第49話 地下へ……
部屋のドアを次々と開け続ける。しかし、どの部屋にも人が眠っていた。開けては眠っている人を見つけ、開けては眠っている人を見つける。その繰り返しだ。最上階の部屋、トイレなどいたるところを探し回った。だが、どこにも起きている人はいない。一度、全員がロビーに集まった。
「起きている人、他にいた?」
「まだ見つけてない。そっちは?」
「全然だよ。ほんとにどうなってるの?」
あと調べていない部屋は……ロビーの奥の部屋か……。この調子だと俺達以外は皆眠っているんじゃないだろうか……。そう思ってきた。
「まだ、ロビーの奥の部屋は調べてないよな……試してみるか?」
「うん」
一同が頷く。カウンターを飛び越え、扉を開ける。
ガチャ……
中を覗くと古めかしい匂いが鼻についた。資料や本がたくさん本棚に置いてある。その中に……。
「チ、チャールズさん!」
たくさんの本に囲まれてチャールズさんが倒れていた。眠って……いるのか?目は白目を向き、口からはヨダレが垂れている。明らかにおかしい状態なのに息はしていた。
「死んでるの?」
シャーランがチャールズさんの様子を確かめる。
「……眠っているだけよ」
しかし困ったな。このままだと本当に俺達以外は眠っていることになる。一人でも起きている人がいると思ったが……。
俺は震えた。この状況に怖さがあるからだ。なぜ、人が突然死人のように眠っているんだろうか。なぜ、俺達は眠らないのか、と。
嫌な予感がする。これから何か、邪悪なことが起きようとしているんじゃないか。そう、考えるのも恐ろしい何かが……。
「誰か……いるのか?」
「!」
「!!?」
人の声だ!それも、かなり近い。しかも聞いたことのある声だ。
「……コンラッドさん!」
クレアが声を荒げる。見ると、部屋の片隅にコンラッドさんがうずくまっていた。
「一体何があったんですか、教えてください!」
「分から……ないんだ。事務処理を行っていたら急に疲れて……疲れて、疲れきって……。気づいたら、チャールズさんは、もう……」
言い終わると、まぶたが落ちそうになっていた。
「コンラッドさん!起きて!!」
ミリーネがコンラッドさんをビンタする。見ているだけでもかなり痛そうだ。
「うう……はっ、僕は一体?」
どうやら、目を覚ましたようだ。はぁ、これで起きている人が一人増えた。
「教えてくれ、僕は何をしていたんだ?」
「悪い夢を……見てたんですよ」
俺はコンラッドさんに状況を全て説明をした。
◇◇◇
「じゃあ、僕はもう少しで他の皆と一緒に眠るところだったんだ……」
「それで今、他に起きている人がいないか探していたんですが、どうやらコンラッドさん以外いなさそうですね」
俺はもう一度辺りを見回した。古めかしい匂い、そこに混じるコーヒーの香り、そして乱雑した本と資料の数々、その他に変化は存在しない。
「それよりどうしよう。騎士団の人達は眠っているし、ダニエル先生はまだ帰ってこないし……」
アークの言う通り、騎士団の人達も眠ってるために、原因をつきとめることができない。俺達もまだそこは習ってないからどうすればいいのか分からない。
待てよ……ダニエル先生はこの状況を知らない。それに、先生達はこのホテルにいない。だったら……。
「ダニエル先生を追いかけよう。何か分かるかもしれない」
「どうして?」
「この現象はホテルの中でしか起きてないのかも。そしたら、ダニエル先生達はまだ地下道で調査をしているはずだ。……先生達ならこの状況を打開できるかもしれない」
「…………いや、無理だ」
コンラッドさんが諦めたように言った。顔が少し沈んでいる。
「あそこにはヴァイス・トイフェルがいる。それに地下道は迷路だ。地図があっても迷ってしまう……。おとなしく待ってた方がいいと思う」
「それはどうかしら?先生は六時には戻ってくると言っていたけど、今は七時半。いくらなんでも遅すぎだと思うけど」
シャーランの言葉に皆の視線が彼女に集まる。確かに遅いな……。何かあったのだろうか。
「つまりだ。結局は皆で確かめに行かないと。地下道の地図と皆それぞれ武器を持って行った方がいい。それでいいね?」
誰も、反論はしなかった。ここに残るのは気味が悪くて嫌なんだろう。たぶん……。
俺は部屋へと戻り、刀を身につけた。アークは相変わらず手ぶらのままだ。ヴァイス・トイフェルが襲ってきたらどうするんだ……?一方リアムは猟銃に短剣を二本も持っている。なんか、すごいな……。
部屋を出てロビーに戻ると女子三人とコンラッドさんがすでに待っていた。クレアはいつの間にか拳銃を持っている。シャーランは……変わった形のした弓を持っていた。
「行こうか……」
ホテルを出ると、辺りが暗くなった。夜風が吹く。……やっぱり寒い。
街へ続く道を歩き続ける。皆、顔は決して明るくはなかった。まだ、今の状況を飲み込めないのだろう。俺だってそうだ。人が突然眠りにつく理由が今でも分からない。こういうのは専門が必要なんだけど今はいないし……。ダニエル先生に頼む以外、他はないのだ。
「着いた……」
俺達はある場所……アランが死んだ場所へとたどり着いた。未だに赤い血が地面にこびりついている。マンホールが開いていた。やっぱり、この中に入っていったんだ。中から冷気を感じる。行くぞ……。
俺達は、一人一人、ゆっくりと、先の見えない闇の中へ、入っていった。
◇◇◇
「おや、珍しいですね。この時間に地下道へ入る人がいるだなんて」
とある一室の部屋、そこで一人の男がモニター越しでデューク達を見つめていた。
「残念ですが、騎士団と同様死んでもらいましょうか。ククク……」
男はそう言うとボタンを押した。檻が開く音が別のモニターから聞こえる。
シュー……シュー……
白い霧を噴き出し、周りを凍らせる怪物が解き放たれた。一人の……男の手によって。
サバイバルゲームが今……始まったのだ。




