表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第10章・復讐者の秘密、解けない愛憎の糸
194/264

第190.5話・茨の血の縛り

・第190話のアナザーストーリーです。



【警告】


・流血の表現あり (刃物のシーンあり)

・残酷なシーンあり


上記の表現が苦手な方は、ブラウザバックを推奨致します。

お進みなる方は以上の事を注意を払いながら読んで下さると幸いです。



狂気に狂った彼女が、

誰なのか、最早、判別出来ない。

目の前に居る女は、実娘でも、異父姉でもない。


(この女は、誰?)


色白の肌に優美で端正に整った顔立ちを持った人形。

知っている女の筈なのに、自分自身が知っている女は

何処にもいない。


鋭い刃が迷いなく

此方に振り下ろされた刹那に、繭子は、咄嗟に目を閉じた。

憎悪、恐怖心、様々な感情を入り交じる。



けれども名前のないこの感情は言葉には表せなくて、声帯が凍り付いた。


ただひとつ、思った。

もう、終わりだと。


しかし、痛みは別の形で、思った。


ドス、と心臓に凄まじい音が立つ。

物理的に刃で刺さされた訳ではないのに、狂気の衝撃は繭子を恐怖心と共に貫いた。



恐る恐る瞳を開けると、繭子は、目を見開いた。


理香の白い首元は赤色に染まっていく。

その透き通りそうな色白い肌は、狂気に満ちた鮮血が染め上げていく。

その人形の様な面持ちに浮かぶのは、

憂いを交えた据わった表情と、怜俐で凍り切った冷たい瞳_____。



「どう? これが本望?」


「……………」

「あ、でも。

私がいなくなったら、貴女の人生計画が潰れるわね」


嘲笑ように言う理香。繭子は凍っている。

何をやっている? なんのつもりでこんなことを。

けれど初めて見た娘の狂気を前に、繭子は動く事は出来ない。


「…………嫌いよ。

貴女の顔を見るだけで、虫酸が走るわ」


理香は、呟く。

目の前に居るのは母親という名の悪魔。

繭子の顔が視界に入るだけで、憎しみが煮え(たぎ)る。



絶望に凍り付いた蜂蜜色の瞳は、狂気に狂った嘲笑いを、

その絶望仕切った面持ちに浮かべて、未だに利き手で、

自らの白い首元には刃が向けられている。


その刃物は理香の首元を鮮血に染まらせ、傷付けていた。



異様な光景。



(案外、怯むのね。……意外だわ)


虚栄心にも似た強気な悪魔の化けの顔を剥がせば、

その素顔は意外にも冷める感情を覚える為に怯えた表現が待っている。

それは娘が、自分自身を現す事はなかったからか、単に驚いているだけか。


傷は浅くしたつもりが、やはり傷を付けた左首筋は痛みが走る。

しかしこんな悪魔を脅す材料になるのなら、こんな痛み等、どうでもいい。

悪魔を脅し、その怯えた表情(かお)を見る為、感情を揺さぶる為の道具。

これは演技なのだから。


(まだこんな前菜で怯んでいたら、息なんか出来ないわよ?)




「ひっ………!!」


自身の身の回りを確認したが、自分自身は全くの無傷だ。

繭子が恐怖心の表情を浮かべて眉を潜めると嬉しそうに狂気に狂った娘は嘲笑った。

そのまま、堂々と歩いて近付いていく。


そして、

そっと血に染まった刃物の刃先を指先で沿(なぞ)ると指先に付着させると、ぽかんと開いた繭子の口に注いだ。



刹那的に口内に広がる鉄錆の血。


けれども単なる血液の味じゃない。



(むせ)る苦く、苦く、全く温かみのない冷たい鉄錆。

ぽたり、と喉元に血が伝った刹那に、喉元に言葉には出来ない衝撃の残響が走り凍り付いた。

それは、形のない刃。血のふりをした猛毒。


この娘は、何処まで冷酷非道で、残酷なのだろう。

掴めない表情は、何を意味するのだろう。



無慈悲な冷たさしかない温かみのない血液から、繭子は思った。

この女には本当に人間の血が通っているのだろうかと。

本当にあの日、自分自身は人間を産んだのかと。


まるで毒の様な赤黒いそれは、吐き出したくなる程の衝撃に駈られた。

眉間に皺を寄せながらも睨み付けると、理香は益々、嘲笑う。



闇色に染り

深まっていく微笑を浮かべながら、理香は呟く。


「………貴女が、憎しみを抱いた女の血。

佳代子の、心菜(わたし)の血よ。自分自身が憎しみに憎んだ女の血の味はどう?」


冷たい嘲笑いが、穏やかな微笑に変わった。

その読み取れない微笑に、身動きが出来ない

にっこりと微笑し首を傾けながら、理香はもう一度だけ問う。



「後味が悪そうね。今にも吐き出したいでしょう?

でもそうさせない。苦しみなさい。

そして味わいなさい。



ねえ、もう一度、聞くわ。


________どう?

自分自身が憎しみが抱いている女どもの血の味は?」


(______気持ち悪い)


確かにこれは、椎野理香の、心菜の血液だ。

けれども血縁上から佳代子の血液の一味だって含まれている。

この鉄錆の味は憎しみが詰まっているのだ。



忘れる事等出来ない味が窮屈さを感じさせた。

飲み込めば喉が焼けそうだ。焼き付いて灰になってしまいそうになる。



首が、絞められそうだ。










「貴女を殺めると思った?

残念ね。貴女如きに、この手を汚したくはないわ。

せいぜい、その憎しみの味を噛み締める事ね。____憎しみの味を」




どうして、26年間生きてきて気付かなかったのだろう。


この鉄錆の縛りから逃れはしない事を。

そして、この悪魔しか知らずに生きれはしない事を。

猛毒の茨が張り巡らせた温室の箱庭に。


自分自身と悪魔、佳代子は

切っても切れない茨で、繋がっている。

森本の血の縛りは、自分自身と悪魔と生きている限り

千切る事は出来ないだろう。

だから。


(貴女、森本家以外、知らされる事は許されない。

この穢れた血が、誰かを苦しめるというのなら………)


自分自身が、

この血を、()ち切って、終わらせてしまおう。







【補足】


・理香は、左利き。



【お詫び】


物語の構成上とはいえ、

読み手の方々のご気分を不快に

感じさせてしまった事実は変わりません。


改めまして

ご気分を不快に感じてさせてしまった方々に

お詫び申し上げます。申し訳ございません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ