第191話・母親が消える、見えない謎
これからは
『第187話『薄気味悪い人』の後のお話となり
これからは、芳久が母親の死に迫る視点となります。
順序が不順で申し訳ございません。
勿論、理香の行方を追いますが、
第187話までお話を
巻き戻しながら、お読み頂けると幸いです。
_________高城家、芳久の自室。
6畳の程の部屋は、豪邸・高城家では最も小さい部屋だ。
芳久は高城家から、父親から冷遇されていたので
『予備の人間』として与えられたのは、この空間だけ。
ブラウンを基調とされた部屋は
ベッドに机、中サイズの本棚と、何処かレトロな雰囲気漂う、
殺風景な部屋だが物は綺麗に整理整頓されている。
芳久はあまり自室で過ごす時間は少ないせいか、
未だに微かに、新築された。木の香りが佇む。
そんな中で、机に向かう芳久の表情は何処か、何かを憂う表情だった。
(まだ、良かったのかも知れない)
継母が無干渉で、
自分自身を疎ましく思っているからこそ、
母親だけの死の真相に専念が出来る。
余所見なんて良いのだから。
継母の冷遇は、今の芳久にとって都合が良かった。
下手に何かを探られてしまうよりも、良く思われず
疎ましく冷遇されたままの方が。
寄り道をするつもりはない。
(しかし、女王様気分だね)
父親が長らく囲っていた愛人。
彼女は有名ホテルの最高峰である、プランシャホテルの理事長の妻に早く成りたがって違いない。
その心情は呼吸をする様に分かる。
そのドス黒い思惑が今になって表に現れているのだから。
高城英俊の、プランシャホテル理事長の妻となってからの
美菜の態度は女王の様に横柄で、してもらって当たり前、感謝の気持ち等、失せている。
(母さんを、殺したのは誰だ?)
英俊にとっても、美菜にとっても、優子は邪魔な存在だった筈だ。
前者は愛人に虜にされ、妻にはもう眼中がない。
後者はどうしても、英俊の妻、プランシャホテル理事長の妻という黄金の椅子に座りたかった筈だ。
どちらにしろ、二人にとって“高城優子”という存在は消えて欲しかったに違いない。
けれど、計算高い美菜はあざといので、
英俊から見放されない為に、優子を邪魔に思う気持ちは隠していたつもりだ。
(けれど、痺れを切らした)
あのレコーダー音声の聞く限り、美菜は焦っていた。
計算高く愛人を虜にしていた女が、それは何故だ?
芳久は、デスクの引き出しを開けると
引き出しの縁にはダイヤル式の留め金がある。
ダイヤルの数字を合わし留め金が外すと新たな箱のスペースが顔を現した。
マトリョーシカ風に芳久が作った、秘密の隠しデスクの箱だ。
其処にはあの、
芳久の心に復讐心の火を付けた万年筆型のレコーダー。
そして何枚の書類。
氏名:高城美菜
探偵に依頼していた、高城美菜の身辺調査表。
美菜の素性や経歴は意外なものとしか言えなかった。天涯孤独の身。
養護施設で過ごし養護施設から自立した後は
夜の世界での妖艶の蝶、キャバクラ嬢となり、
誰もの心を掴む容姿と人懐っこい性格や立ち振る舞いを生かし、勤務していたキャバクラではNo.1キャバクラ嬢に君臨していた。
露出度の高いドレスに、
身を包んだあどけない表情を浮かべている美菜が写っている。
それを無情な瞳で見詰める芳久の眼差しは、複雑化している。
『養護施設で暮らしていた頃、
彼女には、月に二回、“とある女性”が来ていたそうです』
『女性ですか?』
『ええ、施設長が言うには、『母親だと思う』だとか』
美菜が預けられた理由は不明だという。
ある夏の日、施設に現れたのは赤子を抱いた女性。
ただ赤子だった美菜をを預かって欲しいと、女性は泣き崩れていたらしい。
虐待してしまいそうだ、という女性の言葉に根負けした施設長は赤子を預り育てる事になった。
そんな美菜の元には二回程、毎月、女性____母親が来ていたらしい。
娘と再会した時、母親は彼女を猫可愛がりして、
沢山の玩具をプレゼントとして持ち込んでいた。
しかし、美菜は年を重ねる事に、心は荒んで行った。
それは自分自身の素性や立場、母親という女性に反発の現れだったかも知れない。
母親かも知れない女性を避ける様に、自分自身の素性を忘れる為に、夜遊びに明け暮れていたという。
18歳になり、
まるで逃げるかの様に養護施設を去った後の彼女は行方不明。
それを知らずに彼女に会いに来ていた女性は、
美菜が養護施設を去った事実を告げると、泣き崩れて『何故、守ってくれなかったのか』と暴れたとか。
軈て、女性も来なくなり、女性とも美菜とは音信不通。
美菜が英俊と出会ったのは、
時折にして訪れるあまり人目のない夜のバーの常連客だった美菜を見付けた美菜に英俊が一目惚れしたそうだ。
一目惚れした英俊を利用してご機嫌を取り、
彼を自分自身へ溺愛させ愛人の地位に座り込み、秘書という役職も手に入れた。
という事になる。
美菜が秘書となり、
親密な関係になったと思い込んでいたが違うらしい。
英俊は美菜の素性や身辺を知らない。
それを聞いた芳久は、父親を嘲笑った。
短絡的な性格なあの人らしいと。
けれども、芳久は疑問だった。
何しろまだ英俊と出会った頃は美菜は20代だった筈だ。
今年、32歳の誕生日を迎えるだろう。
20代の彼女が、
30歳も離れた男性に結婚を迫るだろうか。
最高峰のホテル理事長という肩書きが魅力だったとはいえ_______。
早く嫁入りしたいから。
出産年齢が迫っているからという女性目線の焦りは見えない。
英俊はきっと、
その時に美菜の心情と本性を知ったに違いない。
英俊にも妻を消さなければ成らぬ、事情があっとは思えないので
愛人に逃げられる、と懸念した焦りから、優子を消す事を決意したのだろうか。
(プランシャホテルの理事長の妻、というブランドが欲しいならば
簡単に逃げたりしないと思うんだけどな………)
その時、
初めて知り得なかった利害が露になり一致したのか。
こつ、こつと指先で、机に指先を鳴らす。
その無情な残響が、小さく響いた。
どれだけ思考回路
を巡らせても、中々、答えは出ない。
高城優子を消すキーワードは、なんだったのだろうか。




