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白銀のヴァールハイト  作者: A86
3章 ユーバーファル
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第49話 地下へ……

 部屋のドアを次々と開け続ける。しかし、どの部屋にも人が眠っていた。開けては眠っている人を見つけ、開けては眠っている人を見つける。その繰り返しだ。最上階の部屋、トイレなどいたるところを探し回った。だが、どこにも起きている人はいない。一度、全員がロビーに集まった。


「起きている人、他にいた?」


「まだ見つけてない。そっちは?」


「全然だよ。ほんとにどうなってるの?」


 あと調べていない部屋は……ロビーの奥の部屋か……。この調子だと俺達以外は皆眠っているんじゃないだろうか……。そう思ってきた。


「まだ、ロビーの奥の部屋は調べてないよな……試してみるか?」


「うん」


 一同が頷く。カウンターを飛び越え、扉を開ける。

 ガチャ……

 中を覗くと古めかしい匂いが鼻についた。資料や本がたくさん本棚に置いてある。その中に……。


「チ、チャールズさん!」


 たくさんの本に囲まれてチャールズさんが倒れていた。眠って……いるのか?目は白目を向き、口からはヨダレが垂れている。明らかにおかしい状態なのに息はしていた。


「死んでるの?」


 シャーランがチャールズさんの様子を確かめる。


「……眠っているだけよ」


 しかし困ったな。このままだと本当に俺達以外は眠っていることになる。一人でも起きている人がいると思ったが……。

 俺は震えた。この状況に怖さがあるからだ。なぜ、人が突然死人のように眠っているんだろうか。なぜ、俺達は眠らないのか、と。

 嫌な予感がする。これから何か、邪悪なことが起きようとしているんじゃないか。そう、考えるのも恐ろしい何かが……。


「誰か……いるのか?」


「!」


「!!?」


 人の声だ!それも、かなり近い。しかも聞いたことのある声だ。


「……コンラッドさん!」


 クレアが声を荒げる。見ると、部屋の片隅にコンラッドさんがうずくまっていた。


「一体何があったんですか、教えてください!」


「分から……ないんだ。事務処理を行っていたら急に疲れて……疲れて、疲れきって……。気づいたら、チャールズさんは、もう……」


 言い終わると、まぶたが落ちそうになっていた。


「コンラッドさん!起きて!!」


 ミリーネがコンラッドさんをビンタする。見ているだけでもかなり痛そうだ。


「うう……はっ、僕は一体?」


 どうやら、目を覚ましたようだ。はぁ、これで起きている人が一人増えた。


「教えてくれ、僕は何をしていたんだ?」


「悪い夢を……見てたんですよ」


 俺はコンラッドさんに状況を全て説明をした。









◇◇◇


「じゃあ、僕はもう少しで他の皆と一緒に眠るところだったんだ……」


「それで今、他に起きている人がいないか探していたんですが、どうやらコンラッドさん以外いなさそうですね」


 俺はもう一度辺りを見回した。古めかしい匂い、そこに混じるコーヒーの香り、そして乱雑した本と資料の数々、その他に変化は存在しない。


「それよりどうしよう。騎士団の人達は眠っているし、ダニエル先生はまだ帰ってこないし……」


 アークの言う通り、騎士団の人達も眠ってるために、原因をつきとめることができない。俺達もまだそこは習ってないからどうすればいいのか分からない。

待てよ……ダニエル先生はこの状況を知らない。それに、先生達はこのホテルにいない。だったら……。


「ダニエル先生を追いかけよう。何か分かるかもしれない」


「どうして?」


「この現象はホテルの中でしか起きてないのかも。そしたら、ダニエル先生達はまだ地下道で調査をしているはずだ。……先生達ならこの状況を打開できるかもしれない」


「…………いや、無理だ」


 コンラッドさんが諦めたように言った。顔が少し沈んでいる。


「あそこにはヴァイス・トイフェルがいる。それに地下道は迷路だ。地図があっても迷ってしまう……。おとなしく待ってた方がいいと思う」


「それはどうかしら?先生は六時には戻ってくると言っていたけど、今は七時半。いくらなんでも遅すぎだと思うけど」


 シャーランの言葉に皆の視線が彼女に集まる。確かに遅いな……。何かあったのだろうか。


「つまりだ。結局は皆で確かめに行かないと。地下道の地図と皆それぞれ武器を持って行った方がいい。それでいいね?」


 誰も、反論はしなかった。ここに残るのは気味が悪くて嫌なんだろう。たぶん……。

 俺は部屋へと戻り、刀を身につけた。アークは相変わらず手ぶらのままだ。ヴァイス・トイフェルが襲ってきたらどうするんだ……?一方リアムは猟銃に短剣を二本も持っている。なんか、すごいな……。

 部屋を出てロビーに戻ると女子三人とコンラッドさんがすでに待っていた。クレアはいつの間にか拳銃を持っている。シャーランは……変わった形のした弓を持っていた。


「行こうか……」


 ホテルを出ると、辺りが暗くなった。夜風が吹く。……やっぱり寒い。

 街へ続く道を歩き続ける。皆、顔は決して明るくはなかった。まだ、今の状況を飲み込めないのだろう。俺だってそうだ。人が突然眠りにつく理由が今でも分からない。こういうのは専門が必要なんだけど今はいないし……。ダニエル先生に頼む以外、他はないのだ。


「着いた……」


 俺達はある場所……アランが死んだ場所へとたどり着いた。未だに赤い血が地面にこびりついている。マンホールが開いていた。やっぱり、この中に入っていったんだ。中から冷気を感じる。行くぞ……。

 俺達は、一人一人、ゆっくりと、先の見えない闇の中へ、入っていった。









◇◇◇


「おや、珍しいですね。この時間に地下道へ入る人がいるだなんて」


 とある一室の部屋、そこで一人の男がモニター越しでデューク達を見つめていた。


「残念ですが、騎士団と同様死んでもらいましょうか。ククク……」


 男はそう言うとボタンを押した。檻が開く音が別のモニターから聞こえる。

 シュー……シュー……

 白い霧を噴き出し、周りを凍らせる怪物が解き放たれた。一人の……男の手によって。

 サバイバルゲームが今……始まったのだ。

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