32:新しい家。
ディーノさんと山を下った。
ある程度平らなところに幌馬車が置いてあり、それに乗るように言われた。
「馬車を用意してくださってたんですか?」
「んあー、念の為な。ないとは思ってたんだが……予想外だった」
「……ありがとうございます」
乗るのは後ろでも御者席の横でもいいと言われたので、横に座ることにした。
この国をちゃんと見て、どんな文化なのか、どんな人たちが暮らしているのか、早急に学びたいから。
「そんなに気負わなくてもいいんじゃねぇ?」
「早く戻りたいから」
「……リオのこと、好き?」
「はい」
「ふっ。即答か」
ディーノさんに苦笑いされてしまった。
そして、これからどうしたいのかと聞かれた。
リオいわく、私の魔力はかなり多いらしい。ただ、センスが壊滅的だと。
だけど、幼児用の魔法は使えた。
ちゃんと基礎から勉強すれば、きっと上達出来るはずだ。
先ずは、魔法を使って自衛できるようになりたい。そして、リオの隣に立てるくらいに強くなりたい。
「なるほどね。それなら魔法学院に通うと良いだろう。入学までは半年あるから、それまでは基礎をみっちり叩き込んでくれる個人教師を雇おう」
褒賞でもらったお金があるから、それを使って個人教師を雇ったり、学院に通えるそうだ。
お金の使い方や価値なども学んでいかないといけない。しっかりと覚えるまでは、ディーノさんが管理してくれるそう。
随分といい年齢なのに、おんぶにだっこ……。
ワタワタしてないで、シャキッとしないと。
城下町に着いてすぐ、不動産屋さんみたいなお店に来た。
ディーノさんのお知り合いらしく、あれよあれよという間に話をつけてくれて、一人暮らし用の三階建てアパートみたいなところを貸してもらえるようになった。
家具備え付けのうえに、住んでいる人は元騎士が多く、色んな意味で安全らしい。まさか防犯面まで気にしてもらえるとは思わなかった。
「ありがとうございます」
「今日は疲れたろう? しばらく休んでおきな。ここらは夕方から屋台が開くからその案内もしたいなぁ……そうだな、七時ごろにまた来るよ。いいかい?」
「はい! ありがとうございます」
玄関先でディーノさんといったんお別れ。
新しい住処は三◯二号室。
室内に入ると、いわゆる2LDKの間取りで寝室が別にあるのが地味にありがたかった。
「今日からここが、私の家――――」
言葉にすると、本当になる。そんな気がするから。
いつまでも後ろ向きはカッコ悪い。
両手でパンと頬を叩き、気合を入れた。
先ずは、荷解き。
寝室のクローゼットに服を入れる。
それで終わり。
「えっと…………こう?」
特に何もしょうがなかったので、ディーノさんが持ってきてくれた幼児向けの魔法の本を取り出して練習。
水球は瞬時に出せるようになってきた。涙くらい小さいのから手のひら大まで、思い描いた大きさで。
それ以上は失敗した時にお掃除が面倒だし。
次は火。焔魔法というらしい。
詠唱は『ファイア』じゃなかった…………。




