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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第8章・追う度に深まる謎
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第104話・復讐者の困惑、変えられない素性



私は、だれ。



私は、何者?




そう考えては、正気を失う。







呆然と歩いた。

まるで世界から隔離されたみたいに何も聞こえず、

何も気にならない。理香は呆然と家路に向かってからの事は何も覚えていない。



『___体調が優れないので、暫く休暇を頂けませんか』

『ああ、良いとも。椎野君、君はまた有給も1日も消化していないし、働き詰めだからな。たまにはゆっくり休みなさい』

『___はい、ありがとうございます』


こんな体調と調子では仕事に身なんて入らない。

顧客にも迷惑をかける結果になる。それに、完璧にこなせない自分自身に嫌気が差すだけだ。


ベッドに身を投げて、微動打もせずに理香は過ごす。

何する気も起きない。体が空っぽになり動く気力なんて出ない。だが。そんな無情な中で、凄まじい衝撃だけが残っている。




『___心菜は、俺達の娘だろう』


嗚呼。

長年の、心の何処かで思っていた謎が解けた。


何故、母親の元に居るなのか。

自分自身の父親は誰なのか。繭子の罠に嵌まった男は誰だったのか。

生きていくのに必死だった中、何処かで気になっていた。




小野 順一郎。

彼が、自分自身の父親か。


だとしたら。



(____千尋は、私の異母姉なのね)



小野 順一郎の娘は、千尋だ。

彼女は昔、自分自身を虐めていた首謀者。

高校生になるまで彼女からずっと虐められていた。


彼女が、異母姉だなんて。


本当の父親も、異母姉も

出来れば信じたくも、認めたくもない。

異母姉とも知らずにいて、彼女と接していた。

まさかとは思っていたが、世の中は広い様で狭いからか、何処かで因縁が繋がっているみたいだ。


整理してみれば、森本心菜は小野千尋とは腹違いの姉妹で

あの小野順一郎の娘でもある。ならば。

自分自身は資産家の一族の一味だ。


(…………知っているのは、あの人と私だけ?)


千尋はこの事を知っているのだろうか。

知っているからいじめていたのか、それともあの日々は単なる偶然だったのか。

それともこの事実を知るのは、繭子と順一郎の間だけなのか。



幾ら考えても、何も知らない理香にとっては

答えが出ずただ自問自答するだけだ。



順一郎が何を執着しているのかは分からない。

繭子なのか、娘である自分自身なのか。


でも。結局、繭子は母親と同じ行動をした。

不倫の末に自分は、生まれた。

自分自身は、めかけの子供。


分かっていた筈だ。

分かっていた筈なのに。

あの悪魔から自分自身の仕組まれた黒い出生の秘密を聞かされ

受け入れていた筈なのに、いざと直面すると脳裏に深く衝撃を残した。


心菜は失踪扱いで

自分自身は全てを捨てた上で、椎野理香を装ったから

自分自身の森本心菜だなんて誰も知らないだろう。

誰もが追い求めているのは“椎野理香”ではなく“森本心菜”で自分自身ではない事が救いか。



(どれだけ装ったとしても、私は)


(____森本心菜だった事には代わりないわよね)



どんなに知らぬふりをして

黒く塗り潰しても、過去と素性は捨て切れない。




_____プランシャホテル、エールウェディング課。


青年が主任から渡されたのは、かなり分厚い紙の束。

顧客の氏名と希望表、予定表がずらりと並んでいる。



「椎野君の代わりを頼むよ」

「解りました。………椎野さん、何かあったんですか?」

「体調不良で休暇を取っている」

「………そうですか」


理香の担当予定だったウェディングプランや予定の代わりは、

エールウェディングでの営業成績を一位二位と争う、髙城芳久が勤める事になった。


流石にライバルともあり、

ウェディングプランナー、椎野理香を望む顧客は非常に多い。




ちらり、と椎野理香のデスクに視線を遣る。

綺麗に整頓され、最小限の物しか置かれていないデスクに麗人と呼ばれる彼女の姿はない。

ぼつん、とデスクだけが佇んでいるだけだ。

主のいないそのデスクは、何処か寒く寂しげだった。




あれから、彼女が休暇を取ってからもうすぐ二週間。

彼女は走り過ぎた分、疲れが来たのかも知れない。

体調が悪い時に連絡も迷惑かと思い控えていたが、

彼女がこんなに休むなんて大丈夫だろうか。


出来るならば休める時には、休んで欲しい。

けれどエールウェディング主任へ休暇の連絡があったきりで、

椎野理香の音沙汰は全くないままだ。


(___普段通りなら、良いけどな)



メールで、大丈夫?とだけ送った。




椎野の表札の下に供え付けられているポストには、

郵便物が少しだけはみ出していた。


ポストの中は郵便物で

一杯になり、隙間も無くなってきているからだ。

何時も几帳面な主が、郵便物を無視出来るなんて事はない。



しかし、主はポストの中など、どうでも良かった。



現実世界から遮断して、ただ自分自身の殻に籠る。

呆然自失として気力を失い、ただぽつんとしていた。

あれから気力がないまま、捨てられた人形の様にベットに佇むだけ。


瞳は光りと覇気を失い、顔は窶れの色が伺える。

何をする気力もなく、ただ衝撃に撃ちしがれていた。



理香は

ふと手を伸ばし、探偵から調べて貰った

森本心菜の調査表をぼんやりと見詰める。


その中には、森本心菜の戸籍謄本が入っていた。

母親と娘だけの戸籍謄本の欄。他の者の名前は記載されて等、いない。

自分自身は森本繭子の娘、としか肩書きがない。


己の欲望の為に、彼をそそのかし、娘を作ったが、

生まれた娘は異父姉に生き写しで気に入らなかった。

仕組まれた上で、生まれたじぶんじしん

どす黒くて吐き気が来る様な話だ。


心の中で言葉には出来ぬ、漆黒の憎悪が増していく。

本当はあの女の娘だなんて、信じたくない。

けれど、これは現実だ。


だが。



(____本当なのかしら?)



自分自身は、本当に小野順一郎の娘なのか。

はっきりとした確証が欲しい。けれど、あまり接点すらないので調べるのは無理だろう。


不意に携帯端末を見る。

自分自身の殻に籠る前に、外界と遮断したいと思い、

携帯端末の電源は切ってあった。何日かぶりに何気なく電源を入れる。



着信はあまりない。

森本繭子からのしつこい電話着信や、メッセージ。

しかし他には、ただ一人違う人物の着信があった。



“__大丈夫? 疲れた分、ゆっくり休んでよ”



ただそれだけ、芳久から届いていた。

仕事をすっぽかしているというのに仕事に触れないのは彼の気遣いだろうか。

ありがとう、とだけ返した。




自分自身の人生は何処までも、非情の様だ。

けれどその非情さが自分自身へ、終わりを迎えてくれる事を

青年は傍観者の様に見詰めていた。



「__左脳前頭葉付近に3センチ。前よりも肥大していますね」

「………そうですか」


医師は険しい面持ちで、そう告げる。

芳久は視線を向けた。目の前にあるのは、脳のMRI画像だ。

医師の言う通り、左脳の前頭葉には白い陰が存在感をあらわにしていた。


耐え難い頭痛を覚える様になったのは二月前ふたつきまえ

片頭痛かと思っていたが念の為に、誰にも言わず自分自身だけの秘密として、病院へと行き、受診した。

その結果。



「___高城さん。貴方の脳に悪性の脳腫瘍があります」




現実は残酷だ。

けれど、芳久は何処かでこの宣告を納得している面があった。



(___誰かを泣かせて、苦しめてきた罰かも)



母親は、髙城の予備と扱われる次男として生を受けた

自分自身の立場を思い苦しんでいたし、芳久の身を案じて誰にも知られずに泣いていた。

兄は兄で期待を受ける自分自身とは反対の、疎外された自分自身を心配していたらしい。


結局、自分自身も父親と変わらない。

誰かを苦しめた罰が今、来たんだろう。



「前の受診から、進行が早い。腫瘍は肥大しています。

早めに決断をされた方が宜しいかと」

「___分かりました」




“決断”という事は、手術という事か。



そう宣告された事に、芳久の心は無情化していく。




手術するかと問いかけられたら

今の芳久は“NO”と決断を下すだろう。


そして、思ってしまった。



(___自由な世界に、

母さんと兄さんの居る場所に行きたいなんてさ)


診察を終えて、

そう思った思考に芳久は自分自身を嘲笑った。







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