42:私のヒーロー。
ドSな雰囲気になったリオが、ネクタイの結び目に人差し指を掛け、シュルリと解いた。
――――ふぁぁぁ、かっこいぃぃぃ。
「マキ?」
ぽやぁっとしてリオを見ていたせいで、ドSなリオが普段の優しいリオに戻ってしまった。
体調でも悪いのかと聞かれたけども、すこぶる元気です。
ボーッとなっていたのは見とれていたからだと話すと、リオの顔が真っ赤になった。
「二年半の間に、マキは変わったな」
「そうですか?」
「ん」
恥ずかしさを誤魔化すために、手の甲で口元を隠して話すリオは、以前と変わらない気がする。
私は何処か変わったんだろうか?
「なんとなく、積極的というか……凄く、攻撃力が強い」
「良くわかりましたね! 攻撃魔法得意なんです」
「いや違う……違うが、得意なのか……うん。怖いな」
「えー?」
抗議したかったのに、それよりも、と話を変えられてしまった。
「無詠唱だが、どうやって習得したんだ? もう文献は残っていなかったと思うんだが」
「あ、らしいですね」
魔法の詠唱は、なんか小難しい。
普段使いするような生活魔法さえも小難しい。
精霊にお願いしたり、魔法の現象を詠唱したりと長い。
詠唱することによって、魔力を練り上げて魔法を構築しているのだとか。
たぶん、この世界の人達はそれに慣れているというか、魔法を学ぶ時点でそう教えられているから、不思議にも感じないんだと思う。
私は詠唱を教えられて、ただ復唱しているだけだったから、魔法が全然発動しなかった。
そもそも、その詠唱で何が起こるのかいまいち想像がついていなかった。
魔力を練り上げるというものも、あの頃は全く分かっていなかった。
魔法は、想像を具現化するようなもの。
それならば、言葉にしなくても、心の中や頭で構築すれば、出現してもいいんじゃないの?と思った。
元の世界にそんなコミックがあったから。
「想像するだけで?」
「はい」
無詠唱が出来たとディーノさんに話すと、悩みに悩み抜いて国王陛下に報告することになった。
そして、私の希望もあり、特定の人物にのみ無詠唱を教えることを許可された。
「特定の人物にのみ?」
「はい」
無詠唱が当たり前になると、犯罪も増える可能性がある。
なので、表向きでは詠唱するようにしている。
「私の希望は、『リオにだけ』です」
「っ!? な……ぜ?」
王都に行って、学院に通って、分かったことがある。
リオのおかげで平和なのは、皆が知っていた。
学院の面々は、目指す職業的にもとても良く理解している。だけど一部の生徒や一般の人には、やっぱり畏怖の対象なのだと。
「リオは、私のヒーローですから」
別に祭り上げるとかそういうのではなく、リオに悪い感情を抱く人を一人でも減らしたかった。
凄い人なんだぞ、優しいんだぞ、この世界を守ってくれてるんだぞ、って。皆に知らしめたかった。
本当は私だけのヒーローがいいけど。
「でも、ごめんなさい。魔法騎士の上層の方たちには教えざるを得なくて……」
「マキ、ありがとう」
リオに力強く抱きしめられた。
「マキのおかげで、生きている意味がいくつも出来ていく」
「もう、投げ出さないでくださいね?」
「ん!」
リオの腕に更に力が入った。
ちょっと苦しいけど、リオの覚悟みたいなものを感じるから、ちゃんと全部受け取ろうと、抱きしめ返した。
 




