40:箍が外れる。
紅い宝石から零れ落ちる雫は、とても美しくて床に落とすのがもったいないと思った。だから、リオの頬を何度も拭った。
そうすると、リオが擽ったそうに目を細めた。
――――きれい。
ちょっと背伸びしたくらいじゃ届かないから、包んだ両頬をグイッと引っ張って顔を寄せた。
「マキ……」
「すき」
「っ………………」
あとちょっとで触れ合うと思ったときだった。
リオに両腕を掴まれ、引き剥がされてしまった。
――――あ。
思いが通じた気がしたのは勘違いだったのか、と唇を噛んだ瞬間、リオが唇を重ねてきた。
温かくて、柔らかい。
口づけは徐々に深くなり、熱いものが唇を割り開き侵入してきた。
「んっ……」
「……マキ、鼻で息して」
「っ、ん……ふ…………」
初めてのキスは、予想と違い、どえらく淫らな感じだった。
そして、まさかのそのまま寝室に運び込まれた。
「ずっと、こうしたかった」
「…………」
リオにきつく抱きしめられ…………。
「リオ?」
「…………」
「…………まじか!」
リオが、リオだけが寝た。
それはもう、すやすやと。気持ちよさそうに微笑んで。
――――なんでやねん!
♦♦♦♦♦
マキが出て行ってから、ずっと寝不足の日々だった。
だからといって、ベッドに押し倒して、抱きしめて、今からだ!というときに寝落ち。
「ぶえっつにぃ。おこってませんっ」
ベッドの中でこちらに背を向けてブチブチ言っているマキが、恐ろしいほどに可愛い。
身体を密着させると、くるりと寝返りを打って、胸にしがみついてきた。
――――何だこの可愛い生き物は。
「マキ、大丈夫か? 目眩は?」
「色んな意味で気分が悪いですけどっ! 目眩はありません。体調は悪くないですっ」
「はははは。それなら、今から抱いてもいいか?」
「っ!? ストレートすぎるっ!」
顔を真っ赤にして慌てるマキはとても可愛らしい。
「私は、マキの全てを愛したい」
黒いサラサラとした髪を撫でる。まるでシルク糸のような手触りで、いつまでも手櫛をしていたいほど。
黒曜石のような瞳は、吸い込まれそうなほどに深く美し色だった。
クリーム色の柔肌に手を滑らせると、マキが鼻で「んっ」と可愛らしく喘いだ。
全てが愛らし過ぎて、箍が外れそうだ――――。
スヨスヨと少し不思議な寝息を立てているマキの頭を撫でる。
この娘を大切にしたくて、遠ざけた。
だがそれは私自身はもちろん、マキまでも苦しめた。
お互いのベクトルがズレていた。
本当は側にいて欲しかった。
マキには、それがバレていたのかもしれない。
「マキ。私はマキの人生の全部に、責任を持つ」
マキの言葉は、私の弱い心を貫いた。
『私の人生の全部に、責任持ってください』
あのときマキの声はとても震えていた。
魔力からは、恐怖を感じているときのような揺らぎが滲み出ていた。
「マキ。私の人生の全部で、君を愛し続ける」
直接本人には言わない。
この娘を縛り付けたくないから。
スヨスヨと眠り続けるマキの頬に口付けを落とし、抱き寄せた。




