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視界に入るなと言われた闇魔法使いの花嫁は、隠れて瘴気を浄化した結果、改心した辺境伯から溺愛される  作者: 水路


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8/8

8.出戻りからの出戻り

 

 一年、婚姻を続けることができれば、その後は行き倒れるなり野垂れ死ぬなり好きにするが良いと、父からは言われていたけれども、帰還命令が出たので実家へと戻った。


 なんでも、私がフレドリック様から一年で離縁される宣言をされたことを従者から聞いたお父様は、南の辺境伯へ売り込みをかけていて、その話がまとまったらしい。

 なんで辺境ばかり? とは思うものの、父には逆らえないので、日どりが決まるまでは薄暗い半地下での生活へ逆戻りだ。


 久しぶりの固いパンと実のないスープに、早くも北の辺境での三食おやつ付きの生活が懐かしくなってきた。


 南の辺境は暑いのだろうか。食虫植物の魔物や、大きい虫の魔物がいそうだ。文通相手の祈祷師に今度手紙で聞いてみよう。

 南の辺境では雪は降らないだろう。きっとその方がいい、雪が降ったら思い出してしまうから。


◇◇◇


 半地下での退屈な日々を過ごしていると、お父様が物音を立ててやって来た。


「サラ、お前、北の辺境伯と離縁できていないではないか!」

「え?」


 お父様から書類を見せられる。たしかに書かれていることを読むと、私とフレドリック様の離縁は成立していないようだ。

 なぜ離縁されていないのだろうか。私が去ったらすぐに神殿に届けを出されると思っていたのに。 


「どういうことだ!?」


 どういうことと言われても、私の方が聞きたいぐらいだ。そう思っていると、何やら外が騒がしくなり、半地下の部屋の扉を足で蹴破ったフレドリック様が、大量の薔薇を抱えてあらわれた。


「フレドリック様!?」


 何故ここにフレドリック様が? 一体これはどういう状況なのだろうか。突然のことに驚いていると、フレドリック様はそのまま部屋の中へと入ってこられた。背が高いので、半地下の低い天井へ頭が届きそうだ。


「……あなたが、こういうシチュエーションが好きだからと、ロキが言うので」


 そう言って薔薇の花束を渡されたので、思わず受け取ってしまった。綺麗な赤い薔薇の花束。頬が赤くなる。


 フレドリック様の後ろではロキが手を振っている。

 違うのロキ、赤い薔薇の花束はハンナの理想のプロポーズよ! 私はもっとおとなしめが好みなの……でも、薔薇の花束を抱えたフレドリック様はとても素敵だったので、これはこれでアリだわ。


 いやいや、私はこれから南の辺境へと嫁ぐ身、ここはしっかりとお伝えしなければ。


「こ、困りますわ、このあと南の辺境伯へ嫁ぐ予定ですので、早く離縁していただかないと」

「南の辺境の次の当主はまだ三歳だ」


 なんですって? お父様、もう少し相手を選んでください。


「……愛があれば歳の差なんて」

「さすがに無理があるだろう」


 そう言うと、フレドリック様は片膝をついて私の手を取られた。

 これはもしや、私もハンナも憧れのシチュエーション、騎士の忠誠の誓いでのプロポーズではなかろうか。


「夜会では申し訳ないことをした。決して怒っていた訳ではないんだ。あの時言いたかったのは、結婚式の日にあんな酷いことを言って、あなたを傷つけた俺のために、ボロボロになってまで黄金竜を倒す必要も、髪の色を変える必要も無かったと伝えたかった」

「フレドリック様……」


 フレドリック様の美しいアイスブルーの瞳が私を見つめる。


「サラ、あなたを傷つけてしまい本当に申し訳なかった。こんな愚かな男を許してくれとは言わない。一生をかけて償わせて欲しい。お願いだ、どうかもう一度、妻として俺の元へ戻ってくれないだろうか」


 真剣な表情のフレドリック様。恋愛ポンコツのこの方が、私のためにここまでやって来て、私のためにプロポーズをしてくれているのだ。答えはもう決まっている。


「はい、フレドリック様」


 返事を聞いたフレドリック様は、ホッとしたように柔らかく微笑まれた。ああ、やっぱりこの表情が大好きだ。


「サラ様、即答しないでもっと焦らしてよかったのに」

「ロキ、余計なことを言うな」


「何を言っているのだ! 娘は南の辺境伯へ嫁ぐことが決まっているのだ。早く離縁状に署名をしてもらわないと困る!」


 いい場面なのにお父様が水を差してくる。きっと南の辺境伯から金銭でも受け取っているのだろう。


「いいや、妻は返してもらう。そして妻をこんな半地下に置いて冷遇していたグラナデス家とは縁を切る」


 フレドリック様は立ち上がると、私の腰を抱いて父に告げた。

 腰に手! 距離が近い! 思わず見上げると、フレドリック様と目が合った。


「安心してくれ、こういうことは得意だ」


 にっこりと笑うフレドリック様。得意とはどういう意味だろう? 確かロキが以前、色恋以外は有能な方と言っていたけれど。

 

「勝手なことを言うな、辺境の若造が! そんなことは我がグラナデス家も王家も許さんぞ」

「許してもらう必要はない。今後、アルバスタイン辺境伯家は、王国を離れて隣国へと付く」

「な、何を馬鹿なことを!」

「馬鹿なこと? 最初にアルバスタイン家を馬鹿にしたのは、グラナデス家と王家だったではないか」


 それだけを言うとフレドリック様は、その日のうちに私を連れて北の辺境へと戻られた。


 戻ってからの動きは速かった。

 あっという間に、辺境のアルバスタイン領を隣国へと編入させる手続きを済ませられた。色恋以外は本当に有能なお方なのだ。


 王国は、辺境の戦力が一気になくなり大きなダメージを受けた。

 グラナデス家はその責任を取らされ魔獣討伐を命じられた。いまは親子三人で、慣れない魔獣の討伐をして暮らしているらしい。


 もちろん、アンジェリカお姉様と第二王子の婚姻は破談となった。王家は伯爵家に責任を押しつけて保身を図ったのだろうが、辺境で長年国を守ってきたアルバスタイン家が隣国へ移ってしまったのだ、いつまで国が保つのかもあやしい。


 私は辺境伯家の本邸に女主人として迎え入れられた。

 最初の頃は、黒髪や闇魔法を怖れられたけれど、泉を綺麗にしたり、負傷兵の瘴気を払った実績を認められて、今では辺境の黒髪の聖女と言われている。


 フレドリック様はあの後も何度も謝ってくれた。そして、ことあるごとに私の黒髪を褒めてくれる。


「サラ、あなたの美しい黒髪に触れてもいいだろうか?」


 黄金竜を倒してまで私が髪の色を変えたことがトラウマになっているのか、隙あらば私の髪を触ろうとしてくる。


「そう言いながらもう触られていますし、ちょっと、顔を埋めてくるのはやめてください!」


 フレドリック様は、ご自身が恋愛に関してはポンコツであることを素直に認められて、ロキやハンナに頭を下げて色々と学ばれている。

 もともと色恋以外の能力は高いお方だったためか、もの凄いスピードで恋愛のあれこれを学習されて、私をメロメロにしてくる。

 ハンナから恋愛小説を借りて学習するのは構わないのだけど、お金持ちのスパダリがヒロインを溺愛する内容ばかりで少し困る。


「ハンナ、フレドリック様にもう少し違うジャンルの本もお借ししてくれないかしら? 実戦してくださる内容が偏っている気がするの……毎日のように高価な宝石やドレスを贈ってこられるのよ」

「何を言われるのですかサラ様。有能でイケメンな若き辺境伯であるフレドリック様に溺愛されるのは、サラ様の大切なお役目です。それに、毎日ドレスや宝石を贈るだけの財力も、アルバスタイン家にはございます!」


……これは、当分この路線が続きそうだ。


 本邸に移り住んでからは、ハンナに代わってフレドリック様が、私にごはんをいっぱい食べさせようとしてくる。

 恋愛小説でお約束の、「はい、あーん」もやっている。さすがに食事の度にフレドリック様から食べさせられるのは、恥ずかしすぎるのでやめてもらったが、妥協案としておやつは食べさせてもらっている。


 そんなある日のお茶の時間。

 ティールームでフレドリック様の膝の上に座り、目の前にさし出されるクッキーを頬張っていた。

 膝の上に座るのも、ハンナの恋愛小説に書かれていたらしい。最初は恥ずかしくてお菓子が喉を通らなかったが、今では慣れて、何でも美味しくいただけるようになった。慣れって怖い。

 膝の上から見る至近距離でのフレドリック様のお顔は、どの肖像画よりも素敵で、つい見入ってしまう。


「ひとつ聞いてもいいだろうか?」


 フレドリック様が、クッキーを食べさせる手を止めて聞いてきた。


「なんでしょうか?」

「最近あなたは指輪をしてないが、何か理由があるのだろうか?」


 ぎくり 


 やはり気付かれてしまったか。

 クッキーをもぐもぐと咀嚼しながらフレドリック様を見ると、アイスブルーの瞳が不安そうに揺れている。違うんです、フレドリック様のせいではないのです。いや、原因の一端は担っているかもしれないけれど、そうじゃないんです!


「あの指輪は、結婚当初の私の指のサイズに合わせて作ったものなので、今はめると少々キツいのです……」


 毎日美味しい食事とおやつを食べるおかげで、ガリガリだった私は、以前に比べて肉付きが良くなった。当然、指にも肉が付くわけで……。

 恥ずかしい内容の告白に顔を赤くして俯いていると、フレドリック様は膝の上の私を抱きかかえて立ち上がられた。


「きゃっ」


 視界が急に高くなり、思わずフレドリック様の首元に抱きついた。


「今すぐ新しい指輪を作らせよう。ああ、宝石商を呼ぶより店に行った方が早いな」

「えっ、今からですか?」


 というかお姫様抱っこのまま行くのですか? この状況は恋愛小説には載っていなかったのだろう、珍しく慌てていらっしゃる。


「そうなったら指輪の交換の儀式も必要だな……春になったらもう一度結婚式をあげるとしよう」

「結婚式? 同じ人と二回もですか?」

「ハンナの恋愛小説には、好きな者同士の結婚式は何回やっても構わないと書かれていた」

 

 なんでもありだな、恋愛小説。


「それに……あの結婚式は、あなたにとってあまり良いものではなかっただろう?」


 あ、フレドリック様がまたもや反省モードに入ってしまわれる。正直、既に何度も謝ってもらったし、態度でも示してもらっているので、結婚式をしなくても十分だ。

 けれどもあの時は、ベールのせいでフレドリック様の盛装を全く見ることができなかった。見たい、フレドリック様の盛装姿……。


「やりましょう、二度目の結婚式!」


 ということで、春にふたたび結婚式をあげることになった。

 きっとハンナの恋愛小説を参考に、ド派手な結婚式を用意してくださるのだろう。いつも以上に高価なドレスや宝石が贈られることを覚悟しておこう。

 お姫様抱っこで運ばれながら、二度目の結婚式を想像してニヤける私を見て、フレドリック様も嬉しそうに微笑んでくれた。


 花咲く辺境の春はもうすぐ。


END




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