しているが、それは一時的なもので真理子は寺下家の次期当主だ。いつかは独り立ちする。

 雨の日は濡れるから外に行きたくないという理由で、今日は家でゴロゴロして引きこもる、怠惰なGBに付き合う必要はない。


「あっ、やったー! 六が出ました! …と、独立するつもりはありませんが、駄目ですか?」

「別に駄目じゃないよ。アタシも中卒でGBなんてやってるし、まあ人生色々あるしね」


 真理子は義務教育を受けていない。専属の家庭教師が付いていたらしいが、少し前までは修行漬けの毎日だったのだ。しばらくのんびりするのもいいだろう。

 そんな二人の会話に、エルザが列車を進めながら割り込んでくる。


「この駅の物件は、私が買い占めますわよ。

 しかし沙紀の依頼にまで同行するのは、少しどうかと思いますわよ?」

「沙紀は、私が付いて来るのは迷惑ですか?」

「あー…いや、同行に不満はないよ。一人より二人のほうは安全だし」


 命の危険がある仕事なので真理子の同行はありがたい。もっとも、こちらに向かってきてもエルザが一撃で祓ってしまうので、今の所は危なくなったことはない。

 だがこの先はどうなるかわからない。難易度の高い依頼を受ければ、今まで通りにはいかなくなるかも知れないのだ。


「一時的でも協力体制を取るなら、事務所はアタシの名前のままじゃなぁ」


 現在はGBの公式ページのアタシの事務所はデフォルト設定のまま、自分の名前が表示されている。頭を捻って考えるのが面倒なので、その辺りの何とも緩い感じがアタシらしいとも言える。


「体はアタシだけど実際にはエルザが動かしてるし、さらに真理子も加わるとなると、三人の事務所になるね」


 アタシもちゃぶ台の醤油煎餅に手を伸ばし、一つ掴んで口に運ぶ。齧りながら考えても良い名前は浮かばず再びテレビゲームに戻ると、おもむろに真理子が声をあげる。


「あの、森久保除霊事務所はどうでしょうか?」

「んー…真理子もエルザも入ってないけど、いいの?」

「はい、私は構いません」

「私も意義はありませんわ」


 二人共賛成したので、アタシは一旦コントローラーを置いてノートパソコンを起動する。そしてGBの公式サイトを開いて、自分の名前から森久保除霊事務所に変更をする。

 さっさと済ませてテレビゲームに集中するべく、事務所の画面を閉じようとしたとき、指名依頼の項目に新着ありと表示されていることに気づいた。


「あっ…指名依頼が入ってる」

「うふふっ、私たちも有名になりましたわね」

「沙紀、それでどんな依頼なんですか?」


 アタシは指名依頼をクリックして詳細を確認する。依頼主はパチンコ店の除霊のときの社長だ。

 彼と初めて会ったときの信用度は半信半疑だったが、思いの外すんなりと除霊出来たので結果的には大喜びだった。

 お互いの活動範囲が近いせいか、あれからも何度か顔を合わせる機会があったが、社長の依頼はどれも問題なくこなせているので、悪くない関係だろう。


「山奥の古びたホテルの除霊だよ。

 他の霊能力者が何人も依頼を受けたけど、失敗して逃げ帰って来たんだって。

 これは成功報酬も難易度も今まで以上だね」


 徐々に上げるならまだしも、格段に難易度の高い仕事は断るつもりだった。しかしエルザと真理子は豊かな胸を張って自信たっぷりだ。自分たちなら大丈夫。受けるべきだ…と断言する。

 しばらく悩んだが、結局二人に押し切られるように、アタシは今回の依頼を受諾することに決めたのだった。







<魔女視点>

 ワタシは今年で五十歳になる魔女だ。そして見た目こそ子供だが、れっきとした大人の年齢だ。普通の人間の十分の一の遅さでゆっくりと成長しているため、いつまでも姿形が変わらないワタシは常に周囲の人間に気味悪がられていた。

 見た目は人間の子供の姿だが、すこぶる愛らしい容姿を持つせいもあり、人間たちから愛玩奴隷目的で狙われ続けた。その結果、世界各地を彷徨いながら孤独に生きてハメになった。

 肉体の成長と同じく知恵がつくのも遅いが、それでも魔法の才能はかなりのものなので、悪者からは上手く逃げ切れている。




 そして今は日本の山奥の古びた建物。その地下にひっそりと隠れ住んでいる。しかしこの場所も段々と人間たちが集まって来た。

 遠見の水晶で調べたところ、美女、または美少女の幽霊が現れると、そんな噂がまことしやかに囁かれているようだ。


 いつの間に撮影されたのか、侵入者を脅かすために幽霊に姿を変えたワタシの画像がインターネットに拡散され、イイネが大量に押されていた。

 画像で見ると、魔女のフードと三角帽子がよく似合っており、軽くウエーブのかかったセミロングの銀髪が、月の光を浴びて眩しく輝いているのがわかる。


 あのときは幻影魔法で体を透き通らせて幽霊っぽく装ったが、侵入者たちは逃げずに気色の悪い笑みを浮かべて、ジリジリと近寄って来た。

 なので無数の青白い手を召喚して摘みあげ、無理やり外に放り出した。


 今後もあんな連中が出てくるのならば、そろそろここも潮時だ。人間たちに捕まったらどんな酷い目に遭うかわからない。

 この間はとうとう霊能力者を送り込んできて、撃退するのは簡単だったが、一度では終わらずにかれこれ四度も追い出すことになってしまった。


 溜息を吐きながらそんなことを考えていると、荒れ放題の外の駐車場がにわかに騒がしくなる。

 この建物はワタシの拠点だ。数多くの魔法を常時展開しており、外部の様子を知るぐらい容易いことだ。


 そこに居たのはこの前霊能力者を送り込んできた男性とその部下、そして二人の女性だった。

 片方は未だかつて感じたことのない霊気をまとっており、これは不味いと一瞬で理解する。

 だがもう一人は全く霊気が殆ど漏れておらず、どう見ても一般人だ。


 何にせよこの場に隠れることに限界を感じて、次の住処を探すために自分の荷物を急いでまとめ始める。

 今すぐ逃げ出したところであの二人が排除目的なら、追跡してくる可能性が高い。どうにかして退け、その隙に逃走を図るのが確実だろう。




 ワタシは地下の隠し部屋に身を潜めて、機会を伺うことにした。すると、表で依頼人と打ち合わせを済ませた女性二人が建物に侵入し、魔女の結界内に足を踏み入れる。

 今しかないと判断し、あらかじめ仕込んであった上位魔法を素早く発動させる。


「ワタシの魔法からは逃げられない」


 今が使い時だと判断したので、壁や床、ホテル内のあらゆる場所から二人に向かって青白い手が一斉に伸びる。これが終わったら即逃走するので、出し惜しみはなしだ。

 巫女には避けらて迎撃されたが、もう一人のメガネをかけた女性は驚いて立ちすくんだままなので、容易に拘束できた。


「……にょわっ!?」

「沙紀! くっ…このっ! 邪魔です!」


 彼女も霊能力者だと思っていたのだが、巫女服の美女とは違ってまるで霊力を感じられない。すんなり霊気の抵抗を抜け、青白い手をスベスベのお腹に潜り込ませる。


「なっ…何! これ…何!? あひゃひゃやっ! 駄目っ! くっ…くすぐったいいぃ!」


 空いている腕で四肢を拘束して、彼女の全身を青白い手で四方八方からまさぐるが、なかなか見つからない。

 あまり時間をかけ過ぎると巫女が包囲を突破してしまうので、その前に終わらせるため、それぞれの指先での撫で回しを激しくする。

 そのたびに彼女はくすぐったそうに身悶えて抜け出そうをするが、そうはさせまいとさらに腕の本数を増やし、全身の探索効率をあげる。


「ん…見つけた」


 時間にして一分足らずだが、ワタシにとってはかなり長く感じた。ようやく彼女の魂を捕らえることに成功したので、傷つけないように青白い火の玉を慎重に取り出す。


「作戦完了。撤収」


 巫女に倒されてかなり数が減ったが、捕らえた魂をこちらに運ぶ一本以外は、侵入者を足止め及び外に摘み出すよう、残った全ての青白い手に命令する。


「エルザ! 貴女がついていながら!」

「沙紀の交代準備が整っていませんでしたのよ!

 暴れている状態で無理やり体を奪えば、拒絶反応で怪我をさせてしまいますわ!」


 魂を奪ったはず女性が平然と動いているが、普通は戻るまで意識が目覚めなくなるはずだ。そこでワタシは、守護霊や精霊を体に宿して戦う、霊能力者の存在を思い出した。

 とは言え、青白い手を全て倒してもその場から動かずに罵り合いを続ける二人に呆れ、ワタシは興味を失ったので、取りあえず放置することに決める。




 捕まえた彼女の魂を地下の隠し部屋に丁寧に運び込み、ワタシはそれを実験机に描いた魔法陣で固定する。さらに多重の結界の牢獄で囲んで、じっと観察した。

 青白い火の玉はユラユラと揺れるだけで、何処からどう見ても一般人だ霊魂だ。軽く探ってみても敵意はないようなので、それなら一体何をしに来たのかが少し気になる。


「…変なの。でも、とても興味深い」


 この女性を人質にして無事に返して欲しければワタシを見逃すようにと交渉する。その隙に安全な距離まで逃げる予定だった。

 だがその前に、少しぐらい遊んでもいいだろう。魂だけになった彼女は深く眠っている状態なため、魔法がとても効きやすい。


 よいしょっと、背もたれのついた椅子を持ち上げて、彼女の前まで引っ張ってくる。その上に小ぶりなお尻をちょこんと乗せて深く座る。

 そのまま魂の牢獄に両手をかざして、直接干渉を試みるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ